第46話 残された痕


刹那の出来事だったのか、それとも長い時間が過ぎていたのだろうか。

凄まじい轟音が辺りに響いたと思った後、急に静けさが周囲を包み込み。

其れと同時に先程までの熱さと熱気が姿を隠し、極寒地帯を思わせる程の冷気が全身の体温を奪って行く。


「う…ん。」

何時目を閉じたのか、メルラーナは状況を把握する為に重たい瞼をゆっくりと上げると。


「な!?」

信じられないモノが其の瞳に映し出される。

「こ、凍ってる?」

周囲の全てが氷に覆われていた、あの巨大な地竜を始め、溶岩の放つ光で赤黒く照らさていた黒い岩は、表面が氷に閉ざされ、黒い色は一層黒く見えた。

全体を赤く染めていた溶岩は完全に冷え切っており、灰色と成って固まっていた。

規模も異常だったが、氷が溶ける様子も、地竜が動き出す様子も無かった、其れだけでビスパイヤが最初に行使した氷の魔法とは別格のモノだと云う事が解る。

「!?み、皆は!?」

此処まで共にしてきた仲間達の安否が気になり、周辺の人影を探すと…。


「火を起こせ!暖を取らないと凍傷するかもしれない温度だ!」

「すげぇ、此の化け物じみた地竜を一撃で仕留めたぞ。」

「感心している場合じゃないぞ!死傷者の確認を取るんだ!怪我をした奴はいるか!?」


遠くから様々な声が聞こえてる、全員かどうかはまだ解らないが、どうやら無事の様だ。

「ビスパイヤさん!凄いです!」

安心したメルラーナは此の戦いの功労者であるビスパイヤに声を掛ける為、彼の衣服の一部を握っていた手の先を見る。

「え?」

服は握っていた筈だ。

「ビスパイヤさん?」

だが其の先には誰も居なかった。

「ビスパイヤ………さん?」

周辺を見渡し、ビスパイヤの所在を確かめるメルラーナ。

おかしい、自身の身体に移動した気配は残ってはいなかった、実際、ビスパイヤと共に居た場所から移動してはいない、が、其の場にビスパイヤの姿は無かった、姿所か、まるで初めから其の場に居なかったかの様な、そんな感傷に襲われる。


『ああ、そうか、此の魔法を行使すれば、儂は死ぬのか………。』


ふとビスパイヤが呟いた其の言葉が脳裏に浮かぶ。


「ビ、ビスパイヤさん!!ビスパイヤさん!!ビスパイヤさん!!」

声を張り上げてビスパイヤの名前を連呼するメルラーナの耳に、彼とは別の声が飛び込んで来た。

「めるらーな!!」

「!?此の声は…リゼ!?」

振り返るをリゼの走って来ている姿が瞳の中に映り、リゼは其のまま速度を落とす事なく、メルラーナの胸の中に飛び込んで来た。

「良かった、リゼ、怪我は無い?大丈夫?」

「うん、だいじょうぶ、それより…。」

何故か悲しそうな表情をしているリゼ。

「めるらーなはだいじょうぶ?なにかさけんでたよ?ものすごいかなしそうなこえでさけんでたよ?」

「!?」

其の言葉を聞いた途端、其れまでの緊張の糸が解れたのか、リゼを力強く抱きしめ、頬に涙が伝わる。


「…っ!?」

「めるらーな?ないてるの?」

リゼは泣きじゃくるメルラーナの頭を、そっと優しく撫でていた。


ガノフォーレは事態の深刻さを受け止め、一時的にオーガの集落まで引き返す決断を下した。





オーガの集落、其の一室。

其処には今、各都市の冒険者ギルドの代表達が集まっており、エバダフ冒険者ギルド本部と念話で繋ぎ、重要な会議が行われていた。


「くそっ!!くそっ!!!くそっ!!くそっ!!くそっ!!」

ガノフォーレは石の壁を素手で殴り乍ら叫んでいた。

「少し落ち着け、ガノフォーレ。」

普段は冷静なガノフォーレが珍しく荒れているのを見て、アンバーは落ち着く様に宥める。

「落ち着け?落ち着けだと?此れが落ち着いて居られる状況かっ!?私達は貴重で!大事な存在を失ってしまったんだ!!此れは!間違いなく国際問題に発展する問題なんだぞ!!」

「な!?く、国だとう!?」

ガノフォーレの発した言葉に絶句するアンバー、すかさずスルトに念話で尋ねる。

『ほ、本当か?スルト?』

『…そうね、ビスパイヤ様と云えば大陸でも5本の指に入っていてもいいと言える位の凄腕の大魔導士、いえ、大賢者かしら、そんな人物を失ったとなると、冒険者ギルドだけの問題ではなくなるわね。』


