第2話 カンタンな始まり②

 男はノボルに名刺を渡した。

「私はこういうものです」

 名刺には、カンタン・ラボ所長、甘月錆とあった。どう読めばいいのか、ノボルにはわからなかった。カナくらい振っておけばいいのに。

「カンと申します」

 男は人好きのする笑顔を浮かべた……つもりだろうが、サングラスのせいで台無しだ。


 男はノボルを、ゲーセン隣の元八百屋だった店に手招きした。そこは、にわか作りの雑貨屋になっており、店内には、健康グッズが所狭しと並べられていた。みな、一見小綺麗だが、胡散臭さがいっぱいだ。ノボルは中には入らず、外から中を眺めた。


「何か興味のある品はございませんか?今なら、お安くしますよ。」

 そう言われても、見たところ、足ツボマッサージやら、痩せる腹巻きやら、年配者向けのものばかりだ。こんなものは必要ない。

 ノボルが踵を返そうとすると、男はあわてて引き止めた。

「ちょ、ちょっとお待ちを。これなんかいかがですか?」

 そう言ってノボルの目の前にあるものを差し出した。

「これは、カンタン・ピローというもので、我がカンタン・ラボが自信を持ってお薦めする商品です」


 目の前に差し出されたのは、一見何の変哲もない、ただの白い枕だった。おおかた、世間にゴロゴロ転がっている、安眠枕のたぐいだろう。

「ははあ、さては、ただの枕だと思ってらっしゃいますね?とんでもない、これは、画期的な枕ですよ」

 男はわざとらしく笑った。

「別世界に行けるのですよ」

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