第56話 未来予知

「少し遅いな」


師匠が口を開く。

俺達ラムウ傭兵団はブルームーン王国軍に随行し、これから攻め込む予定の魔族砦付近に待機している。


今は斥候に出たテオード達の帰りを待っている所なのだが、予定より少しだけ彼らの帰りが遅くれていた。


とはいえ、まあ――


「予定より10分遅れてるだけですし。大丈夫じゃないっすか?」


パールが干し肉を咥えながら、ノーテンキな感じに御座の上に寝転がって「気にする必要はないっす」と続ける。

斥候が返り次第出発だという言うのに、緊張感のない奴だ。


「まあそうなんだが。あの3人にして珍しいと思ってな」


まだたかが10分程度ではあるが、確かに師匠の言う通りだ。


テオードは剣だけじゃなく、何をやらしても完ぺきにこなす超人様だし。

レイダーさんはパワーファイターにも拘らず、何故か隠密行動が凄く上手い。

それにアーリンも魔法で気配は断てるし、魔術師としてはかなり動ける方だ。

余程の事が無い限り、敵に見つかるへまはやらかさないだろう。


まさか3人で砦を攻め落としたり……は流石に無いよな……


砦の規模を考えれば、相手の兵力は1000はくだらない。

幾ら超人的な強さを誇るテオードがいると言っても、その数を3人で相手にするのは不可能だ。

遅れているのは、きっと運悪く敵に見つかって追われているとかそう言った理由だろう。


「ネッド!救援に向かうわよ!」


それまで黙って座っていたレーネが急に立ち上がって叫ぶ。

何事かと、全員の視線が彼女へと集まった。


彼女が俺達と行動を共にしているのには、理由がある。


魔法学院屈指の天才である彼女は、国から戦力として召喚されていた。

徴兵制度はブルームーン王国にはなかったが、王立魔術学院の人間は半分軍属であるためだ。

当然それに拒否権は無い。


立場上戦争に参加しないという選択肢の無かった彼女は、どうせ参加するのなら俺達――ラムウに従軍するという無茶な申請を出し、それを勝ち取っていた。


「このままじゃ3人共死んでしまうわ!」


「あらあら、急にどうしたの?心配なのは分かるけど―― 」


「そういうんじゃないんです!兄達は大勢相手に完全に囲まれているの!このままじゃ間違いなく死にます!」


クラウさんの言葉を遮って、レーネは声を張り上げる。

その表情は真剣そのもので、冗談や、只の心配し過ぎから来る不安とは違うのが伝わって来た。


「ただの心配ではなく、何か根拠があるのか?」


「ええ、私は魔法で未来を見る事が出来るんです。だから……」


「「未来を見る!?」」


レーネの言葉に、全員の驚きの声が重なる。

未来を見る魔法なんて聞いた事も無い。

いったいいつの間に彼女はそんな魔法を覚えたというのか?


「マジっすか!?マジっすか姉御!!」


「ええ、只まあ色々と問題があって。出来れば他言無用でお願いしたいのよ」


「分かった」


そう言うと師匠が立ち上がる。

それに続くかの様に、その場の全員も。


誰もレーネが嘘を付いているとは考えていないのだ。

俺やパールは勿論だが、まだ日が浅いとはいえ、団長夫婦も彼女のその天才的才能や性格は知っている。


そのため団の中で、彼女の言葉を疑う者はいない。


「俺は軍の奴らに先行すると伝えてくる。お前達は出立の準備をしておいてくれ」


「「了解」」


これは戦争だ。

斥候3名の命の為に、部隊を動かす事は出来ない。

此処にいる4人だけで助け出す事に成るだろう。


師匠が上手く取り成してくれるとは思うが、最悪団が動く許可を貰えなかった場合、俺はラムウを抜けて一人ででも向かうつもりだ。


右手に嵌められた小手を左手で強く握る。

あの遺跡で手に入れた小手の能力、命の代償ライフクラッシュの力を使った俺とテオードなら、1000の魔獣だって相手に出来るはずだ。


……まあ寿命がモリモリ減ってしまうから、あくまで最後の手段ではあるが。


「よし!出発するぞ!」


心配は杞憂に終わってくれる。

無事許可を貰えた俺達5人は手早く準備を済ませ、テオード達の救出に向かった。

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