有野君は今日も告る
1103教室最後尾左端
有野君は今日も告る①
「死ぬまであなたを愛します! 僕と付き合ってください!」
ただいま決死の告白をしているのは
放課後、人気のない教室、二人の男女というベッタベタなシチュエーションの中、百何回目のプロポーズだそれはと問い詰めたくなるような大仰なセリフを放った彼だったが、震えを必死にこらえる声色から、必死さは伝わってくる。
「……」
お相手の女の子は、
誰にでも優しく接するために、勘違いする陰キャ共、もとい被害者が後を絶たないことで有名だ。「一高の撃墜王」とは彼女のことである。ちなみに名付け親は私。今考えた。
ん? それなら私は誰かって? よくぞ聞いてくれた。
私は
二人の間にはたっぷり十秒ほどの沈黙があった。が、星野ちゃんが気遣うような声でその静けさを破った。
「ありがとう。とってもうれしいよ」
とりあえず、有野君の告白の意志は星野ちゃんに伝わったらしい。あんなセリフでも冗談じゃないと分かってもらえただけ、有野君の声には真剣さがあったのだろう。
有野君は何も言わず、じっと次の言葉を待っている。望み薄なのは分かっているだろう。有野君と星野ちゃんの接点はほとんどない。星野ちゃんが有野君に惹かれている可能性は皆無と言っていいだろう。それでもきっと彼の心には、コーヒーをこぼしたときのシミみたいに、頑固で落ちない期待が残っていると思われる。
しかし、現実は儚い。私はこの告白の結末を知っている。
「でも、ごめんね。私、実は彼氏いるんだ」
そう。星野ちゃんには既に彼氏がいる。そして、これは女子の中ではそれなりに有名な話だった。
「そ、そっか。ごめん」
有野君はやや震える声でそれだけ言い残し、教室から走り去っていった。ほどなくして星野ちゃんもゆっくりと教室をでていった。
私は二人が完全に教室から出て行ったのを確かめてから、掃除用具入れから飛び出た。約10分ぶりの外界は涼しく、快適だった。もう二度と、掃除用具入れに入るのはやめようと強く心に誓った。
勉強になったな。有野君。
「かわいくて優しい子には彼氏がいる」
ここ、テストに出るぞ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます