第46話 幼馴染
明日の用意を済ませる。
朝早く出るつもりなので、まだ早い時間だがそろそろ寝ようかとしていた所、扉をノックする音が響いた。
誰だろうと思いつつ、俺は返事をして扉を開ける。
そこにいたのは――
「よっす!ネッド、元気にしてた?」
「レ、レーネ!?」
そこにはレーネが立っていた。
彼女は軽く手を上げて挨拶すると、無遠慮に俺の部屋へと乗り込んでくる。
部屋に入った彼女は少し周りを見回してから、手にした荷物を適当に床に置いてそのままベッドの淵に腰かけた。
「なん――うわっ」
なんで?
そう聞こうと口を開いたが、肩への衝撃に思わず言葉を途切れさす。
見るとテオードが挨拶も無く部屋に入ってきていた。
どうやら犯人は彼の様だ。
入口に突っ立っていた俺が邪魔だったのだろう。
――だからって突き飛ばすなよ。
一声かけて欲しい所だ。
俺の部屋なんだから。
軽くテオードを睨むが、そんな俺の恨めがましい視線を無視してテオードはそのまま不機嫌気にレーネの横に並んで座る。
「パールの手紙に、この村に居るって書いてあったからね。陣中見舞いって奴よ」
「そうか、態々悪いな。でも来てもらって悪いんだけど、俺は明日からちょっと用事があって出かけ――」
「遺跡に行くんでしょ?パールから聞いたわよ。もちろん、私もついて行くから」
「へ?」
俺に付いて来る!?
レーネが!?
いや、でもそんなのテオードが許すわけ……
そう思いテオードの方を見る。
だが彼はむすっとした表情で腕を組んで、黙り込んでいた。
どうやら機嫌が悪いのはこの為か。
「ちゃんとお兄ちゃんには許可貰ったから、大丈夫よ」
俺と二人、しかも危険かもしれない場所にレーネを送り出すなんて約束。
よく取り付けたものだと感心する。
けど――
「グヴェルからの情報だ。危険があるかもしれないから――」
「だから一緒に行くんじゃない。ネッドだけじゃ、危なっかしいったらありゃしないんだもの。ネッドだって、私の魔法の腕はよく知ってるでしょ?」
確かに彼女の魔法の腕は確かだ。
2年前、研究所で見せられた大魔法。
それ以外でも何度か彼女の魔法は見せて貰っている。
パールが慕うだけあって、彼女の魔法の腕は超一流だ。
付いて来てもらえるなら、これ程頼もしい事はない。
ちらりとテオードの方へと視線をやる。
全身から、殺すオーラが溢れ出しているのがハッキリと分かった。
本当は絶対に行かせたく無いんだろう。
なのに表立って反対してこないのが不気味でしょうがない。
「それに、いざとなったらネッドが私の事を守ってくれるんでしょ?2年前みたいにね」
レーネが俺に向かってウィンクする。
次の瞬間、テオードの剣が光の速さで何かを切り裂いた。
「……」
「お兄ちゃん……今のなに?」
「ふん」
実際ウィンクは何かが飛ぶわけじゃない。
だが俺には見えた。
彼の剣が、目に見えない何かを確かに切り裂くのを。
テオード恐るべし。
「という訳で決定ね!」
「レーネに何かあったらお前を殺す。覚悟しておけ」
どうやら俺は、何があってもレーネを守り抜かなければならない様だ。
テオードに殺されては堪ったもんじゃないからな。
「じゃあ、今日はネッドの部屋に泊めてね」
「「!?」」
レーネの一言で場の空気が凍った。
テオードと目が合う。
その手は剣の柄を力強く掴み、プルプルと震えている。
「ジョーダンよ。ジョーダン。もう、二人とも本気にしちゃって」
下手をしたら本気で殺されかねない案件だ。
物凄く心臓に悪いので、そう言う冗談はやめて欲しい。
この後、明日出発だというのに、俺は何時間もレーネの他愛無い話に付き合わされる。
幾らなんでも危機感なさ過ぎだろ、こいつ。
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