第12話 カンタンじゃないかも③
「ゲッセー?」
聞いたことのある名だ。いつだったろう? 思い出せない。ノボルは問い返した。
「誰だよ、それ?」
「商人だよ。最近、この辺でも見た奴がいる。何というか、胡散臭い奴だ」
「違うよ、貰ったのは野菜売りの女だ。そいつがどうかしたのか?」
真っ赤な嘘だった。どこで、この木彫りを手に入れたのか、まるっきりデータがない。
ならいいが……と前置きしてザックは続けた。
「東の砦のことは覚えてるよな」
「ああ」
“ノヴォル”の知識によれば、この世界に残された数少ない拠点の一つだった。高く堅牢な壁に守られ、鉄壁と謳われていた。城からさほど、遠くない場所にある。中には民間人も住んでいた筈だ。ついひと月ほど前に陥落したと聞いていた。この城下にも、命からがら逃げて来た者たちがいる。
「彼らの話によると、ヤツらの襲撃中に、城門を開けた連中がいたそうだ」
「嘘だろ」
本音だった。ちょっと待て、いきなり設定盛るなよ。訳わからなくなるじゃないか。
「本当だ。開けたのは、兵士たちだった。皆ゲラゲラ笑っていたらしい。正気とは思えない」
「それが、そのゲッセーとやらと関係あるのか?」
ノボルは尋ねた。
ザックの話によると、砦が襲われる数日前に、ふらりと見慣れない男が立ち寄ったとのことだった。そいつは商人で、ゲッセーと名乗った。兵士たちの所にも出入りして、何やら売りつけていたという。バケモノの奇襲があったのは、彼が立ち去った直後だった。
ノボルの脳裏に、ふと、あのサングラスの男の顔が浮かんだ。何て名前だったっけ、カンまでしか覚えてない。でも、まさかね。ノボルは首を振った。あり得ない。ここは自分の夢の中だ。
「いいか、ゲッセーという男には気をつけろよ。会っても口を聞くな」
ザックが続けて何か言おうとした時、召集のラッパが鳴った。
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