第28話 召喚バトル

召喚バトル。

それは魔族間で行われる代理決闘を指す。


魔族同士の決闘は、基本的に禁じられている。

そのためお互いの実力の優劣を決める時、もしくは揉め事の際、何方どちらの我を通すか決める手段として用いられるのが召喚バトルだ。


そして今、その召喚バトルが開催されようとしていた――


ラミアルの父親は、この辺り一帯を任されていた纏め役だった。

領主と言えば分かり易いだろう。

但し、人間の領主や貴族と違うのは、それが一代限りの物だという事だ。


世襲などと言う言葉は、魔族には存在しない。

強い者が全てを得。

弱いものは全てを失う。


限りなく弱肉強食に近い世界。

それが魔族の世界だった。


そしてラミアルの父は死に、その席は解放された。

当然そこに待っているのは、けんりの奪い合いだ。


――これから行われるのは、次期領主決定戦。


そしてこの大会の出場者の中には、当然ラミアルの姿もあった。


召喚バトルの試合内容は、召喚された魔獣が1対1で戦い。

先に相手の召喚モンスターを全て倒した方の勝ちとなる、至ってシンプルなシステムだ。


但し召喚する魔獣の数は特に制限されていない為、相手次第で倒す数はが大きく変わる事になる。

もし相手が召喚魔獣を100体呼びだせる場合、その100体全てを倒さなければ勝ちにはならない。

つまり、保有する魔力が大きければ大きい程有利に働くルールという事だ。


魔族社会が魔力の強い純血種に支配されているのは、この辺りの事情が大きいと言えるだろう。

とは言え、これは別に不公平なルールという訳ではない。

何故なら、ここで競うのは魔獣単独の強さではなく、使役する側の魔族の優秀さだからだ。


如何に秀でていても、単独で出来る事は限られる。

現実の戦いでも数が物をいう場面は多く、個々の力で劣る者が数で強者を蹂躙する事など良くある話である。


つまり――数もまた強さなのだ。


その為、魔力の続く限り魔獣を召喚する事が許される試合内容は、強さを測る上で合理的な指針で在る事に間違いなかった。


「いよいよだわ……」


ラミアルが緊張した面持ちで闘技場を眺める。

半径20メートルの広い試合場。

そしてそれを取り巻く巨大な観客席。

居並ぶ席は魔族で埋め尽くされ、観客は今か今かと試合の開始を待ち望んでいた。


魔族達にとって、召喚バトルは優劣を決める手段であると同時に、戦いを好む彼らにとって最大の娯楽でもあった。

そのためこういった催しは、常に満席状態が当たり前となる。


ましてやそれが自分達の次の領主だいひょうを決める試合となれば、その熱狂ぶりは、普段行われる小さな力比べの比ではなかった。


「大丈夫。君には僕が付いているよ。信じて」


ラミアルが少し緊張している様なので、優しく声をかけた。

別に緊張したままでもたいして問題は無いのだが、ここは優しいアピールをしておく事にする。


――その方が、後々コントロールしやすいだろうから。


実際問題、ラミアルの勝利は俺がいる時点で確定している。

分身の力は本体の10分の1以下とはいえ、それでも現魔王と戦っても問題なく勝てる位の力は有している。

その俺が領主決定戦程度で後れを取るなど、考えられない。


「ありがとう。私頑張るね」


とは言え、ラミアルに楽をさせるつもりはない。

彼女には出来るだけ自分の力で勝ち抜く様に言ってある。


その為に態々彼女には空間系の加護だけでなく、俺が一週間徹夜で頑張って生み出した召喚魔法もどき――血統に関係なく魔獣を呼び出せる魔法。正確には彼女が呼び出している訳ではないが――を授けている。


更には魔力を捻出するための命砕きライフクラッシュも与えてあるのだ。

精々頑張って貰わないとな。


でないと、俺の一週間の苦労がぱぁになってしまう。

流石にそれはちょっと腹が立つので、マジで頑張ってくれよ。


「選手入場してください!」


入場のアナウンスが流れた。


さあ試合開始だ。

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