2話

「ありがとう。ゆーくん」

 と笑う縁。

 ごくごくと、のどを鳴らしてジュースを飲んでいるのを横目で見と、そこには美味しそうに嬉しそうに彼女の姿。

 眺めていると何だか微笑ましい気持ちになった。

 案外普通の中学生だな。

 そう思った。

「ゆーくん。ゆーくん。なんでそんなに離れているの? もっと近づいてくれたっていいじゃん。私はゆーくんが好きなんだから!」

 ん? 今なんて? 好き?

「それってどういう意味です?」

「え? だってあの採用試験は、私のお婿さん探しみたいなものだし。それに選ばれた貴方は実質私の花婿だよ?」

 ちょっくら気が早すぎないか?

「でも結婚できるのって十八からですし、ちょっと早くないですかね?」

「そう? 結婚できなくても新婚生活みたいなことはできる思うんだけどなー」

 めちゃくちゃだな。

「あ、なるほどもう僕が縁さんを好きになることは決まっているですね。わかりました。はい」

 そう、生返事をしておく。

「何その返事。面白くない。でも私の事を愛してくれるって言ってくれた時、うれしかったよ」

「どんなけ俺の事好きなんだよ。仕事は始めてまだ一日も経ってないぞ。俺はまだその気になれない。それにまだ知らないことが多いし」

 悲しい顔をした縁が言った。

「じゃぁ、時間かけて相思相愛になろうね!」

 最後は笑顔だった。

 夕食時になった。

 俺は、縁に言われた通りにカレーを作った。何というか普通の食卓だ。

「いただきます。え? なにこれ美味しい。味に深みがあって、野菜の甘さだけじゃない、香辛料の辛さもしっかり主張してきてバランスの取れた味。どうやって作ったの?」

「食レポがお上手のようで、ただなんか、家から持ってきた無水調理器とルーを二種混ぜただけだよ。甘口と中辛を」

 そんなことは聞いていないように、パクパクと口に運ぶ縁。

 その食べる顔が本当においしそうに食べるので、こっちも作ってよかったと思う。

 それにその顔がかわいい。

 やべぇ。これじゃ相手の思うつぼじゃないか。別に好きになることが悪いことじゃないが、なんか負けた気分になる。

「おかわり!」

 とキレイに食べた大皿を渡してくる。

「はいはい。よそって来ますね」

 と、おかわりした分もペロッっと食べてしまった縁は、お風呂に入りたいと言い始めた。

「ん? 一緒に入らないのゆーくん?」

「いやぁ僕は、まだ付き合っている訳でもないし、やめておくよ。心臓に悪いし」

「ははーん。もしかして心の準備ができていないとか。それもそうだよね。なんだってプロの童貞だもんね」

 やかましいわ。

 そう怒鳴りそうになるが、ぐっと言葉を飲み込んだ。

 気があるためか、あまり悪いところは見せたくない。

「俺、負けたのか?」

 そう呟く。

 

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