第31話 決勝戦開始

「大丈夫かい?ラミアル」


控室のベンチに座っていると、グゥベェが私の顔を覗き込んで優しく声をかけてくれる。

決勝戦へと挑む、私の緊張を心配してくれているのだろう。


「心配してくれてありがとう。でも、大丈夫よ」


決勝戦の相手はかなりの強敵だ。

準決勝までの試合ぶりを見る限り、その強さは他の出場者から頭2つ3つ抜けていた。


だが私には生命砕きライフクラッシュがある。

寿命は縮んでしまうが、無理さえすれば幾らでも魔獣を召喚する事が出来た。

この条件下で私の負けは決してない。


そう、寿命さえ惜しまなければ……


純血種は他の魔族より寿命はかなり長い。

とは言え、永遠では無いのだ。

これから先も長く使って行く事を考えたら、ある程度セーブしていかないといけないだろう。


「きついと思ったら、いつでも僕を呼んでくれていいんだよ」


「うん、ありがとう」


そうは言ってくれるが、出来ればグゥベェの力は使わずに勝利を収めたかった。

彼がその強力な力を振るえば、ドラゴンである事が露見する可能性が出てくるからだ。

出来る限りそれは避けたい。


――亡くなった父の事を思い出す。


それは誤解から生まれた悲劇。

あの時の――父の時の様な苦い思いはもうしたくなかった。

だから私はグウベェがドラゴンである事を、これからも伏せていくつもりだ。


「でも私一人で勝って見せるから、グゥベェはセコンドをお願いね」


グウベェにはセコンドとして私の傍に付いて貰っている。

試合のルール上、事前に呼び出している彼を参加させる事は出来ない。

これは彼を戦わせないという私の覚悟の表れだ。


「分かったよ。頑張って」


とはいえ、試合場で再召喚さえしてしまえばその限りではなかったりする。

だからその気になれば彼を戦わせる事も可能ではあった。


――保険ありきの覚悟。


我ながら情けない事この上なしだとは思う。

でもこの試合だけは、絶対に負ける訳には行かない。


父の後を継ぐのは私だ。

誰にもその席を譲る訳にはいかない。

必ず勝って見せる。


どんな手段を使ってでも……


「これより決勝戦を開始いたします!選手入場!」


アナウンスが流れる。

さあ、決勝戦の開始だ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る