第7話 権力闘争

ふむ、頑張っているな。

河原で元気に素振りをするネッドを、微笑ましい気持ちで見つめる。

やる気があるのは良い事だ。


しかし魔神グヴェルか。

ネッドにやる気を出させる為即興で考えた設定だが……悪くない。


親からは名を貰っていない事だし、これからはそう名乗るとしよう。

前世の名前――榊益夫――は、あんまりカッコ良くないからそっちは無かった事にしておく。


それにしても……進展しないな。

ネッドの素振りをぼーっと見つめながらそんな事を考える。


あれから一週間。

流石に何のイベントも無く、ひたすら素振りシーンを垂れ流され続けるのは少々飽きてきた。


まあ与えた能力的に考えて、いきなり無双できる様にはならないだろうし、地味に見守るしかない訳だが。


もっとチート増し増しが良かったのではと一瞬考える。

だがそれはそれで、直ぐにつまらなくなるのが目に見えていた。

このまままったりと見守るしか……いや、やっぱダルイ。


とっと時間を高速で進めるスキップする事にした。


俺には時間をある程度自由に操る能力がある。

少々体力を使うが、高速で進める分には半年や1年ぐらいなら大した事はないだろう。

取り敢えず、半年ほど進めてみる事にする。


「半年ほど眠りにつく」


実際眠りにつくわけでは無いが、時間の流れの差的に他の奴らからは俺が全く動いていない様に見えるはずだ。

眠ると伝えれば、下僕達に余計な心配をかける事も無いだろう。


「は?え?それは?」


「そのままの意味だ。俺が眠っているからと、余計な考えは起こすなよ」


裏切らない様、釘も刺しておく。

まあ裏切られても痛くも痒くも無いのだが、万一に備えて自分の周りに結界を張ってから能力で時間を高速化した。


途端、鉄格子越しの下僕達の姿がまるで分裂したかの様に増える。

早送りしすぎてもはや何が何だか訳がわからん。

まあそんな物を見ていても仕方ないので、俺は目を瞑り、小一時間ほど瞑想に入った。


目を開けると、既に時間の流れは通常のものに戻っている。

俺は再び目を瞑り、今度は瞑想ではなくネッドの様子を伺う。

脳裏に河原が映し出され、そこには黙々と剣を振るう彼の姿があった。


その様子からは、余り変わりが無い様に感じる。

やはり半年程度ではそこまで大きく代わり映えはしない様だ。


もう一度加速を――そう考えた時、傍に見慣れぬ気配がある事に気づいた。

閉じていた瞳を開けると、看守の中に見知らぬ顔が混じっている。


恐らく看守では無い。

其の男は仕立ての良い高級そうなローブに身を包み、明らかに兵士とは違う雰囲気を醸し出していた。


「見ない顔だな」


「初めまして、殿下。私はリンドウ家長男、ラグレと申します。お目にかかれて光栄です」


俺が声をかけると、ラグレは恭しく頭を下げた。

その所作はとても優美で洗練されている。


「光栄……ね。それで?公爵家のお坊ちゃんがこんな薄汚い場所に、一体なんの用だ?」


リンドウ家はこの国を筆頭する公爵家の家柄だった。

奴の名乗りが嘘でないのなら、そんな奴が何のためにこんな場所に足を運んだのか理解不能だ。


怖いもの見たさで珍獣おれでも見に来たのか?

返答次第では、目玉の2〜3個でもくり抜いてやるとしよう。


「勿論、第一王子であらせられる殿下への挨拶のためでございます。僭越ながら、殿下がお目覚めになられるのを心待ちにさせて頂きました」


ポチとタマの方を見ると、二人が首をブンブンと縦に振る。

どうやら、俺が目覚めるまで足繁く此処へ通っていたのは事実の様だ。


只の暇人と言う訳でも無いだろう。

だが目的が見えん。

第一王子とはいえ、俺は実質存在を――ん?第一王子?


「弟が生まれたと言う事か」


「ご存知でしたか、さすがは殿下」


別に知っていた訳ではない

奴がわざわざ俺に第一と付けた事から、推測したまでだ。


しかし早いな。

俺が生まれてまだ9ヶ月程だ。

期間的に早産という線もありえるが、俺の母親とは別の女が生んだと考えるのが妥当だろう。

まあ王族だしな、第2王妃や妾がいてもおかしくは無い。


そう考えると、こいつの目的も何となくだが読めて来た。

だが俺の考え通りだとすると、正気の沙汰ではないのだが……


「まさかとは思うが、俺がこの国を継ぐべきだとでもいうつもりか?」


「まさかも何も、王家の正当な血筋を担う殿下以上に次期国王に相応しい方はおられません」


やべぇ、こいつマジキチだ。

どこの世界に、目玉4つある赤い肌の化け物が治める人間の国があるってんだ?

魔物の占領地じゃあるまいし。


「正気か?」


「勿論でございます」


ラグレは真っ直ぐに此方を見つめる。

その瞳に狂気の色は宿っておらず、しっかりとした意思の光が見て取れた。

どうやら、正気を失った末の戯言では無さそうだ。


となると、余程第2王子に後を継がせたく無いという事だろう。

こいつから事情を根掘り葉掘り聞いても構わないが、それだとなんだか格好が悪い。


自分で調べて、悠然と貴様の事情は知っている的な立ち振る舞いをした方が、大物っぽくて良いよな。

とりあえず、今日の所はお引き取り願おう。


「貴様の考えはよく分かった。次までに考えおくとしよう」


そう言うと、俺は鷹揚に手を振ってラグレに下がれと示唆する。

奴はそれに答える様に深く頭を下げ、失礼しますと口にして此処から立ち去っていった。


「さて、調べるとするか」


俺は両目を閉じ。

額の方にある両の目で、第2王子関連やリンドウ家の動向を探る。

正直権力闘争などには余り関心はなかったが、化け物を王に据えるという発想には興味が引かれた。


どうせ暇を持て余した身だ。

サブイベント的に関わるのもありかと、心の中でほくそ笑む。


「どうやって化け物を王に立てるのか、楽しみだ」


リンドウ家の手並み、とくと拝見させて貰うとしよう。

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