『確かに、ビスパイヤの爺さんを失ったのは大きな損失ではあるだろうけどよ、今回の任務は今まで受けてきた任務の中で最も危険であると云う事は、俺達自身が一番解っていた筈だろ?爺さんや俺の国も其の事も含めて冒険者稼業は命の危険性も有る事位は理解してくれると思うけどな。』

ガノフォーレ達を擁護する様にそう語ったのは、ビスパイヤと同じ国から派遣された冒険者である、9次席、グラディウスのソーンと云う人物だ。

事情が事情なだけに彼は既に念話で自国の冒険者ギルドに、件の内容を報告していた、当然、ガノフォーレも其れを承諾している。

彼の意見は最もでは有るが、国と云う存在は個人の意見がまかり通る程単純な組織では無いと云う事は、ガノフォーレが良く解っている事であった。




冒険者の隊長クラスの人物達が難しい会議をしている間、メルラーナは一人、部屋で尋常ではない位落ち込み、自身の手をジッと見つめて考え事をしている。

「…直ぐ傍に居たのに、…何も出来なかった。」

命が手をすり抜けて行く感覚、遺跡で起きた惨劇を思い出していた。

「…国を出てもう2カ月か、…何も変わってないな、私。」

抑々、父親に言われ、ガウ=フォルネスの事を知る為にリースロート王国のサーラと云う人物に会う為に住み慣れた町を発ったのだが、遠回りをする嵌めに成り今に至る。

「…私、こんな所で何をしているんだろう?」

「めるらーな?」

「!?」

ふと名前を呼ばれ振り返ると、其処にはリゼの姿が有った。

「リゼ。」

リゼはメルラーナの顔を覗き込む様に見つめ。

「だいじょうぶ?」

「…ぁ。」

心配してくれるリゼを、優しくそっと抱きしめて。

「ゴメンね?心配させたみたいで、有り難う、私は大丈夫だよ。」

リゼに語り掛ける様に、自身に言い聞かせていた。


あぁ、そうだ、出会った頃から何故か慕ってくれている彼女リゼは、父親の元へ返すまでは絶対に護らないと。

落ち込んでいた心を引き締め、強い意思を以って誓うのだった。


冒険者達の保護対象であるリゼを、冒険者では無いメルラーナが護ると云うのは、大分おかしな話である、リゼを護る人物達は、リゼとメルラーナの傍に大勢いる、特にアンバーは護りに特化したクラスであり、其の実力は9次席と云うだけで国中所か、近隣国にまで知れ渡っている程だ。

そして其の事は数日間アンバーと共に行動をして来たメルラーナでも、ある程度は理解している事である、つまり、メルラーナがリゼを護る必要は無いと云う事だ。

しかしメルラーナは自身が思った『護る』と云う言葉に、何の違和感も覚えなかった。

其れはジルラードの娘である事と関係している、正確にはジルラードの、と云うよりも、ユースファスト家の血筋と云う冪だろう。メルラーナは、ジルラードの仕事の事を一切知らないで育って来たのだが、ジルラードはリースロート王国の騎士ナイトである、其処に歴代の…が付くのだ。

ユースファスト家は【リースロート王国・火竜騎士団】と呼ばれる近衛騎士団の団長を務めて来た一族である、其の騎士ナイトの血が、メルラーナに『護る』と云う言葉を思い浮かばせたと言えるのかも知れない。


ふぅ…よし!気持ちを切り替えよう!

無理矢理気持ちを切り替える事にしたメルラーナ、ビスパイヤとは余り面識が無かったとはいえ、人の命が自身の傍で消えて行くのは、辛く悲しいものである事を改めて感じていた…。



リースロート王国・王の間


広い部屋は天井から床、壁は無く天井を支えているのは数十本の柱だけで、部屋全体が大理石で出来ている、柱だけで壁が無い分、外の灯りを取り入れて全体を明るくしている、床には入り口から玉座まで煌びやかな装飾が施された真っ赤な絨毯が敷かれており、長い槍を持った銀色のフルプレートメイルを纏った騎士が十数人、絨毯の外側に並んで立っている、柱の外側の床は一段下がっていて綺麗な水が流れ続けている、水の中には花壇が一定間隔に置かれていて色鮮やかな花が植えられている、咲き誇っている花はまるで水に浮かんでいる様に見え、色取り取りの花が水面に反射して美しさを際立たせていた。

最奥には階段が有り、階段を登った先に玉座が置かれている、其の玉座に胡座をかいて肘掛けに片肘を付き、其の腕の手の甲に顎を乗せた如何にも鍛え上げられた肉体をした赤い髪をした、見た目は20代前半と言われても不思議ではない程の若作りの男が座っていた。


