18話 『第二次生命革命』
老いを克服した人類が、人口増や食糧難などによって有史以来最大規模の世界大戦を体験し……絶滅危惧種となったころ『彼ら』は現れた。
どんな事象も不可思議な力で引き起こし、戦を止め、作物を実らせ、人々の傷を癒やす者。
彼らは自らを《魔人》と名乗り、行使する術を《異能》と呼んだ。
全世界の戦を終結に導き、破滅を食い止めたのは、僅か十八人の《魔人》を中心とした集団だった。戦後、《魔人》らは国際中央管理局を設立し、世界のルールを再構築した。それには国境の再設定や国際法の整備も含まれたが、最も象徴的なのは『命の数値化』である。
第一次生命革命によって老いなくなった人類は、極端に死ななくなった。
その状態をよしとしたことが、そもそもの誤りだったと《魔人》たちは言った。
故に人類の『生死』を管理するシステムが必要だ、と唱えた。
具体的にはまず、老化防止処置を施された全人類に対し、初期設定寿命を設けた。
日数で表されたその数値は、INO値と名付けられた。
INO値は生涯固定ではなく、行いによって一日単位で増減するものとされた。人類に貢献する行為を積み重ねることで増え、他者に危害を加える行為によって減った。善意や悪意は関係なく、結果によってシステム側の人工知能が一定の基準に基づいて判定する。処置された人間は血液内に注入された極小のチップによって国際中央管理局のサーバーに常時繋がっており、接続が一定時間切れるとそもそも死ぬようになっているため、一度処置を行えば、生涯システムから抜け出すことはできない。
『生き続けたければ世界に貢献し続けろ』
暗にそう示すルールに、内心反発する者も多かったと言われるが、表だっては誰も反対できなかった。《魔人》が長い戦を終わらせ、人類を救ったことは揺るぎない事実だったからである。そこへ至るまで、誰もが少なくない犠牲を払っていた。
そして子どもを生むことについても、同じシステムが導入された。
まず、子を生むことが許されるのは、INO値が73,000、つまり二百年を超える寿命を持つ者同士だけとされた。これは全人類の上位五パーセントとされる。
もしこれ以下の者が妊娠した場合はその時点で男女ともにINO値が激減し、堕ろすことが義務づけられる。そのまま生んでしまった場合、親になった時点でその父と母はINO値がゼロになる。すなわち、死ぬ。
生まれた子どもの初期設定寿命は、親のINO値や功績に基づいて決定される。
平均的には21,900(六十年)ほどであり、特に優秀な者の子は36,500(百年)を超え、優等人と呼ばれる。両親の死と引き換えに生まれた子は、10,950(三十年)以下に設定され、劣等人と呼ばれる。
こうして世界は、再び命の在り方を変えた。
大まかには、善人が長生きし、悪人が短命となる世界だ。犯罪行為は即寿命減に繋がり、時間が経てば経つほど罪を犯す者は減った。必然、警察組織や刑務所のような施設はほとんどなくなり、ごく一部のイレギュラーを処理する業務は国際中央管理局や国が行うのではなく、民間企業に委託されるようになった。
こんな風にして、世界は今度こそ真の平和を手に入れた、とされる。
これが『第二次生命革命』と呼ばれるものの概要である。
なお、その歴史に、老化防止処置を施さず、脈々と前時代的な命の繋ぎ方をする者たちの記録は一切ない。
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