第57話 防戦

剣に闘気を籠め、強化して振るう。

飛んでくる魔法を全て叩き落とし、突っ込んできた魔獣を斬り捨てた。

更に魔法が飛来して来るが、それも全て叩き落とす。


それらを繰り返していると、魔族や魔獣はもう此方へと近寄って来なくなる。


近づけば無駄な被害が出るだけだと判断したのだろう。

奴らは間合いを開け、延々魔法を掃射してきた。

俺はその場に足を止め、降りしきる魔法を片っ端から切り続けた。


切った魔法の爆風が俺の肌を焼き、じりじりと俺を消耗させる。

だがこの程度――


「もういい!もういいよ!テオード!私達の事は放って行って!!」


「これぐらいどうって事はない」


アーリンの叫びに、俺は視線を動かさずに答えた。

四方八方から飛んでくる魔法の対処に手いっぱいで、よそ見をする余裕がない。


「テオード。俺が道を作る。その隙にお前はこの囲いを突っ切れ」


レイダーは背中に大やけどを負い、腕からの出血も酷い。

もう戦うのは無理だ。


道を作るというのは、肉の壁となって命を盾に敵に突っ込むつもりなのだろう。

もちろんその先に待っているのは死だ。

目の前でおめおめと彼にそんな真似をさせる気は無い。


「あたしの魔法で包囲を突破する穴をぶち開けて上げる!」


アーリンが杖を支えに無理やり立ちあがる。

彼女の右足は魔獣に食い千切られ、肉が抉れ骨が見えていた。

立ち上がるだけで脂汗を垂らしている彼女の足では、この場からの逃走は不可能。


彼女も俺を逃がすため、最後の力を振り絞ろうとしている。


「駄目だ」


俺は馬鹿だ。

やばくなれば彼らを切り捨てるつもりでいた。

そのつもりだった……だが土壇場で俺は足を止めてしまった。


大事な……絶対に守らなければならない物があるというのに……


でも彼らを見捨てる事は出来なかった。

我ながら何をやっているんだと呆れてしまう。


「何言ってるのよ!このままじゃ貴方まで!!」


仲間を魔法の弾幕から守るのは骨の折れる作業だ。

確かにこのままでは、俺はいずれ消耗しきって力尽きるだろう。

だがまだ希望はある。


「助けが来るまでここで粘る」


約束の時間をもうだいぶん過ぎてしまっている。

ひょっとしたら、団の仲間達が様子を見に来てくれるかも知れない。

その可能性は決して低く無いはず。


――俺はネッドの顔を思い浮かべる。


にっくき俺のライバル。

あいつなら絶対、のこのこと助けに現れるはずだ。

そう俺は確信する。


何せ馬鹿だからな……あいつは。


まあ俺も人の事は言えないが……


兎に角、奴とさえ合流できればこの場を打開する事は可能なはず。

問題はそれまで、俺一人でこの状況を持ち堪えられるかどうかだが……まあやるしかないだろう。


「そんなの無茶よ!」


「無茶でもやる!その時の為にお前達は休んでいろ!」


俺は剣を振るい続ける。


きぼうを……ネッドを信じて。

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