第70話 死にたくない
「何を言って……」
グゥベェの言葉に思わず我が耳を疑う。
彼は今なんと言った?
私と二人で、人間の王族を殺したと言ったのか?
「やはり、アムレが人間から聞いた情報は事実だったのですな」
ガンゼーの声が低くなる。
その声には……殺気が籠っていた。
「如何に魔王が魔族の王であろうとも、我々魔族は魔王の玩具ではない。勝手に戦争をしかけ、あまつさえはこの状況。どう責任を取るつもりだ」
言葉遣いもガラリと変わる。
それも当然だろう。
先程までの、嫌疑を疑っていただけの状況とは違う。
グゥベェの言葉で確信を得た今。
彼にとって私は最早魔王ではなく、憎き裏切り者でしかないのだから。
「な、なに馬鹿な事を言ってるのよグゥベェ!冗談にしたって笑えないわよ!」
私は叫ぶ。
恐らく悪ふざけなのだろうが、今の雰囲気は不味い。
それまで黙って状況を見守っていた他の魔族達からも、殺気が立ち昇っているのが伝わって来る。
このままでは本気で、冗談で済まなくなってしまう。
早く彼らの誤解を解かなければ……
「冗談?何の話だい?」
「グゥベェ!?悪い冗談はやめて!!」
グゥベェにはこの雰囲気が分からないのだろうか?
まだ子供だから?
焦る私を他所に、グウベェは愛らしく首を捻る。
とにかくこれ以上は不味い。
何としてでも、誤解を解かなければ――
「ラミアル。茶番は結構だ。お前には魔王たる資格はない」
魔族達が一斉に魔法の詠唱を始める。
完全に私を殺す気だ。
――不味い。
――まずいまずい。
――まずいまずいまずい。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
「お前の首をもっていけば、人間との和解の可能性もあるだろう。此処で死んで貰うぞ」
どうすれば……どうすれば……焦って思考が纏まらない。
早く何とかしなくてはいけないのに、体が震えて息が上がる。
グウベェに視線をやると、楽しげに此方を見て笑っていた。
なんで?
どうして?
私を裏切ったの?
ずっと……ずっと一緒に頑張って来たのに。
どうして……
「ラミアル。ぼーっとしてると殺されちゃうよ?」
グゥベェの声にハッとなって私は咄嗟に身を躱す。
一瞬前まで私の居た場所を、ガンゼーの魔法剣が薙ぎ払った。
「殺さないと……やられちゃうよ?」
「く……グゥベェ……」
そんな状況にしたのは誰よと叫びたいところだが、今はそれどころではない。
私は襲い掛かって来たミノタウロスバーサーカーに魔力を籠めた拳を叩き込み、粉砕する。
今はとにかく、目の前の事に集中しよう。
グゥベェの事は後回しだ。
「くそっ!」
状況的に、彼らを殺さなければ場は収まりそうもない。
同じ魔族を手にかける様な真似は出来れば避けたかった。
――それは只の誤解なのだから。
でも……でも私は死にたくない。
死にたくないんだ。
……だから、覚悟を決める。
私は
襲い来る
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