24話 性・転・換!
「空気を叩くと、小爆発がふたつ!」
ウェヴサービンが言ってラナとウムライが手を叩くと、シンクとソニックの眼前で破裂音がした。シンクは後ろに跳びながら氷の壁を展開、ソニックは腕で顔を覆いガードする。
「ぐっ……あんだよじーさん! こりゃどういうこった!?」
「《魔拳》大宮ソニックか!」
ウェヴサービンの呼びかけに、ソニックは目を見開く。
「なんで俺を知ってる……?」
「僕は世界中に端末を持ってるんでね! 一旦、とはいえ《ヒーロー》に勝ったのは流石だ!」
「はあ」
かちかち、という微かな音がしたと思いきや、突然破裂音がし、シンクが倒れ伏す。
「じーさんっ!?」
「おいおいシンク! 会話の邪魔はよくないよ! 仲間はずれだと思っちゃったかい!」
シンクが術式展開すると見るや、ウェヴサービンが放った攻撃だった。
「詠唱したかっ? 今!」ソニックが驚愕する。
「普通の物差しは、通じない」シンクがよろけながら立つ。「こいつのは、魔術じゃねえ」
「そりゃそうさ!」ウェヴサービンは高らかに吼える。「だって、神だから!」
ソニックはハの字眉の角度をさらに傾ける。
「あんたはウェヴサービンなのか。本当に。あの、《神
「イエッスッ! 僕こそがっ! 《正義》のウェヴサァァァァァビィンッ!」
ばばばばっ、と連続した動きでラナ・ウムライがよく解らないポーズを取る。ソニックは疑わしい目でシンクに助けを求めた。
「……こういう奴なんだ」
関わり合いになりたくない、という目をしている。
神十七。
現在も国際中央管理局の最高位に君臨する、十七柱の最高権力。革命の功績として神格化され、《魔人》から《魔神》と自称を変え、素命の民を除けば世界で唯一、寿命の数値化の対象外とされた人間たちである。すなわち老いず、死なない。
「しかし、色々解んねえ。あんたらが中央から出ることなんてねえはずだ。それに……大和シンクを長寿命にしたのは、あんたらだって聞いてるぜ。何故、今ごろになって殺しに」
「その質問にひと言で答えるのはぁ……んー、めっちゃディフィカルトゥ!」
ウムライ・ラナの腕が、考え込むように組まれる。
「とりあえずひとつだけ答えようか! 君の言うとおり、神は中央から出ない。今も、出ていない! あくまで僕はサーバーだよ! このふたりが、クライアントマシンだ!」
「なに、言って……」
聞いた分だけこんがらがるソニックと対照的に、シンクが息を呑む。
「お前、まさか」
「こいつらが名乗ったろ最初に! 『ひとりクラウド』って!」
歯を食いしばり睨み付けるシンクに、ソニックは慌てたように訊く。
「お、おい? なんなんだよそりゃ」
「……命を、なんだと思ってんだ」
「ハハ、君が言うのかい!」
ウェヴサービンの笑いに合わせ、ラナとウムライの手が「やれやれ」という感じに開く。
「今こそ認めよう! 僕はあの日、恐怖した! だが長い年月の果てに見出したんだ! さらに優れた永遠の命の形を! だからもう君が仕掛けた姑息な最後の《異能》を恐れはしない! 君が寿命で自主的に死ぬ前に殺すことで、僕はあの日の僕を超えられるっ!」
「なにを言ってんのかさっぱり解んねぇが……永遠の、命だぁ? 《魔神》たちは元々死なねえはずだろ?」
ソニックは困惑顔で訊く。
「そのとおり! だが、老いずに一万年生きても、百人分の人生は得られない!」
「なに?」
「RPGのゲームをやったことがあるかい! 冒険の旅に出て! レベルを上げて! 仲間を増やして! 困難に打ち勝ち! ラスボスを倒し世界を救う!
刺激的で素晴らしい体験だ! 革命に彩られた僕の半生はまさに! そんな華やかさに満ちていた!
が!
