5話

「良い湯だったよー」

 と背負われている縁が言った。

 今はリビングに向け、縁を輸送中だ。

「やっぱり、このソファーいいなー」

 と降ろしたソファーで、寝転がった。

「寝るなら、布団で寝ろよ」

「えぇ。あの敷き布団より低反発なんだもん。柔らかい方が良いじゃん。女の子の体のようにさ」

 なんすごい凄いことを口走っているが気にしないでおこう。

 気にしたら負けだ。

「はいはい。そうですね」

 と皿洗いをしながら返事をする。

「もう。その返事嫌い。あ、言うこと思い出した。でさ、明日ショッピングモール行こうよ。彼氏面したらボーナスあげるから」

「ボーナスなんて要りませんし、行きたくありません。こんな破廉恥少女と、ショッピングモールなんて俺の心臓が爆発してしまいます」

 とキッパリ断る。雇われ側としてどうなのかは置いておいて。

「明日は、後輩が出てる映画がやるからお願いー!」

「うん? 後輩?」

 そういえばこの子、元子役だったっけな。現役だった頃の後輩かな。

「佐藤 佐奈ちゃんって言うのだけど、その子が主役の「静かな水」って言う映画はやるの! 先輩として見ておきたいから。お願い」

 静かな水? 聞いたことがない作品だな。あまり大々的に宣伝してないだけかも知れんが。

 まぁ映画だけなら学校の輩と会う事は少ないだろう。会ったら会ったで、面倒な事になるが。

 とりあえず、okを出す。

 異常なほどに喜んでいる縁。

 時刻は、十一時

「縁、そろそろ寝ません? 俺眠たくなったんですが」

「ん? あー十一時だね。確かに寝よっか!」

 歯磨きをしに洗面所に連れて行く。

「ゆーくん、歯磨き持ってきた?」

「あ、忘れてきたかもしれん」

「なら、私の使う? なんちゃって。その収納箱の中に新品入ってるから使って」

 と言って指を指す。

「ありがとう。って本当に新品?」

 と言って使う。だが不可解なことに確かに中身は新品なのだが、封が空いていた。

「あ、それは、私が一回使ってみて、合わなかったやつ。新品はもう一個の収納箱」

 と恥ずかしそうに言う。

 うん? 使用済み? なんてこった。

 急いで、歯ブラシと口を濯ぎ、謝る。

「ごめん! 縁」

「いや、私もごめん」

 と顔を赤くする。

「まぁ良いや、これからそれ使って。捨てるのもったいないし」

 え? でも僕の心臓が持たないんだが?

「え? あ。はい」

「何その返事。こんな可愛い子の使った歯ブラシを使えるなんて嬉しい事でしょ?」

 どこか、感性がズレているような。

「あ、ありがとう」

 苦笑した。

 そんな事がありつつ、縁を彼女の自室に連れて行く。

「一緒に寝てくれない?」

 そう縁が弱々しく言った。

「え? やだ」

「これは、雇い主の命令。お願い」

 と、ほんとうに泣きそうな声で言った。

「命令。わかりましたよ」

 と、彼女の入っている布団に入り込んだ。

「あの、真っ暗じゃないと寝られないんですが、そのランプ消してもらって良い?」

「駄目。真っ暗だと怖い。暗いのが良いなら、こうして」

 と、僕の顔を胸に押し付けてた。

 確かに真っ暗になったが、流石にこれは。

 縁の体が、ピッタリくっついてくる。

 温かいが、その温かさが逆に心臓に悪い。

 脈拍はどんどん上がっていく。

 ちょっと、離してもらおうかと思ったが、縁は既に眠っている。

 どうすれば。このまま、未発達の胸に顔を押し付けていて良いのか?!

 よく眠れない夜だった。

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