第16話 設定資料集

「偶然か?まさか気づいている?いや、流石にそんな筈は……」


予期せぬ出来事に少々困惑する。

ネッドへの褒美として嘘の本をブルームーン魔術学院に仕込んだのだが、そこで驚くべき事が起こったのだ。


あの女――ネッドの幼馴染であるヒロイン候補のレーネという娘。


そいつが俺の仕込んでいた本を、迷わず手に取ってみせたのだ。

何のヒントもなしに。


普通書物を探す場合、司書に話を聞いたり、目録から当たりを付けたりするものだ。

図書館に本を仕込むに当たって、そういった線から彼女を誘導する仕掛けを幾つも俺は設置しておいた。

だが彼女はたいして探す素振りぶりなど一切見せず、真っすぐ図書館の奥の棚までやってきて、初手でいきなり当たりを引き当てている。


図書館には万単位の本が蔵書されているんだぞ?

それをワンターンキルとか……勘とか偶然のレベルを明らかに超えた引きの強さだ。

豪運にも程がある。


だが本当に只の運なのだろうか?

気になってレーネのステータスを確認してみるが、特に特殊な能力などは持ち合わせていない。


となると――


やはり―――


本当に―――


ただの偶然か?


気にはなる。

なるが、まあいいだろう。

特にこのゲームに、今のところ影響はないからな。


俺は空間に穴をあけ、異空間からノートを取り出した。

魔法で作った、俺にしか開く事の出来ない特殊な設定資料集だ。

ノートを開くとそこには所狭しと文字が書き込まれており、中にはネッドやそれ以外の人物の特徴がびっしりと書き込まれている。


俺はレーネの項を手繰ると、彼女の特徴部分に新たに豪運と書き加えた。


「これで良し!」


そのままノートを異空間に仕舞おうとしたが、途中でその手を止める。

せっかく取り出したのだ。

ついでに他の情報も上書きアップデートしておく事にする。


こうして俺は寝る間も惜しみ、夜通しニヤニヤしながら資料集の細々とした編纂を行なうのだった。

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