第27話 孤独

独りぼっちになってしまった。

お母様は私が幼い頃病でなくなっている。

その上お父様まで失った今、私はもう……独りぼっちだ。


まるで魂が抜け出てしまったかの様な、虚脱感。

私は何もする気が起きず、お父様の部屋の隅でうずくまる。

此処にいると、お父様の匂いがして……まるで傍にいてくれている様だ。


「すまない、ラミアル。僕にもう少し力があれば……」


「……」


グウベェの辛そうな声が聞こえてくる。

だけど、今の私にはその声に答えるだけの気力は無い。


お父様は、何故あんなことをしたのだろうか?


ううん、そんなの分かりきってる。

お父様はドラゴンの力を恐れ、脅威と判断したのだ。

だからまだ幼いうちにグゥベェを亡き者にしようとした。


――例え、どれだけの被害が出ようとも。


あの時見たお父様の魔法。

あれがとても危険な魔法だったのは、未熟な私にも分かった。

もしそのまま威力を発揮していたら、屋敷は只では済まなかっただろう。

当然使用人達だって、その多くが命を落としていたはず。


あの優しかった父が、そこまでしてドラゴンを殺そうとするなんて……私は考えもしなかった。


お父様、ドラゴンはそんなに恐ろしい生き物なの?


かつて大きな災いをもたらしたのは知っている。

でもそれは只の古い御伽噺で、誇張された物だと私は思っていた。

私は……ドラゴンを呼び出すべきじゃなかったのだろうか?


「本当に、どうしようもなかったんだ……」


分かってる。

グゥベェは……悪くない。

彼は只巻き込まれる多くの魔族を助けようとしただけ。

それは優しさからくるものだ。


……だから間違っていたのはお父様の方。


「グゥベェは悪くないよ。私が弱いから……だからお父様は私の事を心配して……私のせいだ」


そうだ、私が弱いから。

身に余るドラゴンという力を、父は恐れたんだ。

全ては私のために……


「本当は、僕がこんな事を口にすべきじゃないんだろうけど……君は強くなるべきだ。ラミアル」


強く……

そう言われ、俯いていた顔を少しだけ上げる。


「君のお父さんは君の事を心配して、あんな無茶をした。だからこそ、君は強くならなくちゃいけないと僕は思う。これは只の感傷かもしれないけど、強くなって天国にいるお父さんを安心させてあげるんだ」


お父様を……安心させる?


そうだ、お父様は弱いから私の事を心配したんだ。

今のままじゃ、天国に行っても私の事を心配し続ける事になってしまう。

グウベェの言う通り、お父様を安心させる方法は一つしかない。

それは私がドラゴンを完璧に使役できるぐらい、強くなる事だけ。


だったら私は――


俯くのを止め。

ゆっくりと立ち上がる。


「私は……強くなる!お父様が心配しなくてもいいぐらいに強くなって、お父様を安心させるんだ!」


私は力強く宣言する。

天国に居るお父様に、この覚悟が届く様に。


「だからお父様、見守っていてください。私が強くなる姿を……どうか……どぅ…か…」


涙が零れ、言葉が詰まる。

強くなるって宣言したばかりなのに……


「ぐ……ぅぅ……こんなんじゃ……また……ひっく……お父様に……」


「今は泣いていいんだよ。いきなり強くなろうとしなくていいんだ。ゆっくり、でも着実に強くなって行こう。だから今は……ね」


ふわふわと目の前に浮かぶグゥベェが、その小さな前足で私の頭を撫でてくれる。

その瞬間、我慢できなくなって私は号泣してしまう。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!お父様!お父様ぁ!!」


お父様との思い出が、私の心の中に溢れ出る。


思い出の中の父の声。

温もり。

優しさ。


私は絶対に忘れない。

そして私は強くなる。

お父様が私にかけてくれた愛情を、この思い出を無駄にしない為にも。

絶対に。


だけど……今は……今だけは……もう少しこのまま弱虫でいさせてください。


お父様……

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