クリアした後はレベルを最高まで上げるくらいしかやることがない! どんなに長く生きても退屈なだけさ!
また冒険の旅に出たとしても、もはや敵はなく、最初の刺激はない! ヒットした名作の第二弾が大抵駄作になるようにね!
だから僕は『何度も生き直す』ことにした!」
「……何度も生き直す、だとぉ? こいつ、頭おかし」
「ラナと! ウムライは! 僕だ!」
「はぁ?」
「僕の細胞を培養し、増殖し、幼少の姿からこの世界で生きさせた!
こいつらだけじゃない!
ヒーローに魔法少女、侍! 騎士! 海賊! 妖怪! ロボット! 悪魔! 改造人間! 殺し屋! 歌舞伎者! ヤンキー! 探偵! 空手家! 占い師! パン屋! メイド! 専業主婦!
僕は幼いころに夢見た人生を全て生きる! 全ての体験をリアルタイムに同期することで、僕は何度でも新しい人生を生き直す!」
途方もない説明に、ソニックは上手く頭がついていかない。が、
「はぁああああっ!?」数秒後に叫ぶ。「このふたりが同じ人間!? 性別すら違ぇだろ!」
「性・転・換!」
ビシィッ、とウムライとラナの指が迷いなくソニックを差す。
「なっ、なんだとぉお!?」
「大分苦労したよ! おかげで、システムに繋がってないから他人を傷つけても寿命が減らない好都合な奴らになった! まあ、何故か老化防止処置をしても短命なのがまだ課題だけど! どうせある程度生かしたら作り直すからね! 所詮こいつらは僕のツールさ!」
それを聞いた瞬間、衝動的にソニックの身体が動く。
一足飛びにウェヴサービンの懐に入り込み、顔面を殴りつける。
が、寸前でウムライの手に阻まれた。
「いいね!」
ウェヴサービンは全く動じない。
「君はやや老化が始まってはいるが、なかなか熱い男だ! 怒ったのかい! 命で遊ぶような真似をする僕に!」
「……もう喋んな」
ソニックの顔からは先程までの戸惑いが消え失せている。静かに睨み付けた。
「そのとぉおおり! 僕は命で遊んでるんだ!」
ウェヴサービンは全く空気を読まず、愉快そうに笑う。
「僕くらいのレベルになると、もう、それくらいしか楽しくないんだよ! 今まで何百人も作っては壊してきたし、今も世界には」
「黙りやがれ!」
ソニックの拳がウェヴサービンの顔面に刺さる……と思いきや、顔が消える。
ウムライの胸板にめり込み、「うぐはぁっ!」とウムライが苦悶の表情を浮かべた。
「無駄だよ、僕はここにいない!」という声はラナの口から出た。
「……くっ」
「別にこいつらが殺されたって、痛くも痒くもない! 死ぬって経験が溜まっていいくらいさ! 元々こいつらには、負けたら壊すって条件を付けたし!
さて、じゃあ僕はそろそろおいとまするよ! このまま僕が君たちを殺すのは容易いが、結果が解りきった勝負ほど退屈なものはないからね!
果たして合体した《ヒーロー》と《魔法少女》は悪の魔術師を打ち倒すことができるのか!
安全なお茶の間から見学させてもらう!」
「待てウェヴサービン、ひとつだけ答えろ!」と叫んだのはシンクだ。
「……なにかな?」
「俺を殺すってのは……独断だな? お前、他の奴らに言わなかったのか」
今一度ウェヴサービンの顔がウムライの胸に浮き上がる。
そして、馬鹿にするような笑みを浮かべ、すぐに消えた。
同時に白目だったラナとウムライの瞳へ、意思が戻る。
瞼が引き絞られ、顔に切羽詰まった色が浮かぶ。事態を理解した、決死の覚悟だった。
「おい……《ヒーロー》」
「応……《魔法少女》」
右と左で会話する。
「やるぞ」「無論」
「待て、お前ら」
ソニックが悲痛な表情を浮かべる。
「待ってくれ」
『生きるために!』
異形の《正義》が動き出した。
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