第67話 クトリヤ国離反計画


「あの、カルラ殿、でしたか?有り難うございます、我々の事まで…。」

シグがカルラに寄って行き、感謝の気持ちを述べた。


「いえいえ、私は命を助けて頂いたし、何よりあの騎士の発言が気に入らなかったもので、まあ、ついでってやつですよ、ついで。」


シグとマオは腰を低くして頭を下げる。


「其れよりカルラさん!何でこんな所にいるんですか?」

メルラーナが気になっていた事を突っ込んだ。


「え?ああ、その、実は私もリースロートへ向かう途中だったんだ、モアムダンから飛行艇に乗って…って、メルラーナさんこそ、何でこんな所に?とっくにリースロートに辿り着いて、カノアの町に帰っていてもおかしくないんじゃ?」

突っ込み返されてしまった。


「あ…う、いや、色々あって。」


「うん、後にしよう、こんな場所ではゆっくり話しも出来ない、今日はもう飛行艇も飛んでいないだろう、モアムダンで夜を明かしてから飛行艇で移動しよう、その時にでも話は聞かせて貰うよ。」


「はい。」


結論が出た所に、冒険者のリーダーが水を差す。


「あの、カルラ殿、メルラーナさん、すまないが、飛行艇は全部出払っている。」


「…え?」


「住人の避難に使わせて貰ったから一隻も残っていない筈だと思うが…。」


…な、…な、…な、………なんですと!?


衝撃の事実を聞かされたメルラーナは、思わず地面に両手、両膝を付けて項垂れてしまった。


飛行艇とか云う乗り物に乗ってみたかった、飛行艇に乗ってみたかった、飛行艇に乗って、飛行艇に、飛行艇、飛行艇、飛行艇、………シクシク。


「…あ、いや、でも君程の冒険者ならば冒険者ギルドの専用機を使えるから…。」

リーダーは項垂れているメルラーナを諭す様に提案する、…が。


「…ぐすん、…私、冒険者じゃ無いです。」


「「「「……え?………えええええええっ!?」」」」

此の言葉には、カルラを除く其の場に居た全員が一斉に声を上げて驚いた。



夜も大分更けて来たので、比較的に被害の少ないギルドの施設で夜を明かす事となった。



翌日


昨夜泊まった施設の大広間に、昨日の激闘を潜り抜けた猛者達が集まり、今後どう云う活動をしていくかの相談をし合っていた、大広間の一角ではメルラーナ、シグ、マオ、其れとカルラの四人は至急行動を移さなければならない状況だった為、冒険者のリーダーに交ざって貰い知恵を出し合っている。


「正直、俺は此の国の騎士としての制度が嫌いだ、今すぐにでも此の国を立ち去りたい。」

シグは、自身が其の嫌っている騎士である事に誇りを持てずに居た。


「そりゃ、あんな奴が上官だと誇りなんざ捨てたくもなるわな。」

リーダーが顎を何度も引いて、ウンウンと頷いている。


「其れは、私も同じ意見よ、けれど、今此の国を出れば、其れこそ家名を汚す事になりかねないわ。」

マオ自身もこの国のやり方にはウンザリしていた、しかし現実は其の思いを踏みにじるものだ。


各々が思った事を口に出し、此までの鬱憤を晴らして居た、二人の騎士はこのまま放っておけば間違いなく反逆者として扱われ、最悪死罪を言い渡されかねない、今最も安全な方法の一つとして上がっている案が、彼等が案内役としてメルラーナを連れてクトリヤ国を出る事だった。

移動手段やルートはまだ決まってはいないが、今は二人の騎士がどのようにして国を立つかの算段をしている最中であった。


「其れに、私にはまだやり残した事がある…。」

そう言って黙り込むマオ。

国を出て行きたい気持ちと、姉との約束を守れなかった自分自身の責任があり、素直に出て行く決心が付かないのだ。

「…マオ。」

ツァイ隊長の事か…。


抑も二人の騎士が国を出ようと云う考えに至る経緯はこうだ。

精鋭として集められた筈の部隊が、霧の魔物によって略全滅すると云う事態が起こった、其の事をモアムダンの騎士団長の報告した所、掌を返される様に扱いが一変したのだ、騎士団長には責任を取って死ねと言われた様なものであった、モアムダンの他の騎士達にも蔑まれ、挙げ句に逆賊として扱われそうになった、其れはカルラが其の騎士を言いくるめてくれたお陰で逃れられた訳だが。


以前からずっと、騎士団に対して不満や不信感を抱いていたシグにとって、今回の件は自身の祖国を去る決心を付けさせる引き金となったのだ、マオに関しては、本人は気付いていないが、シグに依存している状態であった、今にも切れそうな細い糸を、シグと云う存在が繋ぎ止めてくれているのだ、シグの側から離れる様な事になれば、彼女は間違いなく壊れてしまうだろう、自害する事も戸惑わない、そんな状態なのだ。


