第69話 裏切り
「魔王様、一つお伺いしたい事がございます」
帰って来たアムレから齎されたという、グヴェルという化け物の報告を聞き。
どうするべきかと思案を巡らしていると、ガンゼー・マッコウが口を開いた。
「何?」
「アムレからはもう一つ、報告がございまして……」
私はどうしても外せない政務が在ったため、まだ彼女にはあっていない。
化け物の報告は、先に事情を聴いた参謀のガンゼーからのものだった。
「なんでも戦争の発端は、魔王様が人間の国へ赴き宣戦布告を為されたからと」
「…………え!?」
一瞬ガンゼーの言葉が理解できなかった。
私が宣戦布告?
寝耳に水も良い所だ。
「そこで魔王様が人間の王達を殺した結果、今の戦争になったと。そうアムレは人間側から聞いたそうです」
「そんな物、言いがかりに決まってるでしょ!?」
宣戦布告どころか、私は人間達の領域に行った事すらない。
大方、自分達の条約違反による侵略を正当化する為の出鱈目だろう。
そんな物を真面目に取り合うなんて……アムレもガンゼーもどうかしている。
まあアムレはレウラスさんを失って、今は正常な判断が出来ない状態だから仕方ない事ではあるけど。
父の死んだときの事を思い出す。
あの時、私にはグゥベェがいてくれた。
それでどれだけ救われた事か。
とにかく、政務が終わり次第彼女の見舞いに行ってあげよう。
私が彼女の力になってあげなくては。
「しかし、人間側の主張では小さな赤毛の魔獣を連れていたとの事」
ガンゼーが私の足元に居る、グゥベェへと視線を移した。
「魔王様の情報は基本的に秘匿されているので、人間達はその事を知らぬはず。にもかかわらず、魔王様の魔獣を知ってたという事は……それに人間達の王が殺された日と、魔王様が1日休みでお出かけになられていた日。その日が完全に一致しております」
ガンゼーが視線を戻し、私に疑わし気な眼を向ける。
どうやら彼は、私がやったのでは無いかと本気で疑っている様だ。
馬鹿馬鹿しい。
しかし人間が私の情報を知っていた事は確かに気になる。
考えたくはないが、裏切り者がいるのかもしれない。
「魔族の中に裏切り者がいるみたいね。それも、私の休日の日程を把握できる立場の裏切り者が」
「裏切り者……ですか?」
「ええ、そうよ。そいつから得た情報で、人間達は条約を破った侵略に都合の良い脚色を加えたに決まっているわ」
人間が自分達の行動の正当性を、勝手に主張するのはこの際どうでもいい。
問題は、私に近しい魔族の中に裏切り者がいるという事実だ。
外的要因は比較的対処しやすい。
だが正体不明の裏切り者に内部から食い荒らされた場合、気づくのが遅れれば手遅れになり兼ねないだろう。
早急に見つけ出さないと。
「裏切り者とおっしゃられますが、その者は魔族を裏切って何を得ようというのです?魔族と人間は、長らく敵対してきました。魔族が敗れれば、生き残った者のその後の境遇など容易に想像できるはずです」
「それは……」
魔族と人間は常に敵対して来た。
その歴史は長い。
戦争に完全に負ければ皆殺し。
もしくは良くて奴隷だ。
それを考えると、確かに魔族が人間に
「我々はこう考えているのです。負けて得るものがない以上、裏切り者は勝つ事前提で裏切ったのではないかと?」
「勝つ事前提?」
「勝手で尤も利を得る物……それは魔王様ではありませんかな?」
「馬鹿な!?何を言っているの?」
思わず玉座から立ち上がり、声を荒げてガンゼーを睨みつけた。
先程からの態度や物言い、どうやら彼は本気で私がやったと決めつけている様だ。
「勝てば、全ての頂点に君臨される事になる訳ですからな。今座している席だけでは飽き足らず、この大陸全ての覇を欲した。そんな所でしょうか?」
私はそんな物など求めていない。
殺し合いなど……誰が求める物か。
だいたい今は完全に劣勢だ。
勝つ前提で動いていたなら、こうも容易く追い込まれるわけがない。
「私がかつ前提で戦争を始めたというんなら、そもそも開戦時の奇襲など喰らってはいないわ」
予定されていた物なら、もっと上手く戦線をコントロールしている。
なにせ私には千里眼があるのだから。
「奇襲に備えなかったのは、あえて知らない振りをされたのでは?自分が勝手に宣戦布告した事を、周りに悟られない様にする為に」
「ふざけ――」
「ははは、どうやらバレちゃったみたいだね。ラミアル」
私の言葉が、可愛らしい声に遮られる。
声は足元からだ。
見ると、それまで黙って座っていたグゥベェが立ち上がり、此方に笑顔を向けていた。
私はその笑顔をみて、背筋に悪寒が走った。
まるで心臓を鷲掴みにされた様な……
今まで一度も見た事の無い、グゥベェのその邪悪な笑みに――
「グ……グゥベェ?何を……」
「君達の言う通り。僕とラミアルで人間の王族を殺して戦争を始めたのさ。目的は……当然世界の征服だよ」
突然の彼の言葉に、私は我が耳を疑い呆然とする。
これはきっと……何かの間違いに違いない。
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