第62話 会議

「ふむ、厄介だな」


何時もの癖で独り言を呟く。

古くからいる下僕達と違い、国の重鎮達は俺の突然の独り言を耳聡く聞ききつけ、此方を注視してくる。

まあ王の言葉を無視するわけにもいかないから、当然と言えば当然の反応ではあるが。


因みに今は会議の真っ最中だ。

勿論、魔族との戦争の。


「どうかなされましたか?陛下」


ラグレは独り言の癖の事を知ってはいるが、立場上尋ね無い訳にもいかず、俺に聞いてくる。

何と答えた物かと一瞬思案し、漏らした独り言にしっくりきそうな話題をエサを放り投げる。


きっと誰かが喰いついてくれるだろう。

何せ国王の一言だからな。


「例の傭兵団だ」


ネッドの傭兵団は大活躍している。

ブルームーン王国に籍を置く傭兵団が活躍するのは、大変喜ばしい事だ。

だが籍を置くだけで、軍属では無い事が少々問題になっていた。


……という愚痴をラグレが零しているのを、先日俺の地獄耳で拾っている。


きっと何か問題があるのだろう。

良く分からんけど。


「確かにその件に関しましては、憂慮すべきかと存じます」


ちゃんとラグレが乗って来た。

うんうん、お前は出来る子だ。

よし、後は頼んだ。


「戦後の版図を我が国に出来るだけ有利にする為にも、活躍目覚ましい彼らを王国軍に編入する必要があります。ですが我が国に現在、徴兵制度は御座いません。少し強引ですが、やはり法律をこの機に変えてしまうのが宜しいかと」


成程な。

魔族を滅ぼせば当然魔族領が手に入る。

そしてそれは連合を組んでいる3国に分配されるわけだが、もちろん仲良く均等という訳には行かないだろう。


いかに多くの牌を掠め取れるかは、戦果が大きくかかわって来る。

どの国も出来るだけ多くの物を得たいと考えているはずだ。

今のままだと、他の国は国籍が何処であろうと傭兵団の成果は傭兵団の物だと、そう難癖付けてくるのは目に見えていた。


だから早い内に正式に軍に編入しておきたいという訳だ。

終戦直前とかでは、他国も納得しないだろうからな。


「いくら何でも、法をいきなり変えるのは強引過ぎるのでは?確かに彼らの活躍は目覚ましいと聞くが、現状そこまで目くじらを立てる程の影響はあるまい?」


ちょび髭がラグレの言葉に噛みつく。

名前は……忘れた。

まあ面と向かって噛みついたという事は、ラグレと同じ公爵なのだろう。


何名かの人間がちょび髭の言葉に「そうだ、その通り」と言った相槌を打ち、同意を示す。


現状ラグレは宰相兼、軍の総司令官も務めている。

当然それをよく思わない者も多い。

そういう輩は、ラグレの足を引っ張る事に御執心だ。


「確かに現状では、まだそれ程の影響力はないでしょう。ですがもし彼らが魔王の首を取ったとなれば、その時は……」


「ふん。いくら優秀とはいえ、少数の傭兵団が魔王の首を上げる事など考えられん。馬鹿馬鹿しい話だ」


馬鹿馬鹿しいと笑い。

ちょび髭が勝ち誇った顔を見せた。


とにかくラグレの上げ足を取りたいのだろうが、こいつは重大な事を見落としている。

それはこれが、俺の投げかけた議題だという事だ。

この話を否定する事は、王である俺の考えを否定する事になる訳だが……馬鹿なんだろうか?


まあ我が身可愛さに俺の説得に応じた奴らの知能なんぞ、こんな物か。


「少数精鋭だからこそですよ。この先戦況は厳しものとなる。そうなった時、彼らが大きな働きを及ぼすはず」


「ふん、戯言だな。今の勢いならば数で押し切り、我らが魔族を殲滅して終わりの話だ。少数部隊の戦果を期待して法を変えるなど聞いた事もない。我々にはしなければならない議題が山積みなのだぞ?貴君は我々の貴重な時間を――」


