第一三話 ~地球と異世界~

「昨日は悪かった」

「ああ、説教はキャラじゃないからもうさせないでくれ」


 イメージで色付けた風を外に向けて放ちながら聞こえる程度の小さな声で呟く。

 あまり気にしていないヒナは面倒そうに首の裏を触れながら自分らしくないことをしたことを照れるように顔を背けた。


「勿論だ。絶対と言い切る事は出来ないが、常に心掛けるようにする」

「ん。約束事で『絶対』と言わないのは上出来だ」


 口約束において軽々しく絶対という言葉を用いる人間は信用出来ない。

 そんな認識がヒナにはあり、そして俳人には。

 変化する生き物である人間が絶対を確約する事は出来ない。

 という認識があった。


「改めて、これからよろしく頼む」

「おう。よろしく頼まれた」


 風をかき消すように一度拳を閉じた俳人はやり直すようにそう呟く。

 ヒナはなんてことないような態度を取ると、今までは無表情や仏頂面が表情をニカッと不器用な笑みに変えた。




「……富家くん。流石に昨日の今日だし休んだ方が良いんじゃないの?」

「ああ、芹那か……心配してくれるのは有難いが大丈夫だ。もう治ったからな」


 そう言って安心させるため自慢気に昨日は怪我に覆われていた真っ白な腕を見せびらかす。

 俳人の言う通り、そこには確かに怪我は一切なく見える範囲は健常であり見えてはいないが他のところにも一切傷が無かった。


「理屈は知らんがヒナも同じ。怪我は完治、疲労も一切ない状態だ」


 どうよ!? とばかりに格好つけポーズ付きでまたしても腕を見せつけ、今度は力こぶまでも作って見せる。

 朝早々のハイテンションに気圧されたのか芹那は若干苦笑しながらもその言葉の真偽を確かめるため逃げられないように左手で手首を掴みながら右手で腕全体をペタペタと触り、記憶では最も怪我を負っていた背中を服を捲くる事で確かめた。


「イヤン、そんな積極的な……」

「……本当に怪我一つない。別にメイクで隠してるみたいでもないし。これも地球全体を襲っている異常の一端ってこと?」

「おやおや、無視ですか。まあ、理由が分からない以上コレに頼る気はないけど」


 長年の不健康のせいで凝った首や肩、腰などの痛みも消えたうえに猫背などの骨格の歪みも解消された俳人は癖になっていた首鳴らしの音が鳴らないことに違和感を抱きながらその場で準備運動のように屈伸を始める。


「そう言うことだから、今日も外回りしますよ。っていう報告をしておく」

「事後報告よりかはまだマシだけど……私個人としてはあまり子どもに無理をさせたくはないわね。ただでさえ昨日無茶をさせたのだから」

「大丈夫、無茶無謀だと感じたら極力退く。ああ、それと昨日は少し安心した。俺たちが戦っているのを見て感情的に飛び出してくるんじゃなくて冷静に他の魔物のことを想定してその場に残ってくれて、さ」


 あの時もし虎狼が陽動目的で俳人たちの前に立っていた場合、芹那が加勢していた場合後者に残った者たちに自衛手段はほとんど無かった。

 物資運搬の道中で芹那の戦う姿を見て心変わりし戦闘をしていたとしても経験としては微々たるもの、計画的な襲撃から身を守れるだけの力はない。

 そしてその芹那の先を考えた冷静を心掛けた行動は俳人には心強かった。


「……正直な所、怖かったし冷たかっただけ。貴方たちの戦う姿を見て、相手が魔法を使う姿を見て『ああ……人間が敵うワケない』って思ったしそれと同時に『私には二人を救う義理はない』とも思ってしまっていたの。可笑しいわよね、貴方には一度命を救われているのに……」


