第6話 ブラコンな妹
桃音が作った夕御飯を食べ終え、輝瑠は食器洗いをしていた。
日に日に料理スキルを上げてく桃音の料理は、文句が付けようがないくらい美味しかった。最初に作った不味い料理を食べた頃が懐かしく思えてくる。
何を作っても黒こげになり、見た目普通だが味が異常に辛かったり、逆に甘過ぎたりと色々と失敗が続いていた。今となっては懐かしい思い出となって消化される。
桃音がここまで成長できたのも、暇な時間に料理動画を観ながら勉強したおかげだろう。今の時代ネットがあれば、すぐにぐーぐる先生が答えてくれるし、ヨーチューブで学ぶこともできる。
そんな家で過ごすことが多い桃音の事を考えた輝瑠は浮かない顔をする。
今はテレビを観ている桃音を一瞥し、気付かれないよう沈んだ気持ちを食器と一緒に洗い流し、輝瑠は別の事に思考を切り替えた。
今日偶然出会った華月。
それから脳裏に焼き付いた全裸姿が浮かんでしまい、輝瑠は鼓動をドクンと跳ね上がるのを感じた。しかし、直ぐに華月の蔑んだ姿が浮かんで、輝瑠は苦笑する。
『ーーあたしに関わらないで』
そんな言葉が脳裏に反響する。
その時の華月の表情は少し苦しそうに見えていた。よく観察しなければ、分からない微細な変化だが、初対面だった輝瑠でも気づける変化である。
予兆夢を見せられて、過去の過ちをした輝瑠には彼女の事を放って置く事はできない。
関わるなと言われたが、輝瑠は関わっていくつもりでいる。
華月の悩みが一体何か、それを打ち明けられる程親しい間柄ではないため、これから輝瑠が、華月と少しでも仲良くなれるよう行動していくしかないだろう。ただ、現状彼女からの好感度はマイナスといっても過言ではない。コミュ力がない輝瑠にとって最悪なスタートとなる。
「どうしたら鳴野と仲良くなれるのか」
「お兄ちゃん悩み事?」
ソファーで座ってテレビを観ていたはずの桃音が、いつの間にかキッチン前の椅子に座っていた。テーブルに肘を着いて両掌に顔を乗せ、ジーっと輝瑠の食器洗いをする姿を眺めている。考え事に集中していて、桃音が近くにいることに気づかなかった。
桃音からの問いかけに輝瑠はしばし考え、予兆夢の事は口にせず、どうしたら後輩と仲良くなれるか聞いてみた。
「むぅ~・・・・・・」
すると桃音が頬を膨らませて、ジトッとした目をする。輝瑠は疑問符を浮かべ、何かマズい事をしたのかと慌てる。
「ももに人間関係の事を聞くのはちょっと酷いんじゃない?」
「あー・・・・・・悪い」
輝瑠が失言したことに、素直に謝る。
「まあお兄ちゃんだし、悪意が無いのは分かってる。だから別に気にしてない。それよりお兄ちゃんがその人と仲良くなりたいって事は、本格的に彼女ゲットするために動いてるの!!」
「いや、別にそうじゃないが」
「本当に~? まあ、仮にお兄ちゃんに彼女ができたと仮定して、お兄ちゃんはその彼女とイチャイチャする時間が増えてくるでしょ? そうなるとももの相手する時間も減っていくし、最終的にももをほったらかしにして捨てられます! これはネグレクトだよ!」
「俺が桃音を育児したように言うな。俺じゃなく父さんと母さんだろ?」
「お兄ちゃんは過去の女なんてどうでもよくて、新しい女へ乗り移る最低な男になるんですよ!?」
話を聞いてない桃音が悲壮感を漂わせて、勝手に輝瑠を最低な浮気野郎認定する。それを否定しつつ、桃音の言いたいことを解釈するなら、もっと桃音の事を構って欲しい、かまってちゃんという事だろう。
「また変な知識が増えてるな・・・・・・。あまり変な影響受けんなよ?」
「お兄ちゃんが一生ももの事を面倒見てくれたら大丈夫!」
「お兄ちゃんは桃音の将来が心配だよ」
一生桃音の面倒を見ている未来が目に浮かぶ。例え輝瑠に恋人でき、家を出て同棲するような事があっても桃音も付いて来そうだ。
