第45話 休暇
「ネッドしか装備できない、呪われた装具ねぇ……」
テーブルを囲み、向かいに座る赤毛の女性が疑わし気に此方を見てくる。
彼女は傭兵団
その長い赤毛と紅いローブがトレードマークの、勝気な顔立ちをした魔法使いだ。
「あ!アーリンさん、ネッドパイセンの言う事信じてないっすね!」
「当たり前よ。以前聞かされたグヴェルって化け物の事だけでも胡散臭いのに、そいつがお宝の在処を教えてくれたとか。そんな話信じるのは、小さな子供ぐらいのものでしょ?」
グヴェルの事は、一応傭兵団の仲間には話している。
勿論、荒唐無稽な話になるので皆半信半疑だ。
まあパールはレーネに心酔してるので話を全面的に信じてくれてはいるが、普通に考えればこれが通常の反応だろう。
「どうせレーネって子とデートしたくて言ってるんでしょ。いやらしいったらありゃしない」
今回請け負った傭兵団の仕事は2つ。
一つは森と渓谷に住む魔獣の殲滅。
もう一つは再び魔獣がこの辺りに戻って来る可能性を考えて、暫く村に留まってその警護と、魔獣が森などに再度住み着く様ならその殲滅を請け負っていた。
うちにとっては近年稀にみる大仕事だ。
前者の方はもう仕事を終えているのだが、後者の方は3か月ほどの長期任務になっている。
一刻も早くグヴェルの言っていた遺跡に向かいたいと思っている俺は、団長に事情を話して休暇を申請していた。
「ネッド。レーネとデートしたいなら――」
「違うって!」
テオードがその鋭い眼光で俺を射抜く。
こいつはグヴェルの事を知ってる筈なのに、なぜデートを疑う?
これだからシスコンは困る。
「ははは、前回の勝負があれだから。デートへの道のりは遠そうだな、ネッド」
「だから違いますって!!」
団長が楽しげに笑う。
デートはともかく、師匠の言う通り、テオードと俺の間には未だ越えられない壁の様な実力差が横たわっていた。
前回の勝負、本気で勝つつもりで挑んだのだが――結果はぼろ負けだった。
自分の中でその差はかなり縮まった気でいたのだが、そんな事は全くなかった様だ。
どうやらこれまでの勝負、テオードはある程度此方の実力に合わせて手加減してくれていたらしい。
だが前回の勝負はレーネとのデート――テオードの中では――が掛かっていたため、手加減なしで容赦なく叩きのめされたという訳だ。
全く、とんだ化け物だよ。
テオードは。
だがそんなテオードの実力を持ってしても、時間を止める様な化け物相手では勝ち目はないだろう。
「テオードはもう団長の俺よりもずっと強いからな。ネッドも頑張らないと、どんどんおいて行かれちまうぞ」
「パイセン頑張っす!」
一応毎日死ぬ気で頑張っている身としては、これ以上頑張れという応援は死ねと同義に聞こえて仕方がない。
まあ死ぬっていうのは大げさだが、これ以上は冗談抜きでオーバーワークで倒れてしまう。
「まあ休みは1週間なら構わんぞ」
「え!いいんですか!?」
「グヴェルって奴の事は何とも言えんが、ネッドがデートしたさに休む様な男じゃない事は知ってるからな。遠慮せず行ってこい」
「ありがとうございます」
この団は7人しか居ない。
滞在する村は小さいとはいえ、1人抜けるとその分の負担は大きくなる。
正直駄目元だったので、聞き入れて貰えてとてもありがたかった。
「団長!ネッドに少し甘いんじゃないですか!?」
アーリンさんが俺の休暇に噛みつく。
仕事が増えるからと言うのもあるが、彼女は俺の事を嫌っていた。
正確にはレーネの事を――俺が恋人だと勘違いしている為、ついでに俺の事も嫌っている状態だ。
実は以前傭兵団にレーネが顔を出した時、何故かアーリンさんと魔法勝負する流れになり、二人は対決していた。
そこで手も足も出ずコテンパンにされて以来、彼女はレーネの事を毛嫌いしているのだ。
「アーリンちゃん。怒っちゃ、せっかくの可愛い顔が台無しになっちゃうわ。ほら、笑って笑って」
「うー」
アーリンさんはクラウさんに弱い。
クラウさんはハンターだが、魔法の腕も一流で、アーリンはそんな彼女を尊敬しているからだ。
「その代わり、帰ってきたら休みはなしだ。それは覚悟して置けよ」
「はい!ありがとうございます!」
休暇を貰えた俺は食事を早々と済ませ、さっそく出発の準備に取り掛かった。
明日は早いと思い、早々に就寝しようとした所で部屋の扉がノックされる。
「誰?」
扉を開けると、そこには――
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