第12話 月花のデビュー曲②

 夕飯を終えて、風呂から上がった輝瑠はソファーで寛いでテレビを眺めていた。

 芸能人のトーク番組で今社会現象となってるアニメについて語っている。映画化もされており、最近公開したばかりで、さらに爆発的な話題を呼んでいる。色んなニュースにも取り上げられ、そのアニメのタイトルを目にする機会が多い。

 輝瑠は「凄いなー」と口にするも、別の思考に捕らわれていた。

 しばらく呆然とテレビを見ていると、突然チャンネルが変わった。テロップには「今話題の月花が初登場!」と表示され、仮面を付けた月花が笑みを浮かべながら話をしていた。


「ーーえ?」


 人前に姿を出すことがなかった月花が、仮面付きとはいえ、テレビに出演していた。それに驚く輝瑠を余所に。


『ーーでは月花さんの新曲についてお聞きしてもいいですか?』


 司会者に次の新曲について話題を振ると、月花が言葉を詰まらせる。しかし、それは誰にも気づかれない一瞬の間。


『そうですね。今は新曲の進捗具合はまだまだですけれど、近いうちに発表できるかと思います』


 誰が見ても自然な振る舞いで違和感はないだろう。しかし、仮面の裏側で、月花の表情が僅かに堅くなっているように感じられた。


「月花の新曲すっごい楽しみだよねー! お兄ちゃんもようやく月花のファンになったんだから月花の新曲の情報は逐一収集すること!」


「・・・・・・りょーかい」


 未だに驚きはあるが、何とか言葉を詰まらせずに返事をする。

 そんな輝瑠の様子に気付かず、風呂上がりの桃音が輝瑠の隣に座る。その拍子にふわっと髪の毛からシャンプーの匂いが漂う。


『ーーそれではこの後、月花さんによる歌を披露していただきます』


「え!? うそ!? 月花の歌だって! お兄ちゃん! これは月花ファンとして聴かないとダメだからね!」


 テンションが上がる桃音を余所に、テレビに映る月花を凝視し、その声を集中して聞いていた。

 姿や声はやはり輝瑠が知る華月と一致する。もはや本人だと確定していいだろう。

 テレビの向こうにいる月花は準備を終えると、デビュー曲である『始まりの春色』のイントロが流れ始める。

 マイクを持つ手は強く握り締めており、少し緊張した様子だった。

 口元にマイクを持って行き、歌い始める月花。

 スタジオ内ではその歌声に誰もが魅了され、時が止まったようにジッと月花の歌に集中して聴いていた。輝瑠と桃音も同様に、集中していた。

 そして誰もが完璧な歌声だと、そう感じているだろう。

 しかしーー。


「・・・・・・ねぇ、お兄ちゃん」


「どうした?」


「ちょっと月花の歌に元気がないように思ったんだけど・・・・・・気のせいかな?」


 月花のファンである桃音が感じた違和感。それは輝瑠も同様に感じていた。

 ただ出演者や観客には特に何も気にした風もなく、賞賛の声を上げていた。


「初めてのテレビ出演だから緊張してるとかじゃないのか?」


「う~ん、確かにそれはあり得るかも」


 輝瑠は適当にそれっぽい事を口にしたが、輝瑠自身は自分の意見に否定する。緊張が原因ではなく他に何か原因があると思っていた。

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