第61話 予見

「沼地に伏兵が潜んでいるわ」


俺達は今、連合軍の一部に組み込まれる形で従軍していた。

トルネ山脈――大量の野生の魔獣、それも上位種が多く住まうとされる危険な場所である――を大きく迂回し、グーテの砦を攻めに向かっている途中だ。

休憩を終え、後数時間も歩けば沼地に差し掛かろうという状況だったのだが、横に座っていたレーネが唐突に不吉な事を口にする。


いや、不吉とは違うな。

彼女の言葉は、運不運ではなく現実に起こる事だ。


未来視フューチャービジョンか?」


「うん、本当は砦攻めの状態を見るつもりだったんだけど、大分ぶれちゃって。でも代わりにはっきりと見えたわ、私達が沼地を通ろうとした所を、突然敵が現れて襲って来る姿が」


未来視フューチャービジョン


少し先の未来を見通す能力だ。

レーネは何故かこの力を生れつき備えていたらしい。

昔から彼女はやけに勘が鋭い事があったが、それはこの能力の力だった様だ。


俺もこの能力を知らされたのは、あのテオード達の一件後だった。


まあ特殊な能力だし、周りに知れれば面倒事に巻き込まれるのは目に見えている。

彼女が今まで隠していたのは仕方のない事だろう。

それを責めるつもりは更々ない。


……まあ、教えてもらえなかったのは正直寂しい物があるけど。


「指揮官に伝えてこよう」


師匠が立ち上がり、軍の指揮官の元へと向かう。

クウラさんも立ち上がり、それに続いた。


「いやー、やっぱ姉御は凄いっす!敵の奇襲を察知してしまうんすから!」


「まあ怪我の功名って奴ね」


「ふん。本命は見れてなくて偶々じゃない」


レーネの手柄が気に食わないのか、アーリンが不機嫌そうに言う。

最近気づいた事だが、どうやら彼女はテオードの事が好きらしい。

だから彼女は、いつもレーネ突っかかっているみたいだ。


全く、テオードも罪深い男だ。

シスコンの癖に。


「偶然でも察知した事には変わりないっす!やっぱ姉御は最高っす!」


「ありがとう」


レーネの未来視フューチャービジョンはかなり不安定な能力らしい。

見たいタイミングから大きくずれたりする事が多かったり、見えても一瞬だったりするそうだ。

しかも連発は聞かない為、未来を見通すという強力な能力ではあるが、そこまで絶対の期待を寄せる事は出来なかった。


まあそれでも、今回やテオードの時の様に、上手く嵌ればその恩恵は大きいのも事実。

稀に有益な情報が貰える程度に考えておくのが正解だろう。


「何よ?その眼。まさか大して当てにならない能力だとか思ってないでしょうね?」


俺の考えていた事を読まれてしまった。

どうやら未来視フューチャービジョン抜きにしても、レーネの勘は鋭い様だ。


「いや別に……」


「ネッドは速さだけが取り柄なんだから。沼地で御自慢の機動力が殺されたら偉い事に成ってたわよ。感謝しなさい!」


沼で奇襲をかけてくる以上、相手はそれに適した魔獣を使って攻めてくるはず。

確かにそんな状況下で機動力を削られては厄介だ。

此処は素直に感謝するとしよう。


「助かったよ、レーネ」


「ん!分かれば宜しい!」

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