22話

「ごめん、前の言葉取り消します。柚子さん悪い人」

「縁ちゃんそんな事言わないでって、優くんはどうなの?」

「え? 俺は、縁と付き合っているから断る」

 ハッキリ言う。

「そんなのつまんない。じゃぁこうしよう。このバイトの契約期間中にどちらと付き合いたいかを考えて、バイトが終わったらどちらかと付き合う。ってのはどう?」

「勝手にしてすればいいと思う。ねぇーゆーくん? 絶対私だよね? こんなクソ女は絶縁しようよ」

 怖い笑顔を向けられる。

「待て待て、柚子は何故今頃になってそうなった?」

「前から好きだったんだけど怪しいバイト始めたって聞いてもしかしてっと思って手伝いに来た」

 んん?

「確かに怪しいと言えば怪しい」

 心の声が出てしまった。

「あれれー? 柚子さんのフォローするんだ。ゆーくん?」

「ごめんごめん。でも、バイト代は払ってくれるよな?」

 縁の顔が歪む。

 え?

「ほら見てあの顔。払う気全くないじゃん! そんな嘘っぱちな女の子より信用の出来る私の方がいいでしょ?」

「払うもん! 絶対払うもん!」

 しかし俺は柚子なんかより縁の方に想いがある。

「柚子も言い過ぎだって! ごめんな。縁怖い思いをして」

 縁を抱き上げて頭を撫でる。

「ゆーくん! 好きぃ」

 と耳元で囁く縁。

 泣きそうな声だった。

「私も優くんにくっつくもん!」

 縁を抱いている腕に胸を押し付けてくる。

 俺はどうすれば。

「ほら、私の方が胸だって大きいし、いいでしょ?」

「私だってこれから成長するもん!」

 などと言い争う縁と柚子。

 まぁうん。俺はどうしてらいいのだろうか?

 お昼でも作るか。

 と、なんとなく縁を抱いたままキッチンに向かう。

 キッチンの椅子に縁を座らせ、俺は冷蔵庫から冷やご飯を取り出し、チキンライスを作る。

 チキンライスと言いつつまぁオムライスなんですが。

 盛り付けて完成。 

 ちゃんと三人分を作り食卓に乗せた。

 縁を移動させて、ケチャップを渡す。

 そして、俺の分のオムライスを渡した。

 そうこれは、オムライスイベント。今回は俺のターン!

「ゆーくんこれ、少し多くない?」

「あ、それは俺のだから何か書きたいでしょ? オムライスだし」

「うん! 書く!」

 そう言って小さな手で描きはじめた。

 その姿は、やはり天使に等しいぐらいに可愛い。

 それを指を咥えて見ている柚子。

「縁ちゃん。書き終わったら貸してね」

 そう言って自分の料理を見ていた。

「はい出来た!」

 と笑顔で俺の顔を見る縁。

 そこに書かれていたのは、ゆーくんずっと一緒だよ。と読める文字。

「縁、お前可愛いなー!」

 と頭を撫でる。

 そして、お返しに縁の分に好きと書く。

「優くん。私も書けたわよ」

 言いながら体を突っついてきた。

 そこに書かれていた文字は、あまりにも卑猥と言うか倫理的にアウトなのであまり視界に入れないでおこう。

 その言葉を見た縁は絶句する。

「柚子先輩。それはないわー」

 ドン引きする。

「だって、だって、本当に欲しいんだもん!」

「あーあー、柚子先輩それ以上言ってはいけません」

 ngワードを隠すように被せて言う。

「でも、縁ちゃんも欲しいよねー」

 同情を求める。

 縁、やめてくれ。これだけはやめてくれ。もし頷いたなら俺が縁を見る目が変わってしまう。

「うーん。ゆーくんのが欲しくないと言ったら嘘になるけど、今は良いかな。欲しくなったら絞るから」

 セーフ? いやアウト?

 うーん?

「はい! この話はおしまい! 二人とも冷える前に食べようぜ!」

 俺に向けて描いた言葉を食べるのは心が痛むが、仕方ない。

 その思いが込められたオムライスは涙が出るほど美味しかった。

 食事も終わり、洗い物をしている。

 その時、なんと言うか二人は何やら話し合いをしている。

 二人とも小声であまりよく聞こえない。

「ちょっと、柚子さん。ゆーくんから離れてよ」

「それはこっちの言葉だよ。こっちは何年も片思いでいたんだから」

「でも、告白は出来なかったのでしょ? ならもう諦めるしかないじゃん」

「それを言ったらおしまいだよ。所で優くんのどこが好きなの?」

「え? 優しい所と料理が美味しい所と、私思いな所」

「あ、最初の二つはわかる」

「だから、大好き!」

「ちょっと縁ちゃん声がデカい。聞こえるでしょ?」

「これは聞こえて良いような」

「所で、もうやったの?」

「やりたいけど、断られた」

「あーやっぱりか」

「やっぱり?」

「優くんね、そういうのあまり好きじゃないらしいの」

「ふーん」

「だから今夜、優くんに睡眠薬を飲ませて、どっちが相性が良いか対決しましょ?」

「私、ゆーくんの体は毎晩触っているから熟知しているけどいいの?」

「何それ羨ましい。でも私、優くんとどれだけ一緒にいると思うのよ。それぐらいの知識乗り越えてやるわ」

「おーい二人とも何話してるんだ?」

「なんでもないよ。ゆーくん」

「なんでもない。優くん」

 その時の笑顔はなんだか怖かった。

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