 死を感じた時、相手にどれだけ大きな恩義があっても踏み出せない。

 踏み出せる人間は極少数の限られた人間だ。

 普段口では『俺、目の前で困ってる奴いたら絶対助けるから』という風に言っていたとしてもそれを実践出来はしない。

 それは皆が『死の恐怖』というモノを正しく理解していないからだ。

 理解していない存在に対してはいくらでも大口を叩ける。

 けれども正しく相手の恐ろしさを理解した者は決してそれをする事は出来ない。

 昨日までの俳人が似たような例である。

 二次元から来る既視感から強くなったと勘違いをして行動をしていた。

 俳人も芹那も、例外なく、死の恐怖を感じた時に人間は理解が及んだ対象にしか立ち向かえない。

「別にそんなもんだろ。平和な現代社会で暮らしてきた俺たちは心が弱い、強いと思っていても根幹はきっと軟弱だ。けど芹那は生まれて初めて死の恐怖をちゃんと感じられた。弱さを利用して強くなって行けば良いんだ、死の恐怖に慣れて心を麻痺させるのではなく死の恐怖を感じながら死を回避出来る心の強さを身に着けてくれ」

 慣れは人を殺す毒だ。

 慣れれば必ず油断を生む。

 生き残るためには慣れではなく恐怖をいだくべきだ。

 恐怖し、そうすればそれを警報として危機を回避出来る。


「……頑張ってみるわ」

「おう。先は見通せない世界だ、今のうちに頑張っとけ」


 やはり格好をつけるような口調で立ち去る俳人。

 すると後を追うように歩いていたヒナが背後から軽くチョップをした。


「なにカッコつけてんの?」

「いやぁ、カッコつけたくなるじゃん?」

「……それ素の性格だったのかよ」


 昨日までの態度は中二病ゆえのものだと思っていたヒナは俳人の格好つけが素の性格ゆえのものだと知って驚愕するように呆れる。


「んで、外回りするとは言ったが……とりあえず先に軽く訓練でもするか」


 今後を見据えて俳人は拳を握り、ヒナと向き合いながら構えた。

 剣術を身に着ける以前、土台となる体術が未熟なことを理解しているヒナもそれに応じるようにして手の開閉を繰り返すことで拳の感触を確かめながら構える。


「石投げるからそれが地面に落ちたら開始な」


 そう言いながら足元の石を拾い上げ、ヒナの頷きを確認すると風が止むのを待って少し高く上に放る。

 石は緩やかな放物線を描き、石が頂点に達した辺りで二人は腰を低くし、石が地面に落ちた瞬間、二人は同時に脚に力を入れて真っ直ぐ加速した。

 手足の長さリーチの差で先手を仕掛けたのは俳人。

 構えていた右拳を捻りながらそのまま突き出す。

 それに対してヒナは開いていた左手を俳人の拳の軌道上に置き、拳が触れる直前から左腕を外に向けて回転させた。

 すると力の流れを変えられた俳人の拳はヒナに当たることなくヒナの左側を通過する。

 さらにヒナはその隙を突いて右下段の回し蹴りを行った。

 拳を回避され隙を見せたことを瞬時に理解した俳人は退がずその逆、左脚を僅かに前に角度を変えて出しヒナの回し蹴りに威力が出る前にタイミングをずらして脚の側面で防ぐ。

 ダメージが完全になくなったわけではないがそれでもダメージは確かに減る。

 そして追撃するように拳を動かそうとするが動かない。

 ヒナの回し蹴りの対処に意識を向けすぎて右拳を素早く引くことを失念しており、拳を動かそうとしたその瞬間には既に遅く腕を掴まれた状態だった。

 戦いによって加速した思考で俳人は次何が来るのかを予測し、攻撃の予兆のように僅かに動いた右半身を見て高校の授業、柔道のことを思い出して投げ技を警戒して投げられないように腰を落として重心を低くする。

 だがヒナが行ったのは鳩尾への攻撃だった。

 身構え全身に力を入れていたとはいえ防御力となる筋量は未だ少なく、全身の防御を固めた代わりに一点の防御力が下がっていた俳人にその攻撃は有効であり、痛覚が鋭敏な鳩尾への攻撃ということで俳人は呻くように息を漏らす。