話を聞いていたカルラも、何となくではあったがマオが危険な状態である事は感じていた。


「それじゃあ、…マオさんだっけ?まず君のお姉さんの処へ向かおう、其処で全てを報告してしまえばいいんじゃないかな?」

此は心の問題だ、義兄を守ると約束したのに守れなかった事への責任感が、彼女を追い詰めている、ならば其れを取り除きさえすれば、元通りとまでは行かないけど、生きようとする希望はつかみ取れる筈。


「其の後は、…そうだな、私もリースロートへ向かう訳だから、君達に護衛を頼もうかな?ソルアーノの学者の護衛ともなれば私程度の人間でも、少なくとも家名を汚す様な任務では無いし、私が君達を指名した事にすればある程度は丸く収まるんじゃないかな?」


「「おお~。」」


周囲から歓喜の声が上がるが。


「お気持ちは有り難いのですが、恐らく無理があるかと、例えソルアーノの学者さんと云えど、上が容認するとは思えません。」

マオが心配しているのは、騎士団の上層部を納得させるには、素性を証明出来る物が無いと不可能、と云う事だ。


「しまった、其れがあったか。」

流石にカルラも頭を抱えてしまった。


「ん?ソルアーノの学者殿なら証明書とか持っていないのか?」

リーダーが横から提案してみたが。


「有るには有るのですが、申し訳ない、実は此に関しては各国の認知度の違いが有りまして、ソルアーノ以外の国では私達は学者を名乗って行動をしていますが、学者と名乗っている者の9割はまだ学生なのです、私も然り。」


「へ?え?そりゃどう云う?」


カルラは胸のポケットから手帳の様な物を出して皆に見せた。


「此は学生証です、此を見せれば大体の国は学者として認識してくれます、所謂学者の卵と云うやつです、勿論、卵とは云え学者である事に変わりはないので、偽っている訳ではありません、ソルアーノ国でも其れは承認されています、それは学者を増やす為の、博士号を取る為の、研究の為に本国が認めた処置、ですが、ソルアーノ国内では学者では無く、学者の卵なんです、只の学生、つまり、軍の上層部の様な偉い人物を納得させる証明書としては弱いんですよ。」



今後の移動の手助けをしてくれると云う二人の騎士とカルラが、色々と提案を出したり、却下したりしている話を、少し離れた場所で聞いていたメルラーナは。


…話が難しくて付いていけない。

正直、騎士とかは王都へ連れて行って貰った時に遠くから一度見た事があった位で、国を護っている人達、位ににしか認識が無かったからな~、何か…複雑そう…。


等と考えていた。


「仕方無い、我々が国を出る方法は後々考えましょう、先ずはメルラーナさんをリースロートへ連れて行く方法を考えましょう、我々の問題で彼女の目的に支障を来したくありません。」

マオは今此の話をしている時間も勿体ないと思っている様だ。


「そうか、…ではまずマオさんの御実家まで赴くとしましょう、移動の間でも提案は出せるしメルラーナさんの足止めになる訳では無くなる筈。」

暫くの間、難しい話は続き。


「…抑も、メルラーナさんと私が一緒に行ってもいいのでしょうか?」

と、マオが呟く。


「マオ、話を戻すんじゃない、俺は元々国を出るつもりだった、其れが早くなっただけの事だ。」

シグがマオを責め立てる様に口を挟む。


「まあまあ、シグさん、彼女の意見は最もだと思うよ?メルラーナさんと君達には何の接点も無い訳だし、けど、部外者である私の目から見ても君達の立場は此の国ではかなり危険な状態になりかけている処だと判断出来る、其れ位、昨日のあの騎士が何をしでかすか解らない状況と考えれば、直ぐにでも国を出た方がいいと思うし、向かうならクトリヤ国の親国に当たるリースロートに向かった方が色々な問題も解決出来る可能性だってあるからね。」

シグを手で遮り、カルラがマオを説得する様に優しく言葉を綴る。


「勿論、マオさんの疑念は理解出来る、国から出るって事は騎士として最低の行為の一つだろうからね、でも此処で悩んでいても始まらないし、少なくとも此処に居る冒険者諸君は君達を見捨てる様な事はしないと思うよ?だからこそ私も知恵を振り絞っている訳だし。」

カルラの説得に。


「…、分かり…ました、今は移動しましょう。」

心の中に蟠りを残したままではあったが、其処まで言われては納得せざるを得なかった。


漸く話が纏まった様だ。


真っ暗闇だった街の周辺が、南の空の地平線から登る太陽によって薄らと辺りに明りを灯し始めていた。


「え!?もう朝なの!?」


戦いに必死で全く気が付かなかった。


「冒険者ギルドは先程の戦いで崩れてしまった、何処か寛げる場所は無いか?広い場所で、出来れば近場がいいのだが。」


冒険者のリーダーは周りに居た仲間達に休める場所に心当たりが無いかを尋ねている。


…少し経って、良い場所の案が出されたのだろう、全員が移動を開始し始めた、メルラーナも其れに釣られて付いて行くのだった。


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