第3話 カンタンな始まり③

 ノボルは呆れ顔で男を見た。それに構わず、男は得々と語り出した。

「と言うのは、例えで、この枕で寝ると、リアルでワクワクするような夢が見られるのです。流行りの異世界勇者になったり、皇帝になったり、あるいは敏腕スパイ……まあ、ヘッドセットなしでVRゲームができるみたいなものだと思ってください。睡眠時間を有効活用できて、寝不足もない、一石二鳥でしょう」


 男は数枚のシートを取り出した。それぞれ、色の付いた袋に入り、ナンバーが振られていた。

「この入れ替え式のシートで、夢の内容を選ぶことができます。一枚はサービスでお付けしますが、何がいいですか、恋愛?冒険?世界征服?あ、この紫はダメですよ、成人向けですから」

 そう言ってにやにやしながら、適当に緑の袋を選ぶと、枕と一緒にノボルに押し付けてきた。

「はい、今なら特別価格、たったの二千円です」


 そら、来た。インチキ商法の定番だ。

 手持ちがないのを理由にノボルが断ると、後払いでも構わない、と男は言い出した。

「とにかく、お試してください、もし気に入らないのでしたら、返品してくださって構いません。もちろん、その場合お代はいただきません」

 結局、強引に押し切られる形で枕を持って帰ることになった。

「ありがとうございました」

 男は上機嫌で、ノボルに頭を下げた。 

「では、よい夢を。『人生夢の如し、ならば、よい夢を見なければ損』ですよ。まあ、ある本の受け売りですがね」

 まんまと相手のペースに乗せられてしまった。こんなもの見たら、母親に何を言われることか。

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