第10話 桃音と布教
そろそろ就寝しようとした輝瑠は、朱璃から熱く語られた月花のことを思い出した。
忘れないうちに桃音からCDを借りようと部屋に向かい、ドアをノックする。中から「いいよー」と許可が出て、部屋の中へ入る。
部屋の中は白とピンクの女の子らしい色合いとなっている。床には何も散らかっておらず、綺麗に片付いている。それに珍しさは特になく、元々桃音は綺麗好きなのだ。
輝瑠はベッドの上でうつ伏せになっている桃音へ視線が向く。文庫本を開いて読書をしている最中たった。
「桃音に借りたいものがあるんだが」
「んー? お兄ちゃんがももに借りたいもの? 一緒に寝るために来たんじゃないのー?」
「桃音に借りたいものがあるんだが」
輝瑠の二度目の問いに、桃音は不満顔で文庫本にしおりを挟んでパタンと閉じて、振り返って不平不満を漏らす。
「むぅー、お兄ちゃんはももの事を甘やかす義務があるんだから! 一緒に寝なきゃ、貸さないからね!」
「わかったよ、そのうちな」
「そうやって有耶無耶にするのは分かってるんだからね? それでお兄ちゃんがももに借りたいものって何?、お兄ちゃんが興味抱くものなんかあったっけ?」
桃音が疑問に思い、自分の部屋を見渡す。
「月花のーー」
その言葉が口に出た瞬間、手に持っていた文庫本を放り投げ、ベッドから降りた桃音が輝瑠の下へ近づいて見上げる。
その瞳はキラキラと輝いていて嬉しそうな顔をしていた。
「お兄ちゃん、月花に興味津々!? ようやく月花の魅力に気づいたの!? 遅いよ!」
「いやまあ、ちょっと曲をーー」
「それじゃあお兄ちゃんには月花について小一日程語るから覚悟してね! 曲も全曲聞いてもらうとして、まずはデビュー曲から発売順に聴くこと! これ絶対だから!」
輝瑠は桃音の剣幕に戦き、勢いに押されて頷く事しか出来なかった。
本当は月花については朱璃から聞かされたこともあり、遠慮したい気持ちがあった。ただCDだけを借りるだけでよかったのだが、桃音の意気揚々とした顔を見たら断りづらかった。
既に桃音は語るき満々で、諦めた輝瑠はテーブルの側で胡座を掻いた。
桃音は棚からCDジャケット数枚を抱えてテーブルの上に置いた。
「これが月花のCD6枚。全12曲はあるからちゃんと聴いてよね! それじゃあ曲を聴く前にまず月花についてお兄ちゃんに語る必要があるからちゃんと全て覚えてね♪」
それから桃音は日が跨ぐまで語り続け、今もなお滔々と語っている。概ね朱梨から聞かされた事が大半だった。同じ事を繰り返し聞かされたせいか、眠気が襲われて欠伸をすれば、桃音に注意されるのだった。
一段落した所で輝瑠の顔はげっそりしていた。
「これでお兄ちゃんも月花のファンだね♪」
「お、おう・・・・・・」
まだ元気のある桃音だが、もう輝瑠は眠気が限界まで来ていた。
「お兄ちゃん! 今度は月花の曲を徹夜で聴いて感想会だからね!」
「・・・・・・え?」
熱く語ってたせいもあって、ハイテンションの桃音がパソコンの電源を付けようと手を伸ばす。それを咄嗟に輝瑠は阻止。
「待て待て桃音!? もう俺眠いし、この状態で聴いても真面に聴けないから」
振り返った桃音が頬を膨らませていた。不満な様子だが、輝瑠の言うことを理解していたため反論がなかった。
「むぅ~、それは仕方ないよね。じゃあちゃんと全曲聴いて感想聞かせてよね?」
輝瑠はやっと解放された。
桃音から月花のCDを全て渡され、それを抱えて輝瑠は自分の部屋へ。
そして、抱えたCDへ目を落として。
「・・・・・・CD借りたのはいいけど、普通にデータだけをスマホに入れてくれたら良かったんじゃ無いか・・・・・・?」
眠気で判断能力が低下していたため、今更そんな事に思い至った。
CDを机の上に置いて、起きたら改めて桃音に頼むことにして就寝した。
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