33話
そんな事で、着きました。樹海の小人。
長野県の山奥にあるその施設は、デッカいドーム型。外から見て分かる異様さ。
そんな建物の中に吸い込まれるようにふらふら入って行く姉。
「おいちょっと姉ちゃん待って!」
そんな事は聞かない姉は速度を増して歩いて行く。
姉は入口でやっと止まったと思うと何かを見つめていた。
「姉ちゃん速いって」
息を切らして追い付いたのだが、その事への一言。
「遅い!」
しかし、それを言い返す事よりも、するべき事がある事に気づいた。
景色だ。
入口に覆い被さる木々。
人間が放棄した建物のような蔦の張り方。
すごく自然だった。
「みんなーこんな所にシャッチョーが居ますよー」
見惚れていると姉がそんな事を言い始めた。
「やぁどうも。社長です」
社長は自ら社長と名乗った、だと。
「紹介するね。この人はシャッチョーの山田さん。今回この施設を紹介してくれるナビゲーターよ!」
すごく馴れ馴れしい。
なんと言うか、社長と以前にもどこかで会ったような感じで話を進める姉。
「葵姉ってどんな人なの?」
耳うちで、質問を投げかけてくる柚子。
「知らないよ。こっちが聞きたい」
そう答えておく。
確かに、姉は俺の知らない所で成長している。だけど、その速度が以上でおそらくはここ二年での事だ。親が居なくなってから。
「で、今回の脱出ゲームの難易度は最大を超えて鬼しておいたでよろしく」
説明を続ける姉。
不幸な事に、この話を別の会話で聞いていなかった事で難易度が鬼になる事に何も言えなかった。
「では、ご案内します」
そう言って、中に案内する社長。
「ようこそ。樹海の小人へ。ここは、まるで小人になって樹海を探検する楽しみが分かる場所。樹海は謎の海。謎を解いて、一族の繁栄をしましょう」
そんな旨のアナウンスが流れ続けている空間を抜け、施設内に入る。
そこは、神秘的な空間だった。
中心には、大樹。そして周りには草のようなゴム性のオブジェが並んでいる。
「では、こちらへ」
大きい草むらに消える社長。
俺は、縁を抱き抱えて草むらに入る。それに柚子や姉も続く。
社長は草が描かれたドアを開け、中に案内する。
「ここに入りますと謎解きが始まります。段階を踏むにつれ難しくなっていきますので頑張ってください。では行ってらっしゃい」
「脱出ゲーム。難易度鬼。ゲーム開始。一族の繁栄を願って頑張ってください。それでは、まず中央にあります、葉型の端末を手に取ってください」
アナウンスの通りに端末を拾う。
なんと言うか、ザ葉っぱと言った形をした端末はディスプレイも葉形のフレームに合わせて切り取られていて一体感が凄い。裏は葉っぱらしく模様が描かれ自分は葉っぱだと主張している。
そして端末の側面には見慣れた端子。
だが、少し大きく持ちにくい。
「そちらの機械の木から生えた機械葉は人間が持つスマートフォンと言った物に酷似した機能を持ち合わせており通常通りのスマートフォンとしても使えます。両面を彩る光は、その葉自身が持つ屈折を操る能力によるものです。それにより裏面は栄養状態、表面は機能の選択欄を表示させることが出来ます。触れる事により機能の選択は可能です。なお問題はその機械葉に表示されます」
そう言ってアナウンスは消えていった。
「ゆーくん、どう言う事?」
縁が不安そうに訊く。
「ええっと。あれだ。この機械葉はこの施設で使えるスマホみたいな物で脱出ゲームの問題はそれに表示されるって事らしい」
「ふーん」
そんな会話をしていると、その機械葉がブルリと震えた。
ディスプレイにはデカデカと書かれた第一問の文字。
第一問。
古びた石板を見つけた。それはどうやら鍵のようだ。しかし使い方がわからない。石板にはこう書かれていた。「すゃけずわせれたからぬきけすち。さかぬうこびをきれ」
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