 戦闘に不慣れな俳人はその激痛に思わず日常のように痛みを堪えるために腕を腹部に回し、ヒナはそれを見て即座に俳人の横に回り、足を俳人の足の後ろに手を俳人の胸に当てそれぞれ俳人を押すように左右に動かした。

 その結果、俳人は回るように仰向きに倒れ、ヒナはそこに馬乗りになって手刀を俳人の首に当てる。


「……降参だ」

「意外と動けたのは我ながら驚きだ」


 行動出来ないように脚で両手を抑えられた俳人は大人しく降参した。

 そしてヒナは自分でも信じられないように両手が自分の物じゃないかと疑うような素振りを見せながら俳人の上から移動する。


「素人が予測頼りで動いたのがダメだったか? それとも慣れないうちは最後まで動きを見るべきか? はてさて、どうしたもんか」

「ホント大丈夫か? 私にやられるのはやっぱりどっか痛むとかか?」


 昨日の虎狼との戦いでの活躍差を思い出し本調子ではないと心配するヒナ。


「いや、ヒナは普通に強かったぞ? 動いて分かったが骨格の歪みとかも治ってるから多分そのお陰もあって動きやすいんだろ、昨日より動きが速い」

「ん~自分じゃ気付かなかったが……そうなのか」


 肩を回し、拳を素早く突き出し、膝を曲げ、その場で飛び上がるヒナだが自分ではその違いが感じ取れず首を傾げる。

 理解出来ていないヒナに俳人は上段回し蹴りを見せた。


「多分普段の運動不足とか負担とかで狭まってる関節の可動域もそれなりに広がってるから今みたいな高さの回し蹴りも出来るぞ」

「あ~……確かに」


 一般人ならばほぼ不可能、出来たとしても確実に股を痛めるであろう角度まで開いて蹴りを放っている姿を見て、本当かと確かめたヒナも自身の関節可動域の拡大に僅かながら驚きを見せる。


「んじゃアンタは骨格の歪みの修正で動きづらかったってことか……」

「いや、そっちは然したる問題じゃなかった。確かに動きの違いに戸惑いはしたけど負けたのは単純に俺の実力が及ばなかったからだと思う」


 動きの修正で言えば鈍くはならず昨日よりも動きの素早さなどは上がっていた。

 確かに骨格の修正によって肉体の動かしやすさが改善された影響で全体的な出力が上昇し、その結果力加減が難しくなりはしたがどう考えても敗因はそこではない。

 敗因はその場その場における『判断力の低下』だろう。


「……なんだろうな。敵が会話出来ることを知ってしまったから戦いに戸惑いが生じたか? それとも無意識の問題か?」

「案外『女には手を出し難い』とかかもよ?」

「いや、それはない。そもそも俺は大して性差は興味がない。一般的にはそこら辺の区別をした方が良いから合わせてるだけで敵に回れば普通にぶん殴る。それこそ顔面だろうが腹だろうがな」


 性差を意識した動きをしないと余計な面倒が生まれそうだからそれなりに配慮しているが、相手が配慮しなくて良いと言い、周囲に人が居ないのならなんの躊躇もなく相手を女と意識しない対応をする。

 俳人はそう言う人間だ。


「お、男女平等パンチは私個人としては好きだぞ? 一般人は知らないが、戦いに身を置く立場を前提として考えたらそんな理由で手ぇ抜かれんのは嬉しくもなんともないムカつくことでしかないだろうからな」

