第68話 決着

「くっ。化け物め……」


笑顔で近づく俺にアムレが毒づいた。

誉め言葉として受け取っておくとしよう。


「さて、覚悟は出来ているかな?」


「アムレ。お前達は逃げなさい。こいつはどんな事をしても、私が喰いとめる。その間に」


夢絵空事だな。

レウラスの実力は、どう見積もってもベリアルより多少上程度だ。

逃げる切るだけの時間を稼ぐのはムリゲーもいい所。


まあ仮に逃げられたとしても、空間転移で追いついて殺すだけだ。

俺は時間系の能力は使わないと言ったが、空間系能力まで縛るとは一言も言ってないからな。


「お供します」


魔族の2人がレウラスの横に並ぶ。

その顔からは、もう先程の恐怖の色が消えていた。

死を覚悟した良い目だ。


仲間や種族の為に命を賭けて戦う。

そういうのは嫌いじゃないぞ。


「意外だよ。魔族はもっと戦う事しか考えていない、脳筋で自分勝手な連中とばかり思っていたんだがな。良いだろう。お前達の心意気を汲んで、アムレだけは見逃してやる」


「その言葉が真実なら有難い」


「何を言ってるんですか!伯父様!そんなの嘘に決まっています!私も伯父さまと一緒に!」


信用が無いのは悲しい事だ。

まあ俺の戯言を信じる方がどうかしてると言えなくも無いが、どちらにせよ全滅必至の状況下だ。

此方の言葉に賭けて見ても罰は当たら無かろうに。


「アムレ。誰かが活きてグヴェルの事を伝えなければならない。このままでは魔族は、この化け物にいい様にされ兼ねん。頼む……」


「伯父様…………分かり……ました……」


まあ本人がどうしても死にたいというなら殺してやっても良かったが、どうやらこの場から逃走する方向で話は纏まった様だ。

だが、逃がすに当たって条件は付けておかなければな。


「ああ、逃がすに当たって一つだけ条件がある。俺の存在を話すのは構わない。だが、グゥベェの正体が俺である事は黙っていて貰おう」


「ふ……ふざけるな!!」


ふざけてはいない。

俺は至って大まじめだ。

正体がばらされたのでは、ネッド対ラミアルの戦いに魔獣として参加できなくなってしまう。


それではつまらないからな。


「それが受け入れられないなら、お前も殺す」


本来皆殺しの所を見逃してやるんだ。

それ位は約束して貰わないと。


「誰が――」


「アムレ……頼む……」


アムレの言葉を遮って、レウラスが苦し気に言葉を絞り出した。

俺の出した条件は、魔族に対する裏切りに近い物だ。

奴からしても、そんな条件を姪に飲ませるのは屈辱以外の何物でもないのだろう。


「魔族の為だ。堪えてくれ……」


「……分かりました……」


「交渉成立だな」


まあ交渉などは別にしてはいないが、何となく言いたかったので言ってみた。

アムレは憎しみの籠った目で俺を睨みつけるが、俺はさっさと行けと手を振って彼女の逃亡を促す。


「伯父様……それに、皆……さようなら」


「ええ、後の事は頼みましたよ」


アムレが走り去っていく。

その姿を、俺は腕を組んだまま黙って見送った。


ここで手が滑ったと言って、背後から彼女に魔法をぶちかすのも面白そうではあったが……まあ止めておいてやるとしよう。

俺は優しいからな。


「まさか本当に見逃してがして貰えるとはね」


アムレの姿が完全に見えなくなったところで、レウラスが口を開いた。

どうやら俺の行動が意外だったらしい。

まあ、見るからに嘘つきそうなビジュアルをしてるからな。

俺は。


「問題ない。誇り高い魔族とやらは、嘘をつかないのだろう?」


まあ魔族の命運がかかった情報だ。

誇りも糞も無く約束を破る可能性は高いが、それでも問題ない。

グゥベェの秘密を話そうとするなら、その時は話しきる前にアムレを殺せばいいだけだ。


要は、きちんと見張っていればいいだけの事だった。


「では、処刑再開だ。覚悟は良いか?」


「ああ。だが簡単にやれるとは思わないで貰おう!」


最後まで戦う心意気は買うが、勝負の終わりは既に見えている。

強制敗北イベントをだらだら続けるつもりはない。

俺はそのまま奴らへと突っ込み、相手の攻撃をガン無視して拳を振るう。


魔獣が臓腑をまき散らしながら吹き飛び。

俺の動きに対応できなかった二人の魔族もそれに混ざる。

残すはレウラスのみ。


流石に奴は良い動きをする。

だが、遅い。


「ぐっ……ぅ……」


俺の手刀がレウラスの胸板を無慈悲に貫く。

勝負ありだ。


俺は奴の体から腕を引き抜き――


「かんたんには……しな……ない……」


奴が最後の力を振り絞って俺に抱き着いて来た。

引き剥がすのは簡単だ。

だが、その覚悟に免じてあえて受けてやる事にする。


レウラスの体が強く輝き、閃光を放つ。


彼の体はボロボロと崩れ、消滅していく。

自らの内から放たれる破壊の閃光によって。

そしてその光は俺を飲み込み、辺りを原子の塵へと返した。

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