第44話 魔王ラミアル

広い円形の試合場に声が響く。


「さて。それじゃあ2人とも、用意はいいかい?」


声の主はレウラスだ。

その声にラミアルとアムレの2人が頷き、中央付近で向かい合う。

2年前は子供っぽさの残していた二人だったが、今や二人とも美しく成長していた。


これから始まる2人の戦いは、王座簒奪戦。

それを模した予選ともいうべき戦いだ。


「私達のこれまでの戦績はお互い24勝24敗。ここで決着を付けましょう。ラミアル」


この2年間、ラミアルとアムレはライバルとしてお互いを高めあってきた。

その戦績は48戦24勝24敗のタイだ――この数字はあくまでもグウベェ抜きでの勝敗の数である。


「良いわよ。と言っても、ここ最近はあたしの連勝中だから。このままの勢いで押し切らせて貰うわ」


この2人の勝負。

最初はアムレが勝つ事の方が多かった。


2人の間に大きな実力差があるのだから、それは当然の事だ。

だがラミアルはこの2年で劇的に実力を伸ばし、ここ最近では彼女が連勝を伸ばしている。

そのため対戦の戦績は同じであっても、順当にいけばラミアルが勝つ事は想像に難くなかった。


勿論それはアムレも分かっている事だ。


「そう上手く行くかしら」


アムレは不敵に笑う。

これは只の強がりではない。

対ラミアル戦に向けて奥の手を用意しているからこその不敵。

彼女はそう易々と、王位簒奪戦の権利をラミアルに譲るつもりはなかった。


「では初め!」


レウラスの開始の合図と同時にアムレは大きく飛びのき、魔獣を召喚する。

方やラミアルは、そのままアムレに向かって突っ込んだ。


王位簒奪戦は通常の召喚バトルとは違う。

魔獣を戦わせるだけではなく、魔族本人も戦う形式だ。

呼び出す魔獣も1匹づつではなく、無制限に呼び出す事が出来た。


「はっ!!」


アムレの呼び出したミノタウロスバーサーカー4体がラミアルに襲い掛かる。

彼女は億す事無く突っ込み、先頭のミノタウロスの振るう斧を回し蹴りで粉砕し、その本体を殴り倒す。

そしてそのまま電光石火の動きで残り3体もあっという間に処理してしまう。


「足止めを!瞬殺しないで貰いたいわね!」


ラミアルは天才だった。

その生まれ故魔力が少なく、出来もしない召喚に拘っていたため成長に著しくブレーキがかかっていたが。

グウベェによってその枷がはずされた事で、彼女は戦闘面で劇的な成長を果たしている。


特に近接戦闘能力の進歩は目覚ましく。

今の彼女には、上位魔獣のミノタウロスバーサーカーですら足止めにならない。


だがアムレも負けてはいなかった。

ラミアルがミノタウロスを処理している短い間に新たな魔獣、デーモンの召喚を終えている。


呼び出されたデーモンの数は2体。

かつては1体呼んだだけで魔力切れを起こしていたアムレだったが、この2年間の努力の成果で、同時に2匹呼び出せるまでに成長していた。


「デーモンじゃ!あたしは止められないよ!!」


デーモンが口から赤いエネルギー弾を二連発する。

ラミアルは魔力をグローブ状に纏った手で一発を弾き、もう一発を回避しながら間合いを一気に詰めた。


デーモンは再生能力が高い。

その為、一気に仕留めなければジリ貧になってしまう。

その事をよく知っているラミアルは生命砕きライフクラッシュを使って魔力を充足させ、それを両腕両足に込める。


魔力連撃拳マジカルラッシュ!」


魔力連撃拳マジカルラッシュ

大層な名前を付けられてはいるが、要は魔力を込めた強力な連撃で相手を粉砕するという単純な攻撃だ。

だが種も仕掛けもないシンプルな技だからこそ、その殺傷能力は極めて高い。


凄まじい連撃で目の前のデーモンをラミアルは粉砕する。

血肉が周囲に飛び散り、文字通り粉々だ。


「もう一丁!」


一匹がやられ、破れかぶれで突っ込んでくるデーモンにも彼女は容赦なく連撃を叩き込み粉砕する。


「さあ御自慢のデーモンは――」


その目に飛び込んできた今まで見た事も無い魔獣に、ラミアルは思わず声を飲み込んだ。

見た目はデーモンに近い感じではあった。

だがサイズがまるで違う。