「そりゃそうだろ。身体的な違いを理由に手を抜くのは差別と同じだ」


 互いの自論を交わしながら勝手の違った自身の身体を調節する二人。

 途中から今日の外回りを考慮して木刀での素振りを始め、素振りの回数が一〇〇に達したのを終わりとして木刀を収めた。


「今日は高校に指示出さなくていいのか?」

「ん? ああ、向こうに関しては今日は芹那に伝言を頼んでおいた」

「へぇ。……ああ、なるほど」


 僅かな言葉から俳人の意図を理解したヒナはヤレヤレといった様子で肩を竦める。


「ま、そうして貰わんとな、この先が面倒だ」

「だろうな」


 悪人のような鋭い笑みを浮かべる俳人。

 その意図を理解し、その内心を察しているヒナはなんとも言えない微妙な心境を現した虚無の目で周囲を警戒しつつ見つけた単独の敵は魔法の練習台として攻撃する。

 貫通するというイメージが足りなかったのか、狙いを定めるように伸ばされた腕の延長線上をなぞるように直線を描いて進んだ石弾はゴブリンの後頭部に当たると即座に砕け散り、地面に落下した破片は魔物のように姿を消した。


「ッ。魔法の攻撃力は……って、あれ?」


 遠目の限りでは一切のダメージはなく、しかし当たったことには変わりないためそれを警戒して周囲を見渡し襲い掛かってくると考えていた。

 だが石弾の当たったゴブリンは『ん?』といったような鈍い反応とともにゆっくり周囲を見渡し、その顔の向いた方向にはヒナたちが居たにもかかわらず何事もなかったかのように元の方向を向く。


「あれって要はこの距離で見えてないってことか?」

「まあ、そうだな。腕力に能力値極振りした感じだ。分かっていたが改めて見ると目も耳も弱いってかなりの弱点だな」


 もしかしたら五感が総じて弱いのかもしれないと考えながら俳人も練習台として魔法を行使する。

 まだ魔法に不慣れなためイメージの補助としてかざすように手を伸ばすと魔法で攻撃をイメージしたのか無意識のうちに腕全体が力んだ。

 けれどもゴブリンやその周辺、俳人の腕にも一切の変化は起こらず、俳人は小さく舌打ちをする。

 そして何かを握り潰すように手を強く握った瞬間、俳人の足元から真っ白な氷がゴブリンに向かって一直線に伸び、三〇メートルほどあった距離を走るよりも早く詰めてゴブリンの全身に纏わりついた。


「スゲェ……ゴブリンの力を耐える氷創れるのかよ」

「別に強度はそこまでじゃない。……ほら」


 コンクリートブロックを砕くゴブリンの腕力に勝っているように見える氷を生み出したことに驚愕するヒナに俳人は木刀を足元の氷に突き刺すように下ろし容易に砕くことでその強度が大したことないと見せつける。


「例えば……そうだな。瓦割りを出来る奴はかなりいる。だがそれは拳を上から下に振り下ろした場合の話であって、初めから瓦と密着した状態で割れる奴は極少数。要するにそう言うイメージだ、威力は距離があって生まれるモノであってゼロ距離なら威力は激減する。ま、瓦割りの瓦は熨斗のし瓦つって用途上割って使うどう叩いても簡単に真っ二つになるヤツだから例えには向かんな」


 昔、自身も瓦割りの体験で一〇枚割ったことを思い出しながらゆっくりとゴブリンに近付く俳人。


「……少し離れててくれ」


 先を歩き三メートルほどの位置で立ち止まった俳人は左腕を横に伸ばしヒナを制止すると依然として伸ばした右腕を僅かに力ませ、ゴブリンの全身を完全に覆った。

 そしてそのまましばらく待機すると、罅割れて白くも半透明な氷の内側でゴブリンの肉体が消滅する。

 氷に遮断され魔石は氷の内部で音もなく転がり、俳人はジッと氷を見つめてから自分たちがいるのとは反対側の氷に穴を作り出した。


「やっぱ内側に風は吹かない……か」

「? 消えても真空ではないって事?」

「ああ、つまり魔物は死んだ後は『無』になったように見えるが実際に消滅したワケじゃなくて別の状態になってるってことで……可能性としては『霧散して体積を増加させてるけど変化量は微々たるもの』『体積の変化なし』あたりか? 魔法で創造した氷を通常の物質と言って良いのかは分からないが」


