第18話 登山

「お兄ちゃーん。疲れた、おんぶしてー」


レーネがぐでっとした様子で斜面に腰を下ろし、泣き言を口にする。

基本妹の我儘に付き合うテオードも、溜息を吐いて首を横に降った。

流石の体力自慢の彼も、妹とその荷物を背負って山の急勾配な斜面を登るのはきついらしい。


テオードに拒否されたレーネは、次いで此方にすがる様な視線を向けて来た。

だがテオードできつい事を俺が出来る訳もなく、俺も苦笑いで首を横に振る。


ここはレイクリアから西へ2日ほど徒歩で向かった場所にある、セネック山。

俺達は東側から山に入り、今中腹辺りに差し掛かった所だ。


そこでレーネが早々に根を上げてしまう。

まあそれも仕方ないと言えば、仕方ない事だが。


この山は標高1500メートルとそこまで高くは無い。

だがその道のりはとにかく険しかった。

東側から見たセネック山はほぼ禿山状態であり、断崖に近い様な急斜面が続いている。

はっきり言って、こちら側は登山には向いていない。


通常セネック山を登るなら、傾斜が緩やかな西側から登るのが常識である。

俺達もそうするつもりだったのだが、レーネが東側からの登頂を主張したため、急斜面である東側を進む事になったのだ。


彼女曰く、西側に回り込むなど時間の無駄らしい。

まあ結果はこのザマな訳だが。


「一旦休憩しようか」


「そうだな」


「休憩したら背負ってってね」


レーネはもう自分で歩く気は無いらしい。

俺とテオードはお互い顔を見合わせた後、深く深く溜息を吐いた。


「なによ!2人とも男なんだから、か弱いレディーをエスコートする位しなさいよ!」


斜面に大の字で寝転がる姿には、レディーのレの字も見当たらない。

淑女を名乗るなら、もう少しお淑やかな姿を見せて欲しいものだ。

そもそも女性へのエスコートに、背負って山に登る事が含まれるなんて聞いた事もないぞ。

そんなきつい真似しなくちゃならないなら、俺は紳士じゃなくてもいいかなと割と本気で思う。


「魔法でなんとかならないのか?」


「そうだよ。一応レーネは天才魔道士なんだろ?」


「何よその懐疑的な言い方は。天才にだって出来る事とできない事があるのよ!」


だったら何故東からの登頂を主張した?

俺はてっきり魔法でなんとか出来るから、この道を選んだのだと思っていた。

テオードだってそう思っていたからこそ、反対しなかったのだ。


「仕方ない。余計な荷物はそこの岩場に置いて行くとしよう」


テオードが斜面から大きくせり出した岩を指差す。

まあ確かに背負っている荷物を置いていけば、かなり楽にはなるだろう。

こんな場所じゃ盗まれる心配もないだろうし。


「ネッド、此処からは俺とお前でレーネを交互に背負って進むぞ」


「ええ!?」


「レーネはそれほど重くない。荷物さえなければいけるだろう」


確かに行けなくはない。

だがテオードはともかく、俺の体力じゃ滅茶苦茶きついんだが……


「いいな」


「わかったよ」


レーネに自分の足で歩かせたら、休憩だらけでいつになったら着くか分かったものじゃない。

仕方がないので俺は渋々了承する。

まあ訓練と思って頑張るとしよう。


「やったー!さっすがお兄ちゃん!」


「おい。レーネを背負うからといって、変な気は起こすなよ」


テオードが近づいてきて耳打ちしてくる。

そんなに心配なら、交互じゃなくて1人で背負って行けばいいのに。

まあそれが出来るんなら、交互でなんて言わないんだろうが。


俺たちは荷物を岩場に置き、荷物レーネを交互に背負いながら頂上を目指す。

そしてそれは想像していた以上にキツい行程だった。

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