第2章 戦争を起こしてみた
第53話 転生
私はいつも独りぼっちだった。
子供の時に大きな事故に巻き込まれ、私の体には消えない傷跡が無数に刻まれた。
見るに堪えない、一生消えないような酷い傷だ。
だが幸い周りの人間は私を避けるだけで、虐め等は無かった。
ただ一度を除いて。
小学生に上がった時、私を化け物呼ばわりした2人の男の子がいた。
その子達は私の後を追い回し、私を棒でぶった。
そしてそれが――その子達の姿を見た最後だ。
その二人はその晩、夜遅くまで遊んでいた所を車にはねられ死んでいる。
それ以来私は呪われていると恐れられ、怖がって誰も私に近づかなくなった。
もちろん、私にはそんな力はない。
只の偶然だが、そのお陰で孤独ではあるが、余計な物に煩わされる事無く生きて来れた。
友達なんていらない。
どうせ私は化け物みたいな見た目をしているんだから、このまま生きて行けばいい。
一人でひっそりと……
そうやって孤独に一人で生きて行くと決めていた。
でもあの日。
大学の入学式のあの日、私は出会ってしまった。
太陽に。
入学式の帰り、道にけつまずいた私に彼は笑顔で手を差し伸べてくれた。
それまではそんな事があっても、周りの人は遠めに眉を顰めて眺めるだけだったのに、彼だけは違った。
――それはとても眩しくて、暖かい笑顔で。
それが嬉しくて、嬉しくて……私はその場で泣いてしまう。
彼はそんな私の肩を優しく抱いて、泣き止むまで付き合ってくれた。
こうして私の人生に、初めて友達が出来た。
どうでもいいと思っていた人生。
それでも死ぬのは怖くて、だから只死んでいなかっただけの私の人生に、初めて光が差した。
その後、私に二人目の友達が出来る。
彼の彼女らしい。
その時、私は少し暗い気持ちになってしまったが、別に構わない。
私は近くで彼の笑顔さえ見ていられれば良いのだ。
それに、彼女は凄く良い子だった。
私なんかの為に泣いてくれて、凄く気遣ってくれる。
そんな2人は、私の理想のカップルだ。
周りから後ろ指を指されても気にせず、二人は私の友達でいてくれた。
それ所か私のために怒ってくれさえする。
本当に楽しい。
生きていて、本当に良かった。
だけどあの日――2人は死んだ。
飲酒運転の車に跳ねられ、即死したらしい。
彼の葬式に行ったら、頬をぶたれた。
彼のお母さんに、お前のせいだこの化け物と言われて追い出されてしまった。
私のせいで彼は死んでしまったのだろうか?
ううん、違う。
だって彼は言ってくれたもの、君は呪われてなんかいないって。
じゃあなぜ彼は死んでしまったのだろうか?
――よく分からない。
その日、私は自ら命を絶った。
だってもう生きている意味なんて無いんだもの。
天国で彼に会えるかな?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「残念だけど、天国なんて物はないわ」
気づくとよく分からない場所に私は居た。
目の前には亜麻色の髪をした美しい女性が椅子に腰かけ、優しい笑顔で微笑んでいる。
「貴方は?」
「私の名はンディア。女神よ」
彼女は自らを女神という。
私はその言葉を素直に信じた。
何故だか分からないが、疑う気にはなれなかったのだ。
「ここは?天国ですか?」
だとしたら彼は今どこに。
そう思い周りを見渡すが、辺りは黒い靄に包まれてよく見えない。
「残念だけど、ここは天国じゃないわ。ていうか、そもそも天国とかないしね。死んだら皆消えてなくなるだけよ」
「そんな……」
――彼とはもう2度と会えない。
女神からそうはっきりと突きつけられて、胸が苦しくなる。
死ぬ時でさえ、ひょっとしたらもう一度会えるんじゃないかと思っていた希望が完全に砕かれてしまう。
「でも、喜んで。貴方を転生させてあげるわ。そうね、今度生まれる時はとびっきりの美人さんよ。前世とは違って、楽しい人生が待っているわよ」
転生?
楽しい人生?
……その言葉私はがっかりする。
この人は何もわかっていない。
女神の癖に。
私に必要なのは彼の笑顔。
それ以外の物なんて、私にとって何の価値も無いのだ。
だがそんな事を、一々説明する気は無かった。
きっと彼女には理解できないだろう。
彼への、私の気持ちなど……
「彼と会えないなら、生まれ変わっても仕方ありません」
「あら、困ったわねぇ。転生は決定事項なのよ。断る事は出来ないわ」
「そうですか……だったらもう一度、死ぬだけです」
死ぬのは凄く痛かった。
またあんな辛い思いをしなくてはならないのか……目の前の女神は、本当に面倒な事をしてくれたものだ。
「生きてさえいれば、楽しい事も色々あると思うんだけどなぁ」
「ありません」
ある訳がない。
私は顔を伏せ、投げやりに答えた。
段々目の前の女神が煩わしく感じて来る。
――転生なりなんなり、さっさとさせればいいのに。
「ん~、いきなり死なれちゃうのはやっぱあれよねぇ。何だったら、貴方のお友達も転生させてあげましょうか」
!?
伏せていた顔を勢いよく跳ね上げ、女神の顔を見つめる。
彼女は私のその反応を見て、楽し気に細めた。
「本当……ですか?本当に!」
「女神なんだから、嘘は言わないわよぉ。で?どうする?」
どうするもこうするも無い。
答えは決まっている。
「お願いします!!」
彼ともう一度会える。
あの笑顔をもう一度……そう考えると、私の瞳から涙が溢れ出した。
嬉しい……
「でもその場合、転生用のチートが目減りしちゃけど構わない?」
チート?
目減り?
何の話だろうか?
私にはその意味がよく分からなかった。
だがそんな事はどうでもいい。
重要なのは彼と――
「構いません!お願い押します!」
「ふふ、いい返事ね。じゃあお友達
2人共、その言葉に私は固まる。
女神を見ると、凄く嫌な笑顔をしていた。
きっとわざとだ。
この女はわざと、私に選ばせようとしている。
彼女の事は嫌いでは無かった。
本当に良い子だったのは分かっている。
だけど私は……
「彼だけを……転生させてください」
「ふふふ、素直な子。嫌いじゃないわよ」
そう言うと、女神は自らの人差し指に口づけする。
そしてその指を私の額に押し付けた。
その瞬間、言葉にできない感覚が私の全身を満たす。
不安な様で、それでいて幸福な感覚。
きっとこれが生まれ変わるという事なのだろう。
私は本能的にそれを悟る。
「約束通り、貴方へのチートを削って思い人を転生してあげるわ」
「あり……がとう」
上手く舌が周らず、言葉が詰まる。
体が凄く暖かい。
ぽかぽかして、頭がぼーっとしてきた。
「ただ、消滅した命を転生させるのには時間がかかるから。すこーし時間的に差が出来ちゃうのは許してね」
「……え……」
「100年か200年か……」
女神は笑顔で恐ろしい事を口にする。
100年もずれたら、私は死んでしまっているではないか。
それでは意味がない。
「だいじょーぶよぉ。転生の恩恵で、貴方は凄く長生きできるし。転生した彼とちゃんと出会えるように、運命の方も弄っておいてあげるから、安心しなさい。じゃあね」
一瞬背筋が寒くなったが。
どうやら彼と出会う事は出来る様だ。
彼と再会出来さえするのならば、100年や200年だろうとどうって事はない。
幾らだって待って見せる。
視界が歪む。
意識が遠のき、私は眠る様に次の人生へと落ちていった。
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