 もし内部が真空になっていたら氷に空いた穴から一気に空気が入るためそれなりの風が生まれる。

 さらにはそもそもとして氷の強度が負けて穴を開ける以前に崩壊していた可能性もあった。

 だが実際には体感出来るほどの風は吹かなかった。

 風が吹かなかったという事は体積が増加減少のどちらであれ『霧散後も実体を持っていた』ということ。

 完全ではないにしてもある程度までは既存の物理法則が通用するということだ。


「へー。それが分かったら何かあるのか?」

「魔物相手なら……そうだな、素の能力だけで物理法則に逆らった空を飛ぶとかの動きはしないってこと。魔法ならある程度は理屈で発動させられたり対応出来るってことだ」


 例えば『万有引力』が通用しなかった場合は魔物が空を飛ぶことになる。

 勿論その場合、引き留める鎖のような物や魔法が無ければ永遠に上昇することになり死後も魔石ですら宇宙空間を直進し続けることになるが。


「あ~、確かに光を反射も吸収もしなかったら見えないしな」

「そゆこと。当然のように今まで見て来たけど実際それは結構重要なことだし、異世界の存在であるハズの虎狼たちがあまり動作に窮屈さを感じていなかった感じを見ると重力もあまり変わらないハズなんだ。そんな状態でどういうワケか俺たちの知っている存在に近い姿まで進化を遂げて言語を操る知性を有していた。魔法があるかなり危ない世界でそんな姿に進化するってことは結構信じられない事なんだぜ?」


 確かに異なる生物グループに属する生物が類似した性質を独立して獲得する『収斂しゅうれん進化』と呼ばれる現象が地球上でも存在している。

 だが地球と異世界では環境が大きく異なるのだ。

 片や純粋な身体能力での闘争。

 片や魔法という事前情報なしで高威力を発揮する力を用いての闘争。

 魔物によっては空を飛ぶことも、龍のように炎や風、水、土などの属性を持ったブレスを放つ存在もあり得る。

 両者を比較すれば平和な環境と過酷な環境。

 そのように大きく環境が異なる中で地球生物と同様の容姿をした存在というのは間違いなく希少だ。


「そういうもんなのか?」

「多分な。生物学は詳しくないから断言は出来ないが普通に考えてそうだろ? 進化は環境に合わせてするモンなんだからよ」


 砂漠に住む生き物が氷河に住む生き物と同じ進化をしても意味はない。

 恒温動物に限って言えば『ベルクマンの法則』や『アレンの法則』といった体温維持に際して同種や近縁種であっても体重や体の一部の大きさに違いが出るという法則がある。

 これらは進化の法則ではなく生物分布の法則だが同種、近縁種でも環境によって身体に差異が出るのだ、異世界生物ともなればその差異は大きいハズだ。

 そもそも地球生物のような『肉体のみ』に頼った適応的進化方法とは違って異世界生物には魔法があり、体温調節ならば魔法で行なうかもしれない。

 異世界生物における進化というのならば、初めは意識的に行使していた体温調節の魔法を進化によって無意識的に行使出来るように進化するという方向性も可能性としてはあり得る。

 地球生物と異世界生物とでは進化の幅、選択肢が大きく異なるのだ。

 その中で地球においては四〇億年前から続く進化と同様の進化を遂げる、という事は奇跡と言っても過言ではないだろう。


「そりゃそうか。生き残るための進化が環境の違うところで同じになるってのは変な話だな」

「案外異世界も地球と似た環境ってことなのかねぇ? そうじゃなかったら……有神論的進化論が現実のものとなりかねないな」


 神というそもそもの定義からして曖昧な存在を信じていない俳人は自身で口にした言葉に吹き出すように失笑し、僅かに出た涙を拭う。


「ある程度事が進んだら研究してみてぇな」

「……一体何時いつになるんだ? それ」


 完全ではないにしても平和を取り戻すまでにかかる時間、壊れた設備を立て直すまでにかかる時間、一度失われた技術を再現するまでにかかる時間。

 果てしないにもほどがある俳人の妄想にツッコミを入れるヒナはそう口では言いながらも、そんな平和な未来に僅かながら思いを馳せた。

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