第66話 再会


「…え…っと?………はい?」

騎士の言葉の意味が理解出来ずに小首を傾げて考え込むメルラーナ、周囲では冒険者達が騒ぎ初め、数人がメルラーナを護る様に周囲に集まる、そんな中。


「…なぁ?………お前等、何を言っているんだ?」

冒険者と共に魔物に立ち向かっていた騎士の1人が、冒険者やメルラーナを捕らえ様としている騎士達に向かって、声を震わせ乍ら話し掛ける。


「自分達のしている事が解っているのか?」


「当たり前だ!此奴等はモアムダンの町を破壊した重罪人だ!貴様こそ解っているのか!?」


プツン。


シグの中で何かが切れた。


「解る訳が無いだろうがっ!!彼等はモアムダンの住人を救った英雄だぞっ!!町が壊れたのは魔物との戦いで結果的に壊れただけで!故意に破壊した訳では無いだろうっ!?其れを重罪人だとっ!!お前達は何をしていたっ!!騎士団長が命を賭してあの化け物と戦っていた際に!貴様等は何処で何をしていたんだ!?」


「フンッ!我々は住人の避難を最優先に行っていたのだ!団長の亡骸はこの目で見て来た!今此の場で一番位の高い者は私だ!私が判断したのだ!逆らえば貴様も逆賊として扱う事と成るぞ!いいのか!?家名を汚す事と成っても!!」


此奴、今何て言った?位が高いと言ったのか?位が高いだと?其れだけで?…たった其れだけの理由で偉そうにしているのか?其れだけの理由で、騎士達は此奴に従っているのか?何の疑問も持たずに?何だ其れは?意味が解らない、理解が出来ない、…ああ、もう駄目だ、付いて行けない、此の腐りきった性格はもう、絶対に治る事はないだろう。


握り拳を作り、震わせているシグの手に、誰かがそっと手を添える、シグは添えられた手と、其の手の主を交互に見て…。


「マオ。」

其処には共に化け物と戦い続けた戦友が居た。


「一つ、お尋ねして宜しいでしょうか?」

マオは偉そうにしている騎士に話し掛ける。


「何だ?手短に話せ、我々は忙しいのだ。」


「では失礼して、何故貴方方はリースロートの竜騎士が去るまで隠れていたのですか?」


「!?」

マオの言葉に一瞬怯む騎士達、だが一番驚いていたのはシグだった。


「マ、マオ、どう云う事だ?隠れていた?其れは…俺達が…。」

シグが最後まで言うのを、マオが手を上げて遮った。


「貴方方の言う事が正論で、今此の行動が正しいものだとすれば、あの竜騎士が此の場に居ても何も問題無かったのでは?私の知る限り、大分前から潜んでいたご様子。

其れ以前に、町への侵入を防いでいた冒険者諸君と、貴方が重罪人と呼んだ其処の少女に、少しは手を貸して頂けたら良かったのでは?」


「フンッ!まず最初に言っておこう、其処の冒険者共と小娘はもう捕らえる事は決まっていた、故に手伝う等と、犯罪者に手を貸す事等出来る筈も無かろう、次に竜騎士についてだが、クトリヤはリースロートの傘下国とはいえ他国である事に変わりは無い、他国の騎士に刃など向けてもみろ、其れは国際問題と成る、故に彼の竜騎士が去るまで待機していたのだ。」


騎士の言葉にマオは面食らってしまった。

「な!?」

此の人は、自分達が戦わなかった事に何の罪悪感も持っていないと云うの?




何だろう?当事者の様で、まるで蚊帳の外な此の感じは…、其れに此の騎士さん、まともそうな事を言ってはいるんだけど、…何か、………物凄く。


「肚が立つ。」


「え?」


マオはいつの間にか側に近付いて来ていた少女に驚く。


嘘!?何時の間に!?気配を感じなかった!?…ううん?彼女はきっと、私達の想像を遙かに超える高みに居るんだ、なら気配を感じなくても…、って!?今何て言ったの?肚が立つって言わなかった?


