8話
「さっきはごめんね」
「別に良いよ。勤務場所から離れた俺が悪いんだ」
ソースを焦がし、香ばしい匂いを放つお好み焼き。
俺はそんなお好み焼きを切り分け、縁の皿に乗せる。
「んー!なにこれ美味しい! こんなに美味しいお好み焼きってあったんだ!」
と美味しそうに咀嚼する縁。
「レシピ通りに作っただけだけどね」
「いや、ゆーくんが作ったっていう隠し味があるから美味しいの!」
と飲み込んで話した。
俺は笑顔で答える。
「そんなの不味くするだけだろ」
「ううん、そんな事ない。誰もが自分のために作ってもらったご飯は美味しいものだよ。特に恋人はね」
目を輝かせて言う。
恋人か。俺なんかで良いのかな。もっと料理も上手くて、良い顔の男なんていっぱい居るはずなのに。なぜ俺なのか。
応募者の中で俺が一番良かったから? 多分そうか。
待てよ。なぜ俺はこう、ネガティブな思考に至ったんだ? 別に自分を下げる必要なんてないじゃないか、逆だ。自信を持て!
「ゆーくん?」
そんな声で現実に連れ戻される。
「新しいの焼いてくれない? って顔色悪いよ! 大丈夫?」
「うん? 大丈夫。新しいのな、わかった」
近くにあるボールを手繰り寄せ、ホットプレートの上に乗せる。
ジュージューと、音を立てて焼けていく様は俺の心のようだった。
焼けば焼くほど焦げが出る。考えれば考えるほど焦げ、使えない思考が出てくる。
深くため息を吐く。
今日一日疲れたなーなんて自分に言い聞かせながら、お好み焼きを頬張る。
縁に癒してもらおうかな。
そう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます