第50話 不安

あれからもうじき半年経つ。

グヴェルは半年以内に魔王がすげ変わり、戦争が始まると言っていた。

そして奴の言葉通り、最近魔王が変わったという噂を俺は耳にする。


このままだと本当に――


「つぁっ!!」


テオードの剣を正面から受けて止めようとして失敗し、吹き飛んでしまう。

俺は受け身を取って素早く起き上がる。


「ネッド!訓練中にボヤッとするな!」


「くっそ!」


一瞬で間合いを詰めたテオードの剣が俺に容赦なく振り下ろされる。

俺は咄嗟に2重加速ダブルアクセルを使い、辛うじてそれを躱した。


「ぐ……」


使ったのは一瞬だが、負担が体に重くのしかかる。

やはり2重加速ダブルアクセルは負荷が大きい。


初めて使った時は、ほんの数秒で1月以上寝込んでしまった。

あれから2年半。

一瞬程度ならなんとかこれを使う事が出来る様になって来てはいるが、だがまだまだ力が足りない。


「どうやら、集中できていない様だな」


「悪い」


グヴェルの宣言した期限が近づき、おれはどうしてもそれが気になって仕方なかった。

魔王交代の噂を聞いた事もあり、ここ数日は特に訓練に身が入っていない。


「考えても、俺達に今できる事はない」


「分かってる」


そう、テオードの言う通りだ。

今の俺に何かできる訳では無い。


事が起こった時の為に、只静かに力を蓄える。

それこそ、が今の俺に出来る唯一の事だ。


「もう一本頼む!」


遺跡で手に入れた装具は、今レーネの元にあった。

レーネに預けたのは、その効果が彼女の研究している物に近かったからだ。

その為、彼女がどうしても調べたいと言って半分強引に持って行かれてしまっている。


まあ、今はまだ必要としていないので構わないだろう。

強力ではあったが、体にかかる負担が大きくて常用できる物では無かったので、グヴェルとの戦いひつようなときまでに返して貰えれば十分だ。


――それに、可能なら改良しておくとも言ってたしな。


「甘いぞ!」


俺の連撃をテオードが綺麗にいなして鋭く切り込んでくる。

俺はそれを紙一重で躱し、後ろに飛んで間合いを離して体勢を整えた。


とにかく、今は強くなるために集中しないと。

いずれ来る戦いに備えて。


俺は突っ込んでくるテオードに、旋回して2刀を叩きつける様に迎え撃つ。

普通なら軽くあしらわれてしまうだろう。


だが2重加速ダブルアクセルを発動させればどうだ!


「くっ!?」


俺の高速連撃に弾かれ、体勢を崩したテオードの隙を俺は見逃さない。

一気に突っ込んで畳みかける。


「貰った!」


「させるかぁ!」


俺の2刀とテオードの剣が交差する。

鋭い金属音が辺りに響き。

俺と奴の視線が交差する。


「今日こそ……一本取らせて貰う!」


「10年早い!」


目の前のこいつを倒す。

それが俺の当座の目的だ。

俺は不安や余計な雑念を捨て、日が暮れるまでテオードと打ち合いを続けるのだった。


――この数日後に大事件が起こる。


そしてグヴェルの言葉通り、魔族と人間との間に戦争が始まってしまう。


平穏な世界にちじょうは終わりを告げ。


血で血を争う殺し合いが始まる。


俺もまた、否応なしにその時代の流れに飲み込まれて行った。

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