「ちょ!?一寸君!?」

マオがメルラーナを引き留めようとするが、既に遅かった。


「えっと?何だっけ?町を壊したから重罪人として捕える…だっけ?いいよ?捕まえてみなよ、…但し、抵抗はするけどね?」


周囲の気温が一気に下がるのを、其の場に居た全員が感じた。


「いいだろう!引っ捕らえろ!!」

一瞬怯んだ騎士達だったが、命令によって動き出す、其の時だった。


「一寸待った!!」


そう言って、騎士達の前に一人の男性が立ちはだかる。


「…え?」

メルラーナは其の声に聞き覚えがあった。


「全く、久しぶりに会ったと思えば、何時の間にそんな好戦的に成ったんだい?君は?」

其の男性は、先程の2体の魔物に追われていた人物だった、走って逃げて来ていた所為か、来ている服を薄汚れてはいたが、間違い無く白衣である、暗くて解りにくいが、青い髪をしている20代くらいの青年だった。


「…あ、…カ!………カルラさん!?」

其処に居たのは、カノアの町で出会ったソルアーノ国の学者、カルラ=トネルティであった。


「や、メルラーナさん、久しぶり、と、再開を喜びたい処だけど。」

一言挨拶だけ交し、直ぐに騎士の方を向く。

「私の名はカルラ=トネルティ、ソルアーノ国の学者をしている者だが、…クトリヤ国の騎士殿、貴方方の主張は理解した、しかし町中での戦場において建物が壊れるのはある意味では仕方の無い事だと思うが、其れ何より、町の守護者たる騎士団の貴方達が、魔物の町への侵入を許してしまった事の方が問題だと思うのだが、どうかな?」


「う…ぐ!」

此まで一歩も譲らなかった騎士が、カルラの発言に反論出来ずに居る。


どうしたの?アレだけ偉そうに叫んでいたのに、急にオドオドしだした?


「彼等はね、他国に自身達のしている事がバレるのが怖いんだ、特にソルアーノは大陸中に技術支援を行っている国だからね、此の事が問題になれば罰せられるのは彼等の方だと解っているんだよ。」


「え?其れって、自分達のしている事が悪い事だって解ってるって事じゃ?」


カルラは再び騎士達に向き直り。

「其れでも彼女、メルラーナ=ユースファスト=ファネルを捕えると云うのならば、我が国で其の強行を広めさせて頂くが?」


…ええと、カ、カルラさん?此って所謂、脅しと云う奴では?


「…えっ!?ユ!?ユースファストだって!?」

シグは驚いて、メルラーナを見つめる。

「?」

マオは解っていない様子だった。


「ユースファスト?今ユースファストって言ったか?」

「俺もそう聞こえた。」

「ユースファストってあの?」

「まさか。」

「…けど、もしそうだとしたら。」

「成程、あの強さ、納得した。」


冒険者達が騒ぎ出す、と同時にメルラーナ達の周りを囲んでいる騎士達も同じ様に、側に居る仲間と話しをし出していた。


「そうそう、言い忘れていたけど、彼女はリースロート王国七大騎士団の一角、火竜騎士団団長にして、五大英霊の一人、闘神ジルラード=ユースファスト=ウルスのご息女だ、彼女を捕えれば君達の所為でクトリヤ国が滅ぶ事になり得るかも知れないが、其れでも避ければ捕えるといい、但し、君達如きで彼女を捕らえれるとは到底思えないけどね。」


火竜騎士団ってのはさっきの竜騎士の人が言ってたのと、確かエアルも火竜騎士団とかってのに所属してるとか何とか、闘神って云うのも魔人の里でテッドに聞いたから、まあそれはいいとして、七大騎士団?何だ其れ?又新しいのが出て来たぞ?


メルラーナにとっては初耳の名前だが、騎士団のある国では何処にでもある只の部隊分けで、騎士団とは駐屯騎士団や憲兵騎士団、近衛騎士団等、様々な用途に分けられている、其れ等、分けられている部隊が3つならば三大騎士団、4つならば四大騎士団と云う風に分けられているだけの事である。


「ぐっ!?」

騎士は押し黙り、何も発言出来なくなってしまった。

こう云う場での沈黙は、大体の場合、承認したと云う事になってしまう、反論があれば発言すればいいだけの事で、黙っているのは言い返せる要素が無い事を示す、話が平行線で進まない場合に、相手を言いくるめて黙らせると云う交渉術の一つである。


「理解して頂けて何よりだ、ああ、其れと、此方に居る二人の騎士の謂れの無い悪評を流して家名を傷付ける様な事をすれば…、潰すよ?」


ビクッ!


此処まで和やかに話していたカルラが一瞬、殺意のある表情に変貌したかの様に見え、メルラーナは背筋に悪寒が走るのを覚える。

其れは直ぐに消え、何時もの表情に戻っており、周りを見てみても、冒険者や騎士は何も感じていない様子だった。


気のせい…かな?…さっきのカルラさん、…一寸怖かったかも。


そんな事を考えつつも、大凡2ヶ月ぶりの再開を果たしたのだった。

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