第32話 異世界の魔獣

「なにあれ……あんな魔獣、見た事ない」


ラミアルが相手の呼び出した魔獣を見て狼狽うろたえる。

まあそれも仕方ないだろう。

呼び出された魔獣は、この世界の者では無かった。


「あれは多分僕と同じ、異世界の魔獣だね」


「異世界の……」


人間の様な体躯に青黒い肌。

鬼の様な角の生えた形相に、背中からは蝙蝠の様な翼が生えている。

所謂デーモンという奴だ。


異世界の魔獣は、この世界の魔獣より遥かに強力だと言われている。

実際ステータスをチェックしてみると、その能力は低くても20台。

筋力に到っては40を軽く超えて来ていた。


「た……たとえ異世界の魔獣だろうと、私にはグゥベェから貰った力があるもの。勝って見せるわ」


――気概は買うが、まあ無理だな。


この世界の魔獣であれを倒すのは難しい。

しかも、デーモンには高い自動回復能力が備わっている。

数で押して消耗させるのも絶望的だろう。


仕方ない。


俺が――


「いでよ!グランドタートル!」


出るよ、と口にするよりも早くラミアルが魔獣を呼び出してしまう。

まあ別にいいけど。


呼び出された魔獣は巨大な亀形の魔獣。

余りにも大きすぎて、試合場が小さく見える程だ。

ラミアルはこいつでデーモンを消耗させる作戦なのだろう。


つまり無駄足だ。


セコンドにちゃんと意見を仰がないから、無駄に寿命を縮める羽目になる。

まあ別に長生きして貰おうとは思っていないので、構わないと言えば構わないのだが、あまり無茶しつづけるとネッドと戦う前に天寿を全うしかねない。


流石にそれは困る。


「ラミアル。あの魔獣には高い自然回復能力が備わっているから、消耗戦では勝てないよ」


「え!?そ、そうなの?」


「うん、だから僕が相手をするよ。亀さんを仕舞ってあげて」


「わ、わかった……グゥベェ、無理しないでね」


俺を心配するなんざ100年早いぞ。

可愛い見た目ではあるが、こう見えて俺はお前の父親を殺しているんだ。

忘れたのか?


「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」


俺は考えている事と、完全に真逆の言葉を口にする。

少なくとも、彼女が魔王になるまでは良い魔獣を演じる予定だ。

そうそうぼろを出すつもりはない。


いや、待てよ。

フラグっぽくちょろちょろ出していくのも悪くはないかもしれん。

その方が面白そうだ。


「でも平気だよ、今からあいつをぼこぼこにして来るよ」


まだ戦闘は始まっていない。

相手も俺が出て来る事を予見してか、亀を歯牙にもかけていなかった。


「お願いね」


ラミアルは亀をさっさと送還し、そして俺を召喚する。

正確には彼女の魔法で俺を召喚する事はできないのだが、頭上に現れた魔法陣に俺は迷わず飛び込んだ。

その際魔法を書き換え、あたかもラミアルに召喚されたかの様に試合会場へと姿を現した。


大観衆の前でずるをするのは少々リスクがあったが、誰も俺のイリュージョンに気づいてはいない様だ。

所詮は試合にも出れないぼんくらの集団、どうやら気にする必要は全くなかったらしい。


さて、どう料理してやろうか……

目の前の魔獣を三枚に下ろすべく、俺は一歩前に踏み出した。

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