30話
「縁、それで良い訳ないだろ! こんなやつと結婚する? 笑えない冗談よしてくれって言ってるだろ! 人生のうちにこれ程のチャンスが何度あると思う? ゼロに等しいんだ! それをお前は捨てようとしているのだぞ!お願いだからわかってくれ」
「捨てる。私は人の作ったレールをただ走る玩具じゃない! やめて! 出てって! 出てってよ!」
必死に抵抗する縁。
それをただひたすらに見ている女の人間。
抵抗している縁を取り押さえようとする人間。
全てが混沌としているこの空間。
俺は、痛みを味わいながら、縁に触れる。
跳ね飛ばされても何度も何度も何度も。
「何やっているのですかね? 言いましたよね弟くんに手を出したら容赦しないって。あと家の鍵をかけないのは不用心ですよ!」
そんな時、現れたのは姉の姿。
人間に一発蹴りを入れ再度俺の顔を見てくる。
「やぁ、弟くん。災難だったね。大丈夫、私が居るから。でそちらのお二人様? なんのつもりですか?」
「お前は誰だ!」
人間が問う。
「大坪葵。イラストレーターさ!」
それを聞くに驚いて土下座を始める縁の両親。
え?
「弟くん。隠しててごめんね! その縁ちゃんを妻にしたいって王子、私のお得意様なんだ!」
「は?」
「でこの二人は、私の絵を売りつける商人さ。私も絵師の間ではそこそこ名が知れた者ってもんよ。でだ。その二人が私の弟くんを楽しそうに調理していた訳なんだが、どういう事かな? 残念だなーせっかく信用していたのに。そんなことしたらクビだよ」
「葵様申し訳ありません! 知らなかったのです!」
男が飼い犬のように言う。
「ははーん。知らなかったから殴った。変な話だね。知っていたら殴らなかった。って事でしょ? そんな人様の体を殴ったって自分に害が無いと分かったら殴る。傷つける。酷い話だね」
「申し訳ありません!」
「ま、とにかくそろそろ警察が来る。暴力罪で裁かれると良いよ。ね? 元、商人さん?」
「ひぃ!」
金持ちだと言わんばかりの服装をした二人が鼻水を垂らしながら泣き、土下座している姿を見ると不思議な気分だった。
「もう大丈夫そう?」
と言って起き上がったのは柚子。
そして彼女は「気絶したふりしててよかった」と話した。
その後、警察が来て二人は連行された。
面白そうに笑って見ている姉は、やり切った顔をしていた。
「あの二人、私が指定した金額よりも少し上乗せした金額で私の絵を販売していたのだよ。私が給料を払っているって言うのにね。そして上乗せした分を自分の利益にしていた訳だよ。で、それに加えて自分の娘を嫁に行かせる事で、そのおこぼれを貰おうとしてたんだ。だからいつか仕返しをしてやりたかったんだ」
そう姉はパトカーのライトに照らされて言った。
そして、俺に抱かれている縁に向かって。
「縁ちゃん。王子には私から言っておくよ。行きたくないってね。あの子も私に頭が上がらないんだ。彼、私の絵じゃないと一人で出来ないらしいんだ」
聞かなかった事にしておこう。
まぁ、とりあえず事は終わった。
だと思っていた。
「私もここで暮らそうかなーって思って。縁ちゃん良いかな?」
縁は頷く。
「葵さんだったら良い。これからも守ってくれそう」
と言って笑う。
「じゃぁ、明日準備して仕事道具を持ってくるよ。では、今日はここで」
と去っていく姉。
待て、これから、ヤバい姉、破廉恥娘二人と暮らすのか?
明日もまた心臓が持ちそうにありません。
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