12話

 朝。

 俺は息苦しい縁の胸の中で目が覚めた。

 朝日は登り、時はもう八時と告げている。

「やべぇ寝過ごした! おっと」

 急いで手で口を塞ぐ。

 まだ縁が寝ているのに大きな声を出さまいと思った、必死の抵抗だった。

 実際は出てしまっているのだが。

 まぁいい。まだ縁はぐっすり夢の中だ。

 まだ、起床時間はまだ先だった。

 暇を持て余した俺は、なんとなく彼女の唇を指でなぞる。

 透明感のある桃色の唇は予想をはるかに超える柔らかさに驚きながらも、声は断じて出さなかった。

 まだ、縁も寝てるし、せっかくなら彼女の感触を堪能しておこう。

 そう言った出来心だ。

 もう一度、彼女の胸にうずくまり、鼓動を感じようとする。

「ん?」

 妙に鼓動が速い。

「ゆーくん? 何してるの?」

 そう、頭上から聞こえてくる。

「すみません。二度寝しようとしてました。おはようございます。マスター!」

 満更でもない嘘をつく。

「何、マスターって」

 笑う縁。

「いやぁ、反射的にそう言っちゃっただけ」

「でも、マスターは無いわー」

 腹を抱えて笑う縁。

「じゃぁ起きよっか。彼氏さん」

 と言い微笑む縁は、光に照らされてなんだか神々しく見えた。

「朝食作ってくるね。」

「だめ」

「え? 一応、仕事だし。ん?!」

 それは、一瞬だった。

 唇を奪われると言うことはこの事だったのか。

 俺は、立ち上がった後、裾を引っ張られて、後ろを向いた、その時縁の顔が目の前にあって。あって。

 キスをした。

 おいおいおいおいおい。おかしいだろ。まだ出会って三日目だぞ? それでキスってどんなけ俺の事が好きなんだ。

 待て待て! おいちょっと!

 それ以上の一線越えようとする縁は、なんだか寝ぼけたように見える。

「ちょっと、縁!?」

「だってゆーくん、胸が大きい方が良いって目で言ってたもんだから、調べた方法を試そうかなって」

 それってもしや、俺の知識にあるやつじゃないよな?

「だから、唾液ちょうだい」

 とウインクした。

 俺は、その部屋から逃げる。

 無我夢中で逃げる。逃げて、着替えて朝食を作る。

 ちょっと焦って、作る量をミスったスクランブルエッグが山盛りになっているが気にしない。

 一心不乱にスクランブルエッグを作る。

 なんだか、口の中が妙に乾くのは気のせいだろう。

 うん気のせい。

 はい。気のせいです。

 今日も一日大変そうです。

「ゆーくん! ちょっと作り過ぎじゃない?」

 と、しばらくして縁が降りてきた。

 どうやって降りてきたのかは知らんが、降りてきた。

「おう。今朝食を作ってるから、席に座って」

 そう、自分でも分かる濁ったガラス玉の目をするような感情で言った。

 神様、この娘をどうにかしてください! お願いします。

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