第25話 ドラゴン
ドラゴン。
それは幻獣とも呼ばれる異界の魔獣。
神が生み出したとされる奇跡の存在だ。
その体躯は山の様に大きく。
その力は一撃で大地を裂くとも言われ。
魔法を使えば時間すらも操り。
ブレスを吐けば、天変地異がおこると伝えられている伝説の魔獣だ。
かつて一度魔王がドラゴンを召喚した際は、その余りにも強すぎる力を制御できず、危うくこのレジェンディアが滅びかけたとまで言われている。
その伝説上の存在が、私の前に――
……いる?
…………うーん、どう見てもそうは見えない。
目の前にいる魔獣――グゥベェは自らをドラゴンと名乗った。
だがその体は小さく、子犬サイズしかない。
体は真っ赤な体毛に覆われており、背中からは小さな翼が生えてふわふわと浮かんでいた。
確かに見た事のない魔獣ではあるが、その愛らしい姿は伝説上のドラゴンとは似ても似つかない。
強いて挙げるなら、その4つの眼差しが少々鋭く、ドラゴンっぽく見えなくも無いかなと思わせる程度だ。
うん、やっぱり違う。
この子ははドラゴンじゃない。
あと魔王少女って何?
意味が分からないんだけど?
「あんた、ドラゴンじゃないでしょ?」
「君は自分の召喚した魔獣を疑うのかい?」
そう言われると辛い。
自分の呼び出したものを疑うという事は、自らの資質をも疑う事に他ならないからだ。
私が押し黙っていると、魔獣は言葉を続ける。
「僕はドラゴンの幼体なんだ。大きくなるのはこれからさ。でも今の僕でも、この世界の魔獣程度目じゃないけどね」
「じゃあ力を見せて見なさいよ」
ドラゴンかどうかは胡散臭い事この上ないが、力があるのならこの際目を瞑ろう。
従える魔獣が強ければ、それは私の実力を示すバロメーターになるのだから。
少しの嘘位は見逃して上げる。
「力を見せたら、まおう少女として僕と契約してくれるかい?」
「だから魔王少女って何よ?そもそも召喚された時点で従魔契約は成立してるでしょ?」
「それが違うんだなー」
グゥベェが前足を上げて立ち上がり、まるで2足歩行の動物の様な姿勢を取る。
そして鋭い爪の生えた前足の指を立てて、横に二三度振った。
その様子を見て、何だか無性に馬鹿にされた気分になるのだが気のせいだろうか?
「僕達ドラゴンは、普通の契約だけじゃ縛れないのさ。此方にもそれ相応のメリットが無いとね」
「何ですって!?従魔が主に見返りを求めようっての!?」
そんな話、聞いた事も無い。
召喚された従魔は主人に絶対服従。
死ねと言われれば素直に従う。
それが召喚による隷属と言うものだ。
「そうだよ。そしてその為のまおう少女契約さ」
「ふざけないで!」
カッとなって思わず怒鳴った。
やっと呼び出せた魔獣だからと甘い顔をしていれば、付け上がるにも程がある。
どうやら強くしつける必要がある様だ。
幾ら強かったとしても、こう態度が悪くては周りに馬鹿にされてしまう。
「我ラミアルの名において命じる!従魔よ、平伏せよ!!」
言霊に魔力を込めた絶対順守の命。
従魔であればどれ程強くとも、逆らう事は出来ない。
さあ、ひれ伏すがいいわ!
「無駄だよ」
「なんで!?」
グゥベェは微動だにしない。
そんな事、在り得ないはずなのに。
そこで思い出す。
ドラゴンの逸話を。
ドラゴンはかつて、このレジェンディアを危うく滅ぼしかけたと言われている。
それはつまり、召喚主の命令を無視して暴れたという事を意味しているのではないのかと……
目の前の小さな魔獣と、伝説のドラゴンの符号が私の中で一致する。
「……それじゃ……貴方本当に……ドラゴン……なの?」
「そう言ってるじゃないか。さあ、僕と契約してまおう少女になってくれないかい?まおう少女になれば、落ちこぼれの君の力は大きく飛躍する事になる。僕が君を強くしてあげるよ」
私はゴクリと唾を飲み込む。
ドラゴンの恐ろしさは伝え聞いている。
だが、私は力が欲しかった。
一人前の魔族になる為の力が。
幸いこのドラゴンはまだ子供だ。
大きくなって手が付けられなく成りそうなら、その時はさっさと送還してしまえばいいだけ事。
――きっと大丈夫。
私は自分にそう言い聞かせ、黙って首を縦に振る。
「契約成立だね 」
こうして私はグウベェと契約し、魔王少女なる存在に生まれ変わる。
だがこの時、私は気づくべきだったのだ。
グゥベェの描く恐ろしい未来図に。
私は力欲しさにグゥベェと契約した事を、後々後悔する事になる。
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