32話

「そうだ弟くん! 旅行に行かないか!」

 ん?

 朝っぱらからなんか凄い事が聞こえてきた。

「姉さん? 今なんて?」

「だから! 旅行に行こう! って話。もちろんお金持ちの私が奢ってあげるからさ」

「ってどこにですか?」

 ハッとした顔で考え込む姉。

「名古屋?」

「近場です却下」

 と言うのもこの辺は電車一本でその場所に行けてしまう。旅行と言って行っても正直、日帰りが限界だ。もう既に行き尽くしている。

「どうせなら、もっと良いところ行きませんか? 葵姉さん。優くんもそう思いで?」

 また面倒な奴が話に乗っかってきた。

 一方、縁は「ゆーくんと行けるならどこでも良い」と話に参加しないでいた。

「札幌なんかは? どうかな弟くん」

「飛行機どうするんですか」

「じゃぁじゃぁ樹海の小人!」

「駄目って、どこ!?」

「あれ? 知らない? 新しく出来たテーマパーク。その名の通り樹海に生きる小人をテーマにしたものなんだけど。それがリアル脱出ゲームで超面白いって今ネットで話題でしょ? 知らない?」

 最近ネット離れが進んでいる俺には分かるはずがなく、頭の上にハテナマークを浮かべるのが精一杯だった。

「何それ?」

 柚子も同様な反応をとる。

「でも、いついくんだ? 夏休みもそこまで長くないんだぞ?」

「今から」

 即答だった。

「ほら、弟くん今から服をカバンに詰めるのだ! そしてさっさと行くのだ!」

 目を丸くする一同。

 それもそのはず、唐突に旅行に行こうとしている。

「は? 予約とかどうするんだ?」

 とりあえず訊いておく。

「多分大丈夫でしょ。株持っているし」

「は?」

 もう一度目を丸くする一同。

「それって?」

「多分株主の優遇が効くでしょ。多分」

 と、呆れ顔で言う姉。

「でも、株主の特権と言ってもそんな予約をねじ曲げるような事は出来ないんじゃ」

 言い返そうと思ったが誰かと電話をする姉。

「あ、もしもし、シャッチョ? 今日から数日間って樹海の小人のホテル空いてる? うん。あーやっぱり? うん。わかった。ありがと。じゃぁねー。空いてるってさ。でも普通の部屋で旅館エリアらしいけど」

 話が早い!

 とんでもなく早い。

「さぁ、諸君。さっさと荷物を詰めるのだ!」

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