第54話 再会
私は上空高くを飛翔する。
真っ直ぐに彼の元へと向かって。
眼下を見ると、戦場が広がっていた。
遥か昔から続く、魔族と人間との長きに渡る戦争。
それは終わる事の無い醜い歴史だ。
転生してから200年、私はそういった物には一切関わらず生きて来た。
興味がない。
というよりは、そんな事に構っている余裕など無かったというのが正しいか。
私はある研究に可能な限り、全ての時間を捧げて来た。
全ては彼と再会する為に……
別に女神の言葉を疑ったわけではない。
だが万一、いや、億が一にも手違いがあったらと考えると怖くて。
私は一心不乱に研究に打ち込んできたのだ。
まあ結局、私の不安は杞憂に終わり、費やした膨大な時間は無駄に終わってしまった訳だけど……
だが気にする程の事でもない。
それは些細な事だ。
だって――
「今日は、私の人生における最良の日だもの!」
テンションが上がり、思わず一人叫んでしまった。
上空高くを飛んでいる為、誰かに聞かれたりしてはいないとは思うが、正直聞かれたってかまわない。
寧ろ聞いて欲しいぐらいだ。
今の私の幸福な気持ちを。
「いた!」
私の視界は彼を捉えた。
戦場を掛ける一人の青年の姿を。
その凛々しい姿は、以前以上と言っていいだろう。
「うーん!カッコいい!! 」
その姿を見て、高揚から胸が高鳴る。
今すぐにでも彼の側に降り立ちたい気分ではあるが、そこはグッと堪えた。
折角の再開なのだ、どうせなら彼のピンチに颯爽と駆けつけて印象強く登場したい。
それに何より、止まらないこの涙を何とかしないと、みっともなくて顔を合わせられない。
服の袖で目元を拭う。
私は大きく深呼吸し、その時が来るのをじっと待った。
じっと…………じっと…………
じっと………………
……………待つ……
……涙はもうとっくに乾いているんですけど?
いやちょっと彼強すぎない?
彼にはチートが与えられてない筈よね?
女神から彼の知らせを聞いた時、チートは与えていないと言われていた。
だが眼下の彼は、魔獣や魔族を危なげもなく倒していく。
数えてはいないが、恐らくもう既に100体以上の魔獣を斬り捨てているはず。
正に鬼神の如き強さだ。
私は更にもう少しだけ様子をみてみる。
だがやはり状況は変わらなかった。
このままだと、何時までたってもドラマチックな出会いを演出できそうにない。
強くてカッコいいのは良いのだが、余り強すぎるのも考え物だ。
辛抱たまらなくなった私は、上空から魔法を放つ。
もうピンチを救ってラブラブ作戦は諦めよう。
放った魔法は私の得意魔法、その名も
その名の示す通り、炎と雷の嵐を巻き起こす魔法だ。
チート魔力が乗った
敵を綺麗さっぱり消し飛ばした所で、私は地上に降り立ち彼へと不敵に微笑んだ。
「貴方、なかなかやるじゃない」
「ずっと俺の様子を伺っていたみたいだが、あんた何者だ?」
どうやら、眺めていたのはバレてしまっていた様だ。
私の存在に気づいてくれていた。
それだけで嬉しくなって、口元がだらしなく崩れそうになってしまう。
イカンイカン。
せっかく傷跡のない綺麗な姿で転生したのだ。
馬鹿面を晒して減点されたくはない。
私は口元を引き結び、クールビューティーを演出する。
「初めまして、私はレーネ。魔法使いよ」
「レーネ……時の魔女か……」
彼の目が私を厳しく射抜く。
その声も鋭く冷たい物へと変わった。
彼の突き放すかの様な反応に心を切り裂かれ、一瞬たじろぎそうになるが、私は平静を装う。
私は魔女として名を知られていた。
俗世に関わらない様にはしていたが、研究には設備や、それを用意する為の資材やお金が必要だ。
私は研究の為の資金集めとして、時にその力をもってして奇跡――人々から見れば転生チートは奇跡に等しい――を幾度か起こした事がある。
その結果、付いた呼び名が時の魔女だ。
「随分と……嫌われているみたいね」
「当然だろう。強大な魔力を持ち、長き時を生きる魔女……人々が魔族との戦争で苦しんでいるというのに、それに見向きもしない冷酷な魔女に良いイメージを持つ人間などいない」
本気で軽蔑している。
彼の眼差しは、そう如実に語っていた。
側にいる事さえ出来ればそれでいい。
特別になれなくとも、ただ側にいられるだけで良かったのだ。
あわよくばという気持ちが無かったかと言えば嘘になるが、例えその心がかつての様に私に向く事がなくとも、それでいいと思っていた。
けど……流石に、嫌われるのは辛い。
なんとかしないと。
何か言い訳を……
「わ、私にはどうしてもしなければならない研究があったから……他にかかずらわる余裕なんて、無かったのよ……」
嘘は言っていない。
最初の10数年は素直に女神の言葉を信じる事が出来た。
だけど長く生きれば生きる程、心の中に不安が募り出す。
やがて私は居てもたってもいられなくなり、保険を確立する為の研究に没頭するようになったのだ。
だが口にしてから気づく。
この理由だと、自分の事を優先して周りで苦しんでいる人達を放って置いた事に変わりはないと。
「どうやら、嘘はついていない様だな」
「え!?」
「相手が嘘を付いているかどうかは、見ればわかる。失礼な態度を取って悪かった」
彼の態度から、先程までの突き放す様な物が消える。
正直、今の
「人間誰にだって目指す目標や信念がある。それを優先させてしまうのはある程度仕方ない事だ。貴方にも事情があったんだろう?それに貴方の態度を見る限り、噂ほど冷酷な魔女にも見えないしね」
「私は……」
冷酷ではない。
その言葉が私の胸に突き刺さる。
本当にそうだろうか?
仮に研究をしていなかったとしたら、私はこの世界の人間を守るために、その力を振るっていただろうか?
そもそも、彼女の事を邪魔ものだと考えてしまった私は……
「俺の名はエリアル。エリアル・サーガ。傭兵だ」
「エリアル……」
それが今の彼の名。
私はエリアル・サーガという名を何度も心の中で反芻する。
「それで?時の魔女と言われる貴方が、こんな戦場に一体何の様なんだい?」
「勿論、それは――」
――此処から始まる、私と彼の新たな物語。
例えそれが非業に終わる運命だとしても、私は決して彼の側を離れないと誓う。
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