第15話 華月と見知らぬ女性
今日のバイトにシフトが入ってない事を確認し、輝瑠は放課後の予定を思い浮かべる。といっても、帰宅という選択肢しかない。このまま真っ直ぐ帰るのもいいが、少し寄り道したい気分だった。
駅へ向かう途中で、本屋へ立ち寄ってから中をぐるっと一周する。特に何か購入予定の本や気になる本は無かったため、そのまま駅へ向かった。
しばらくして目的の駅へ着き、歩きたい気分になる輝瑠。適当に駅前をブラブラと歩く。すると、誰かにトントンと肩を叩かれた。
最初、警察に職務質問されたのかと驚愕する。怪しい行動はしていないと、心当たりはなく、恐る恐る振り返る。
そこには朱璃が手を振っていた。
「輝瑠君やっほー♪」
「朱璃さん?」
ニコッと笑顔が眩しく、それだけでほとんどの男子は胸が高鳴り、惚れてしまう破壊力のある笑顔。現に周囲の男達が、チラチラと朱璃へ視線が向けられ、目を奪われていた。朱璃の美少女っぷりは大学生になっても健在である。いや、むしろ磨きがかっている。
昔から付き合いがある輝瑠さえも朱璃の姿に見惚れてしまう事はある。
そんな魅力的な朱璃に彼氏がいないのは不思議に思う。
「今日って輝瑠君シフトに入ってたっけ?」
「今日は入ってないですが、朱璃さんはバイトなんですか?」
「そうそう。これから向かうとこー。良かったら一緒に向かう?」
「それって暇潰し相手になれってことですか?」
「正解♪ 今日も暇だと思うし、輝瑠君もいないとなれば話し相手がいないでしょ?」
「サボる気満々ですね」
「それは輝瑠君もそうでしょ?」
店長はどうしてやる気のない2人を採用してしまったのだろうか。
「やだなー俺はサボってませんよ? やる気ありますよ」
「あはは、その棒読みはいくらなんでもわかるよー」
口元に手を広げ、おかしく笑う朱璃。
輝瑠はこの後の予定を思い浮かべる。けれど確認するまでもなく、バイト以外の予定が入ることは皆無である。
「特に予定もありませんし、いいですよ」
「やった♪ 輝瑠君の予定、私がもらったぜ! じゃあ、行こっか?」
小さくガッツポーズをする朱璃の姿が可愛かった。
二人は横に並び、カフェへ向かう。
いつも通り、距離感は近く、傍から見たら恋人同士に見えるのだろう。輝瑠は少しだけ優越感に浸る。
ただまあその相手が輝瑠ってだけで、恐らく不釣り合いにも映るのだろう。そう考えると、微妙な気分になってくる。
カフェまで短い距離を歩いて数分、あっという間に目的地へ着いた。朱璃が適当に座っててと声を掛けてから更衣室へ向かう。
輝瑠は店内を見渡す。お客さんは少なく、席が空席が目立っている。
適当に座ろうとカウンターの隅っこへ向かうと、視界の端に華月の姿が映った。
思わず声が出そうになるのを堪えた。
なぜこんな所にという疑問が残りつつ、華月の他にも対面に座る見知らぬ女性の姿もあった。スーツを着こなし、二十代に見える若そうな女性。実際の年齢は分からないが、大人の女性と華月が会話している事に疑問が残る。
遠目から女性は困った顔をして、対して華月の方は険しい顔をしている。
「ーーすみません・・・・・・あたし、これ以上は・・・・・・」
「どうしても難しいの? まだまだこれからって時に・・・・・・」
「すみません・・・・・・」
華月は顔を俯いて、女性の方はどうにかして説得を試みている。
二人が一体どんな会話をしているのか、少し離れており、途切れ途切れの会話しか輝瑠に届いてなかった。内容が気になるところだが、勝手に盗み聞きするのはよくないと思い、会話が聞こえづらい方へ離れた場所の席に座った。
「ご注文はお決まりでしょうか? 輝瑠君?」
しばらくメニューを眺めていたら、ウェイトレス姿の朱璃が近づいてきた。特に何を注文するか考えてなかったが。
「アイスコーヒーで」
特に決めてないときは必ず輝瑠が注文するものを口にする。すると、朱璃の手には既にアイスコーヒーとミルクティーを手にしていた。
「ふふ、そうだろうと思って持ってきました!」
「俺、二杯も飲むつもりはないんですが・・・・・・?」
「もう一つは私のよ?」
「早速サボる気ですか」
輝瑠の隣に座り、持ってきたミルクティーを一口飲む。
店内のお客さんは華月達とキーボードを叩く男性のみ。しばらくは朱璃が働いてなくても問題はない。店長も朱璃へ視線を向けていたが、特に注意をする様子もない。
いつも通りと言えば、いつも通りである。
「朱璃さんが呼び込みしたらお客も増えて、店長も喜ぶんじゃないですか?」
「ただでさえランチタイムは忙しいのに、ランチタイム終わっても忙しくなるのは嫌よ。それに輝瑠君ともお話できなくなるよ」
「まあ忙しいのは避けたいですね」
終始忙しく動き回るより、適度に労働して、休憩する方が輝瑠としては助かる。働き過ぎはよくない。
ただ店長からしたら売上が増えた方が助かるんだろう。
やはり人選を間違えてないだろうか。輝瑠はそう思うが、特に改善しようという気持ちにはならなかった。そんな二人の会話を遠巻きに聞いていた店長は苦笑いを浮かべていた。
「輝瑠君は月花の曲聴いてるんだよね?」
輝瑠は華月達の方へ一瞥する。仮にも仕事中の朱璃だから声のボリュームは控えめにしているため、華月達に声は届いてなかったようだ。
「まあ聴いてますよ。何度も繰り返し聴いても飽きない、あの歌声に惚れましたし」
実際、間近で本人の生歌を聴いた事もあるとは、流石に言えないし、同じ空間に話題の月花がいることも言えない。
「輝瑠君も虜になっちゃったみたいだね♪ これでまた一人ファンが増えてしまった、ふふ。って何かニヤニヤしてどうしたの?」
「あー、いや」
輝瑠だけが月花の正体を知っている事に、優越感に浸っていたら自然と口角が上がっていた。
「朱璃さんって可愛いなって」
つい誤魔化すためにそう言葉にしてしまった。
朱璃は数秒、何を言われたのか理解できずフリーズして。
「はえっ!?」
ようやく輝瑠の言葉に理解した朱璃が変な声を上げて、顔を真っ赤に染めた。
「か、かか輝瑠君!? お、お姉さんをから、からかうような事を言ってはいけないよ!?」
「え・・・・・・? あ、す、すみません」
輝瑠が自分で口にした言葉を思い返して、慌てて謝罪する。
「べ、別に謝らなくても・・・・・・」
お互い微妙な空気になると、タイミングが良く華月達が席を立ち上がり、レジへ向かった。それに朱璃は直ぐに対応しにレジへ向かった。
輝瑠は安堵の息を吐いて、華月達を横目で見る。
華月は輝瑠に気づくことなく、店の外へ出て、もう一人が会計を済ませていた。
結局二人は何を話して、どんな関係なのか、それが気になっていた。
輝瑠はアイスコーヒーを飲み干し、時間を置いてからそろそろ帰宅しようとレジへ向かった。
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