第15話 キメラ
「私が見つけたのは、500年以上前に書かれた日記よ」
「日記?」
「ええ。最初はなんて事のない古い日記だと思ってたんだけど……なんて言うの、不自然だったのよね。文章として。そこであたしピーンと来たの。あ、これは暗号文だって」
研究者が自分の研究成果を盗まれない様、暗号化して書き記すというのは良くある事らしい。
レーネは「まあ天才だから気づけたんだけど」と自慢げに話しを続ける。
「で、暗号を解いてみたら。なんとその日記は合成生物についての研究日誌だったってわけよ。合成生物ってのいうのは、今では禁止されてる危険な研究なんだけど……まあ詳しくは置いておいて。とにかく、そこに乗ってたのよ」
「グヴェルの事が?」
「そう!生み出された合成生物の一覧の中に、グヴェルの名前が載ってたのよ!」
レーネは勢いよく立ち上がり、興奮気味に叫んで右手の人差し指を何故か俺に突きつける。
推理小説などでよくありそうな動きではあるが、俺は犯人ではないし、何より殺人事件など起きてはいない。
何がレーネをそう駆り立てたのか謎だ。
しかし……合成生物か。
それがグヴェルの正体なんだろうか?
合成生物というぐらいだ、何らかの生物を掛け合わせて生み出されたという事なのだろうが……
グヴェルの姿を思い出す。
あの禍々しい姿。
いったいどんな生物を掛け合わせれば、あんなにも醜悪な姿で生まれてくるというのか。
「日誌によると、グヴェルは異世界から流れ着いた生物の死体と人間を掛け合わせて作られたみたいね」
「人間と異界の生物か……とても正気の沙汰じゃないな」
俺もテオードと同意見だ。
生物を掛け合わせるだけでも滅茶苦茶なのに、挙げ句の果てに異世界のよく分からないモノと人間を掛け合わせるなんて……考えただけでもぞっとする。
「確かに狂ってるわね。日誌にもとんでもない化け物が生まれたって書いてて。特徴は赤いひび割れた肌に目は4つ。両肘からは長い鉤爪が伸びてるって書いてあったわ」
その特徴。
間違いない。
グヴェルだ。
「どうもグヴェルには時間に干渉する能力があったみたいね。で、日誌にはそこまでしか書かれてなかったわ」
「そこまでって、なんでそんな中途半端な」
「続きを書けなかった……という事だろう」
「それって……」
「まあグヴェルが今も生きてるって事は、そういう事なんでしょうね」
日誌を書いていた人物を殺し、逃走したって事か。
しかし異世界の生物と人間との合成。
大元にされた人の意識なんかはどうなったんだろう?
グヴェルの中に残っているのだろうか?
人としての記憶や思い出が。
だとしたらそれは……自分がもしそんな状態ににされたらと思うと、恐ろしくて身震いしてしまう。
「さて、ここで提案なんだけど。行ってみる?グヴェルの生まれた場所に」
「え!?」
「書いてあったのよ。施設の場所がね」
グヴェルの生まれた場所。
レーネが探して見つけてくれた日記のお陰で、グヴェルが合成生物だというのは分かった。
その能力が時間に関するものだという事も。
それでもまだわからない事だらけだ。
奴がなぜ俺に力を与えたのか。
奴の口にした世界を混沌へと導くという言葉の意味も。
「で?どうする?」
「行くよ。まだ全然わからない事だらけだ。何か手がかりがあるかも知れないなら、俺は行く」
「決まりね!場所はレイクリアの西にある山よ。片道3日ぐらいかかるから、そのつもりでいてね」
「おい、俺も行くぞ」
「え、お兄ちゃんも行くの?」
「当然だろう。ネッドと2人旅なんぞ、させる訳にはいかないからな」
そう言うと、テオードがこちらを睨んでくる。
俺とレーネで何か起きるわけもないだろうに、本当に心配性な奴だ。
「まあいいけど。じゃ、出発は明後日の朝でいい?」
「問題ないよ」
「オッケー。じゃ、明後日の朝迎えにくるから旅の準備ちゃんとしといてねー」
そう言うとレーネは部屋から出て行く。
それを追う様にテオードも俺の部屋を出て行こうとするが、扉をくぐる間際で突然振り返り――
「妹に手を出したら承知しないぞ」
一言そう凄んで出て行った。
俺はやれやれと肩を竦め、立ち上がって明後日からの旅に必要な物を頭に浮かべる。
少し早いが用意を始めるとしよう。
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