第66話 雑魚戦

興ざめだった。

折角のボス戦だったというのに、結局戦わずに魔族側が引いてしまう。

別に俺についての情報をネッド達から引き出すのは構わない。


だが律儀に約束を守って撤退するとは……奴らは馬鹿なのだろうか?


テオードが放心状態で有利な状況。

今こそネッドの真価が……とか考えていたのに、肩透かしも良い所だ。


だから、俺は嫌がらせおしおきする事に決めた。

魔族達に。


「グヴェル!?」


アムレが驚愕の声を上げる。

他の魔族達も声こそ上げてはいないが、全員驚きに目を見開いていた。


良い反応だ。

それでこそ、わざわざ正体を明かした甲斐があるというもの。


「さて、お前達に選択肢をやろう。今すぐ引き返して先程の人間達と戦うか、この場で俺に殺されるか、だ。どうする?」


最初は問答無用で始末する積もりだったが、こいつらの反応がすごく良かったのでチャンスを与える事にした。

我ながら優しい裁定だ。


「ふざけるな!」


そう叫ぶとアムレは腰にかけてある鞭を手に取り、魔法の詠唱を始める。

どうやら頭に血が上って、正常な判断が出来ていない様だ。

明かに勝ち目のない相手に戦いの姿勢を示す……それは完全に自殺行為でしかない。


まあ、アムレはこの際放っておこう。

別にこいつリはーダーでも何でもないからな。


「で?どうするんだ?もしお前達が人間に勝てたなら、その時は見逃してやるが?」


リーダーであるレウラスに向かって、威圧ころしちゃうオーラで脅しを掛けつつ選択を迫る。

この状態でノーと言えるなら大したものだ。


「お断りしますよ。我ら魔族は、脅しに屈して約定を破る様な真似はしないのでね」


あ、断りやがった。

そういえば、ラミアルもなんだかんだでプライドが高かったな。


誇りの為に自らの生存を放棄する、か。

プライドが高すぎるというのも考え物だな。

まあ仕方が無い。


「そうか、残念だ。何か言い残す事はあるか?一応聞いておいてやる」


「気持ちだけで結構」


レウラスの手にした槍が変形し、グローブの様に拳に纏わり付いた。

徒手空拳の構えを取った彼のその拳が光る。

おそらくラミアルと同じく、召喚よりも自分で戦った方が強いタイプなのだろう。


魔族の戦闘スタイルには2タイプある。

召喚を前面に押し出し、自身はその後ろで戦うタイプ――アムレがそのタイプ――と、自身が前に出て戦うタイプ――ラミアルがこれ――だ。


純血種は前者が多く。

混血種は後者が多いのだが、レウラスは珍しく純血種でありながら自身の戦闘が得意なタイプの様だった。

しかも召喚を呼び出そうとしていない所を見ると、白兵戦に全てをかけるという極端な戦闘スタイルの様だ。


これは楽しめそうだと、内心ほくそ笑む。

その力が何処まで俺に通用するか、見せて貰うとしよう。


「お前達のその誇りを称えて、ハンデを与えてやろう。魔法と時間への干渉は無しで相手してやる。見事俺を討ち取って見せろ」


普通に戦うと瞬殺になってしまう。

ハンデとしてはこれぐらいで丁度いいだろう。

まあそれでも、此方が負ける事は万に一つもないが。


「有難く受け取りますよ」


誇り云々と言っていたから怒るかとも思ったが、ハンデの申し入れはあっさりと受け入れられる。

奴らの判断基準がよく分からん。

まあいいけど。


「ハンデなんて、直ぐに撤回させてあげるわ!」


アムレがベリアルを召喚する。

しかも2体同時に。


「ほう……」


彼女も初めて会った時より随分と成長している。

それだけに、ネッドとの勝負が見れなかったのが残念で仕方ない。


しかしお馬鹿な発言だ。

ハンデを本当に撤回させてしまったら、その時点で時間を止めて首ちょんぱで終わる分けだが……もう少し考えて発言すべきだな、彼女は。


「ではお手並み拝見としよう」


後ろの魔族も召喚を終えた様なので、俺も構えをとってみた。

もちろん適当だ。


取り敢えず雑魚2体から始末するとしよう。

そう決めた俺はその場から大きく跳躍し、魔族達に襲い掛かかった。

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