輝瑠は本気で桃音に兄離れをさせなきゃならないと思った。しかし、輝瑠自身も何だかんだで桃音に甘い部分があり、妹離れする努力が必要だろう。
しばらくして洗い物を終えて、輝瑠はシンク周りに飛び散った水滴を拭いていく。
ようやく人心地付いて桃音の対面に座り、途中となったさっきの相談の続きを話す。
「俺はその後輩と仲良くなりたいと思ってるんだ。桃音はもし初対面の先輩に話しかけられたらどう思う?」
「無視して逃げる」
「仲良くなれる隙がない・・・・・・。それでも執拗に話しかけられたら?」
「警察呼ぶ」
華月ももしかしたら執拗に話しかけたら警察を呼ばれかねないと想像してしまう。
「それもう不審者扱いじゃん・・・・・・。え? 俺ってそんなにヤバい奴に見られてるの?」
「だってお兄ちゃんの見た目怪しいじゃん?」
「お兄ちゃん傷つくんだけど・・・・・・」
あんまりしつこく付きまとうような行動は控えようと輝瑠は思った。しかし、それだと華月と話す隙が無い。
「どうしてお兄ちゃんはその後輩と仲良くなりたいの? やっぱり一目惚れ? 彼女候補? お兄ちゃんじゃ無理だよ」
きっぱり断言される。
「別に惚れたとか、彼女にしたいとか、それはないが・・・・・・。というか朝、彼女作るよう勧めたよね?」
「だってお兄ちゃんがももの事構ってくれなくなるもん」
上目遣いで瞳を潤ませる桃音のあざとい姿。輝瑠じゃなければ、すぐにコロッと心が揺れるだろう。
「どうしてお兄ちゃんはその後輩の事が気になるの? それってやっぱり惚れてるとしか思えないよ」
桃音の言うとおりだろう。
しかし、予兆夢の事は桃音に話すことはできない。なんとかうまい言い訳がないか、華月の事を考えていると、脳裏に浮かんだのは透き通るような綺麗な肌とふっくらと揉み心地が良さそうな胸。
輝瑠は頭を振って、余計な事を考えないよう一度思考を止める。
その様子に桃音が不審がる。
「何か怪しい・・・・・・。その後輩と何かあったの?」
「いや別に何も」
咄嗟に誤魔化す輝瑠に、桃音はますます怪しんでくる。
「まああれだ。俺も二年になったし、後輩が欲しいんだ」
「ふーん?」
もっともらしい言い訳を並べるが、桃音の疑念が晴れることなく、輝瑠をジト目で見続ける。
納得しない桃音だが、これ以上詮索することは無かった。
それから他愛ない話をした後、桃音は眠そうに船を漕ぎ始めた。輝瑠は自分の部屋に寝るよう注意すると、桃音は甘えた声で「お兄ちゃんと一緒に寝る」と言い始めた。
「兄と一緒に寝る妹なんて一般家庭じゃ有り得ないだろ。普通なら気持ち悪がられる」
「余所は余所、うちはうち。愛瀬兄妹ではこれが普通なの」
「桃音に甘過ぎたのが原因なのだろうな・・・・・・。これからは厳しくするか」
「それは却下!! お兄ちゃんは妹を甘やかすのが義務! ももを養って貰わないと困る!」
「兄に寄生する気か。寄生妹だな。仮に俺に彼女ができたらどうするんだ?」
「そ、その時はももがお兄ちゃんに既成事実を作って、その彼女さんにお兄ちゃんは浮気してます!って別れさせる!」
「色々と問題発言が出てくるな・・・・・・」
輝瑠が苦笑すると、桃音が眠そうに欠伸をして目をこする。そろそろ限界が近いようだ。
桃音を部屋まで連れ出し、ベッドに寝かせた。不満そうな声が聞こえたが、聞こえない振りをして輝瑠は部屋の電気を消してから自室へ向かう。
ベッドに横になる前に椅子を引いて腰掛ける。引き出しから一冊のノートを取り出した。最後に書いたページを開き、次のページに今日あった出来事を書いていく。日記というよりは簡素で、報告書に近い記述で綴っていく。それは輝瑠の日課となっている。
書き終えた輝瑠は電気を消してベッドに横になり、しばらくして輝瑠に眠気が襲い寝息を立てた。
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