デーモンは2メートル程度なのに対して、新たに呼び出された魔獣は軽く3メートルは超えている。

パワーがありそうな少し小太りな体に、その両手には巨大な槌が握られていた。


「魔獣ベリアル。異世界の魔獣であるデーモンの上位種よ」


魔獣ベリアル。

デーモンと同じく異世界の魔獣。

その強さはデーモンの比ではなく、恐らく現魔王レベルですらこの魔獣を仕留める事は難しいだろう。


つまりアムレの実力は、既に魔王を凌駕していると言う事だ。


「デーモンと一緒に攻撃してこないからおかしいと思ったけど、まさかこんな隠し玉を用意していたなんてね」


「これが私の切り札。勝たせて貰うわよ!ラミアル!」


強気の発言ではあるが、彼女はその場で尻もちを付いてしまっている。

流石の彼女も強力な魔獣を連続して召喚したせいで、完全にガス欠に陥ってしまったのだろう。


「その様子じゃ、デカ物を倒せば勝ちみたいね。いざ勝負!」


裂帛の気合と共に、ラミアルはベリアルに突っ込んだ。

いついかなる相手でも正面突破。

それが今の彼女の戦闘スタイルだ。


ベリアルが巨大な槌を、信じられない速さでラミアルへと振り下ろす。

ラミアルはそれを体を半身にしつつ躱そうとするが、その動きに合わせて縦に振られた槌が直角に軌道を変える。


「くっ!」


一撃を腕で受けたラミアルは吹き飛ばされるが、足で地面を踏み砕いて踏みとどまった。

咄嗟にガードした腕が痺れたのか、彼女は受けた腕を軽く振るう。


「この図体でデーモンより早いとか、流石にアムレの切り札だけあるわね」


ラミアルは不敵に笑うと、再び生命砕きライフクラッシュを発動させる。

今度は先程の倍以上の魔力を生み出し、その全身に巡らせた。


「降参するなら今の内よ」


「冗談!あたしの本気ヘルモード見せてあげるわ!!」


彼女は再び突っ込む。

その動きは先程よりも遥かに早く鋭い。

だがそれでも、ベリアルは的確にその動きに合わせて巨大な槌を振るう。


「砕く!!」


瞬間、全身を巡っていた魔力が拳に集約される。

ラミアルは自らに振り下ろされた槌を、白羽鳥のような形で拳で挟み込み――そして砕いた。


「んなっ!?」


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら」


そのままベリアルに突っ込んだラミアルは、狂った様に拳を叩き込む。

打撃に翻弄され、相手は動く事すらできない。


ベリアルもデーモンの様に高い再生能力を持つ。

そう予測したラミアルは、息もつかせぬラッシュをベリアルに打ち込み続ける。


「おらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおらおら……おらぁっ!!」


最後に渾身の力を込めた拳を叩き込む。

その一撃はベリアルの胸を深々と貫いた。


胸に大穴を穿たれたベリアルは仰向けに倒れ込み、ピクリとも動かない。

ラッシュで全身の骨を砕かれ、肉を潰され、更には止めの一撃と来ている。

巨大な力を持つベリアルも、流石に耐え切れなかった様だ。


「勝者!ラミアル!」


勝利を告げるレウラスの声が試合場に響いた。

ラミアルは上がる息を整え、へばっているアムレの側へと歩み寄る。

そしてその左手を彼女へと差し出した。


「完敗よ。私に勝って臨むんだから、王位簒奪戦に負けたら許さないわよ」


「勿論。アムレ以上の強敵なんて居ないんだから、魔王だって楽勝よ」


アムレがラミアルの左手を取って立ち上がる。

見つめ合う二人の表情は笑顔だ。


「じゃ、ご飯でも食べに行こっか。もちろん。負けたアムレのおごりでね」


「ふふん、良いわよ。じゃあ次は大食い勝負よ」


「お、いいわね。望むところよ!」


この数日後、魔王との王位簒奪戦においてラミアルは予告通り現魔王を軽く倒してみせた。

ラミアルはグウベェとの約束を僅か2年で果たし、魔王の座へと就く事に成る。


だが――


魔王ラミアル。

その名は魔族の歴史上、大罪者アウラスと並ぶ罪人として語り継がれる事を彼女はまだ知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る