第67話 連携プレイ

「はぁっ!!」


後方の一人に飛び掛かった所を、レウラスに素早く迎撃される。

痛み自体は無かったが、不安定な体勢だったせいで体が吹き飛ばされてしまった。

俺は地面を片手で弾き、その勢いで回転して着地する。


「ほぉ、思ったより速いな」


冗談抜きで感心だ。

俺はこいつの能力を過小評価していたらしい。


ネッドと戦わせるつもりだったのだが、テオード抜きでアムレとレウラスの2人を相手にしていたら、ネッドが殺されていた可能性は高い。

そう考えると、こいつらが律儀に約束を守ったのは幸運だったともいえる。


――とは言え、もう今更お仕置きを中止する気は更々無いがな。


襲い掛かって来る2匹の狼型の魔獣の首を軽く刎ねる。

スピードはそこそこ速いが、ゴミの様な魔獣だ――なにっ!?


首を刎ねた魔獣の体が突然破裂し、熱と衝撃を辺りに撒き散らした。


「ちっ!自爆する魔獣か」


魔獣の中には、死ぬ際自爆して相手を巻き添えにするタイプがいる。

どうやら今のがそうだった様だ。


視界の端に影を捉えた。

ベリアルだ。


爆発で上がった粉塵に紛れ、異界の魔獣は此方に攻撃を仕掛けて来た。

俺は右手を掲げる様に振り上げ、辛うじてその槌を受け止める。

だが変な体勢で受けたため、奴の凄まじいパワーに押されて足が地面にめり込んでしまう。


「っ!?」


ベリアルの影から更にもう一体が姿を現した。

そいつは俺の一瞬の硬直の隙を狙い、容赦なく腹部目掛けて槌を振るう。


「ちっ」


俺は肘から伸びる長い爪で槌を弾きつつ、沈んだ足で地面を抉る様に蹴って横に飛び、ベリアルの抑え込みから脱出する。


「成程、見事な連携だ」


この肘にある謎の部位が無ければ、危うく直撃するところだった。

まあ喰らった所で大したダメージではなかったが……


しかし本当に見事な連携だった。

自爆を目くらましにして、ベリアルでその隙を突いて此方を叩き潰す。

高耐久のベリアルだからこそ――自爆を無視して――出来る戦い方だ。


今のがネッドなら、間違いなく3段階トリプルアクセル案件だったろう。


「同じ奇襲が2度も通じると思っているなら、大間違いだぞ」


今度は4匹の狼が俺に迫る。

だが種が分かればどうという事はない。

要は近づかせなければ良いだけの事。


俺は足元に転がる石を衝撃で割れないよう、器用に狼に向けて蹴り飛ばした。

石は全て狼の眉間を正確に貫き即死させる。

その後爆発するが、距離が開いているので煙幕にもならない。


「怯むな!続けて魔獣をけしかけろ!」


それを見て一瞬魔族側の動きが止まる。

だがレウラスの檄で、即座に止まった時間が動き出した。


今度は6匹。


多少数を増やしても無意味だ。

再び石を蹴りつけようとして――やめる。


飛び道具での対処は簡単だ。

だが俺はあえて狼の群れに突っ込み、その腕を振るって狼どもを薙ぎ倒す。


相手の戦術を潰すのは小物のする事。

ラスボスがやる様な事じゃない。

今俺がすべき事は、圧倒的な力で弱者ザコ共を薙ぎ倒す事だ。


ベリアルの槌が飛んでくる。

俺はそれをあえて防がずに頭部で受けた。


軽く頭をはたかれたかの様な痛みが全身を――まあ突き抜けたりはしない。

次いで腹部に槌が命中し、軽い腹パンを受けた様な痛み――を無視して、吹き飛ばされないよう地面に足をめり込ませてその場に留まった。


さて、俺に痛みを与えてくれたお礼をするとしよう。

俺は自らの手に魔力と闘気を纏わせ、体に叩きつけられたそれぞれの槌に拳を叩きつけた。


「ぎぃぃぃぃぃ!?(馬鹿な!?)」


槌が粉々に砕け散る。

その衝撃で、ベリアル達が吹き飛び情けない鳴き声を上げた。


ベリアルの持つ槌は、魔力で強化されている強力な物だ。

まさか奴らもそれが砕かれるとは、夢にも思っていなかったのだろう。


「 ^^) _旦~~(お休み~)」


ベリアル達の前まで素早く歩みよった俺は、別れの挨拶を告げ、尻もちを付いている2体の体を叩き潰した。

ドグシャと盛大な音を立て、潰れた肉痕が地面を砕いて広がる。


2体の気持ち悪いスライムの出来上がりだ。


「さて」


レウラス達の方へ視線を向ける。

全員青い顔をして此方を見ていた。


分かり易い程分かり易い、絶望の顔だ。

俺はその表情をみて、ニタリと嫌らしく笑う。

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