有野君は今日も告る②
「死ぬまであなたを大切にします! 僕と付き合ってください!!」
今日も重たいセリフで告白をしているのは
静かな教室、校庭からは部活の声、西日に照らされる制服の男女、という、味自慢の中華屋の床ぐらいベッタベタなシチュエーションの中、今時少女漫画でも言わないようなクサいセリフを言い放った彼だが、その声にはやはり切実な思いが感じ取れた。
「……」
その言葉を黙って受け止めているのは、
「俺だけはあいつの良さが分かってる」と勘違いして、返り討ちにあう陰キャ共、もとい被害者も後を絶たない。「カウンターキラー新田」とは彼女のことだ。名付け親は私。もちろん今思いついた。
そんな私は誰かって? よくぞ聞いてくれた。
私は
暗くジメジメした箱の中で身を潜めていると、胎児の頃の記憶がよみがえるような気がする。胎児よ胎児よなぜ踊る? いや、踊ったら気づかれるから静かにしてるけれども。
そんなドグラでマグラな私の脳内対話はさておき、二人の間にはしばらく沈黙が流れた。が、その沈黙を破ったのは新田ちゃんの方だった。
「……ありがとう」
今回も、どうやら告白の意思は伝わったようだ。有野君の声にはどこか切迫した雰囲気が漂っており、彼が真剣であるのは誰にでも分かる。
が、彼は先週同じテンションで星野ちゃんに告白していたはずだ。偶然にも同じ場所から二つの告白の一部始終を見ていた私から見ても、有野君の熱量は先週と変わらず、全く同じ誠実さを保っていた。悪ふざけであってくれた方がまだ理解できる。恐ろしく前向きなのか、とんでもサイコ野郎なのか、もしくは「恐ろしく前向きなとんでもサイコ野郎」かもしれない。一番怖いなそれ。
私の困惑を知ってか知らずか(いや、知らないんだろうけど)、有野君は真剣な表情で次の言葉を待っていた。有野君の顔には、全く手ごたえのなかった入試の合格発表を見る時のような、自分の中で消しきれない、淡い期待が見え隠れしていた。
しかし、現実は非常だ。私はこの告白の結末を知っている。
「……ごめん。私、彼氏いるの」
そう。新田ちゃんには既に彼氏がいる。これは女子の中では有名な話だった。
「そ、そっか。ごめん」
有野君はそれだけ言い残し、教室から走り去っていった。ほどなくして新田ちゃんも首をひねりながら出て行った。
私は二人が完全に教室から出て行ったのを確かめてから、掃除用具入れから飛び出た。やはり成長してから胎児に戻るのは、無理があった。髪に引っかかった埃を払い落としながら、私はもう二度と掃除用具入れには入るまいと決意を新たにした。
また一つ賢くなったな。有野君。
「かわいくて大人しい子には彼氏がいる」
ここ、意外とテストで狙われるからな。
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