「ラグレ、話を続けろ」


俺はちょび髭の言葉を遮って、ラグレに話を促した。

別に彼の話に興味津々という訳ではない……いやまあ重要性が増すと聞いて気になったのは確かだ。

俺のプレイアブルキャラに関する話な訳だからな。


だがこれは、どちらかというと俺の投げた話題を些細呼ばわりしたちょび髭に対するペナルティだった。

かなり失礼な発言だったからな。


本来なら首ちょんぱでもおかしくない所をこの程度で済ましてやるのだ。

命拾いしたな、ちょび髭。


「は。このまま戦線を推し進めれば、いずれ兵量の問題が出て来る事に成ります」


「備蓄なら十分にあるであろう」


ちょび髭がまだ噛みつく。

冗談抜きでこの場で首を飛ばしてやろうか。


「ひっ」


俺の熱い視線に気づき、悲鳴を上げて顔を下に向ける。

どうやら身の危険を察知する能力だけは高いらしい。


「どこから情報を得ているのかは知れませんが、現状我々は魔族による奇襲でかなりの被害を出しております」


ああ、そりゃラミアルの千里眼だ。

機動力のある奴らを使い、ちょこちょこ後ろの方を攻めさせているとは思っていたが、補給線を叩いていたという訳か――俺は戦略に興味がないので、魔族側の軍議は基本スルーしている。


ちまちまと御苦労な事だ。


「このまま補給線が伸びれば、さらに被害は拡大し、やがて十分な兵量を前線に運べなくなってしまうでしょう」


魔族領はでかいからなぁ。

人間の領土と魔族の領土ではほぼ同じぐらいだ。


まあ魔族領は強力な魔獣の徘徊する険しい山や毒の沼地など、魔族の住めない場所も多い。

だから実際は半分程度にしか魔族は済んでいないのだが、それでもやはり広い事には変わりなかった。

最奥の魔族の本拠地付近まで行けば、さぞかし補給線は伸びまくっている事だろう。


人間同士の戦争ならある程度は現地調達出来る物だが、魔族は負けそうになると平気で自分達の住処に火を放つ。

あいつらは最悪自分で呼び出した魔獣を食って生きながらえる事も出来るから、その辺りは徹底していた。


「長い補給線を維持するには多くの兵を割く必要があり。結果、数で押せなくなります。そうなると、最後は兵一人一人の質が問われる事に成るという訳です」


纏めると。

兵力は先細りしていくから、少数で無双できる奴ら便りになって来るって事だな。

確かにそれなら、ネッドの所属する傭兵団の価値は上がっていく。

なんせ8人で2千もの兵を跳ね返したわけだからな。


とは言え、現状相手にしているのは混血種が大半だ。

奥に攻め込めば攻め込む程、純血種は増えてくる。

純血種と混血種では力に大きく飛燕がある以上、ネッド達もこれまで程の無双は難しいだろう。


「その時、彼らは間違いなく前線の一翼を担う存在になるでしょう。我が国の為にも、あの傭兵団は軍に編成するのが望ましく思われます。陛下。どうか御決断を」


決断というのは法を変える決断の事だろうな。

法は王の認可なしには代えられない。

答えは当然――


「駄目だ」


「へ?」


話を促された時点で、ほぼ通ると思っていたのだろう。

自分の案を断られたラグレは、ぽかーんと間抜け面を晒す。

その顔が面白かったので許可してやりたいところだったが、それをするとネッドの自由が目減りしてしまう。

あいつには出来うる限り自由に行動させてやりたい。


――何故なら、その方が見てて面白いから。


それに戦後の配分にも全く興味が無かった。

俺がやりたいのは育成シミュレーションで在り、内政や軍事物では無いのだ。

悪いな、ラグレ。


しかし厄介だな。

ここで最初に戻る。


何が厄介かというと、あの女。

レーネだ。

あいつは優秀過ぎる。

バランスブレイカーに近い。


育てたネッドの活躍を期待している身としては、その邪魔をするかの様にあの女が無双するのは、見ていてあまり愉快では無かった。


だからと言ってヒロインポジを始末すると言うのも、あれなんだよなぁ……

パールがもう少し頑張ってくれればそれでもいいのだが、現状、パールでは役者不足感が否めない。


俺はどうした物かと頭を悩ませ――そして一つの名案イベントを閃く。

それはヒロインを死なせる事無く、かつレーネに無双させない素晴らしい案だった。


では、さっそく実行するとしよう。

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