男の名は『シリュース=バルボルタス=リースロート』

第977代リースロート王である。


其のシリュースに向かって、左側には黒い軽装鎧を纏った2メートルは有ろうかと云う長身の男が立っている、邪竜騎士団団長のデュレンと云う男だ。

邪竜騎士団は火竜騎士団と同様、近衛騎士団である、火竜騎士団が王族を護る事を主な任務とするのに対して、邪竜騎士団は王を護る事だけを目的に結成された部隊なのだ。

故に全七師団を誇る火竜騎士団とは違い、100人程度の少数精鋭で編成されており、1人1人が最低でも大隊長クラスの実力を持っている、其の頂点に立つ男が彼、デュレンなのである。

更にデュレンはシリュースの義兄弟に当たる、デュレンの妹がシリュースの正妻だからだ。


次にシリュースに向かって右側には190センチは有る長身で、全身に白く、細部に装飾の施されたローブを纏った白い長髪に長い立派な髭を生やした男が立っている、名はロズワルト、リースロート王国の宰相であり、別称・魔法大国と呼ばれるリースロートの大魔道士でもある。

其のロズワルトに、メイドの格好をした女性が小走りで近寄りと、ロズワルトは少し屈み込む様な姿勢をし、何やらボソボソと耳打ちをした。

メイドの話を聞き終えたロズワルトは、シリュースの側に寄ると。

「陛下、王女殿下がお見えになっているそうですが。」

と告げた。

「サーラが?…ふむ?通せ。」

「御意。」

ロズワルトはメイドに向かって顎を引き、頷いてみせると、其れを見たメイドは再び小走りで走り去って行った。


少しして、1人の女性が王の間に入って来た、女性は上半身に軽装の青白い甲冑、腰には白い丈夫そうな布を巻き、余った部分を膝の辺りまで垂らしている、ヴァルキリーメイルと呼ばれる分類の鎧を纏って現われた。


「おお、妹よ、珍しいではないか、お前が此処に来る等、…其れに、そんな物騒な戦闘衣を装備してどうした?」


シリュースは明るく振る舞って、妹であるサーラを快く迎えるが、其の表情は真剣其者であった、理由は明白である、彼女には基本、宰相と共に全面的な王政を任せているが、王への報告は全て宰相が行っており、此の王の間に、彼女が直接報告に来る事は無いのである、其れは其れ以外でも同様だ、彼女が此処に来てまで直接、王に報告しに来る理由があるとすれば…。


「陛下、南の大賢者、ビスパイヤが命を落としました。」


サーラの其の言葉に、ピクリと眉を動かすシリュースに対して、明らかに動揺を見せたのはロズワルトだった、だがロズワルトは何も話す事はしない、王女であるサーラは、王であるシリュースに報告しに来た為だ、口出しする等以の外である。

だが動揺するのも当然の事、ビスパイヤはロズワルトにとって、恩師であるからだ、魔道士として特に何かを教わった訳では無いし、実力はロズワルトの方が遙かに優れてはいるが、人生と云う名の経験値の差は中々埋める事は出来ないものである、因みに白い髪と長い髭から高齢と思われがちだが、ロズワルトはまだ40代前半である。


少しの間、王の間に静寂が流れ。


「…ふぅ、…そうか、ビスパイヤが逝ったか。」


軽く溜息を付いた後。

「ロズワルト、至急ハールート国に使者を送れ、余が自らハールート王に謁見を申し立てる。」

シリュース王の言葉に、その場に居た殆どの者達が動揺し出した。

当然と言えば当然である、ビスパイヤの祖国であるハールート王国はリースロート王国の傘下の国だ、同じ王でも立場が違う、上位の王が下位の王に謁見する等、有り得ない事だろう。

だがシリュースは、そうする事の理由が有る事を確信していた、とはいえ只単に謁見をすると云う訳では無く、立場を明確にさせるつもりではある。

「出来得る限り早い方がいいだろう、ハールートへ赴く間の予定は、出来るもの優先性の高いものは前倒しで終わらせる、其の他は後に回すか却下しておけ。

ロズワルト、お前は余と共に来い、お前の知恵と力は必ず必要となる。

デュレン、お前は此処に残れ、妹達の事は頼んだぞ?」

「「御意」」

二人の側近は、王の言葉に一切の疑いを持つ事無く、承諾する。

「妹よ、余が留守の間、全権を委ねる。」

シリュースがそう締め括ろうとし、ロズワルトは傍に居る自身の臣下に命じ、自らも王の間を離れようとしていた時。


「お断りします。」


「「「………はい?」」」

王と二人の側近は思わず間の抜けた返事を返してしまった。

実は此の四人と、シリュースの正妻であるデュレンの妹を含めた五人は、小さい頃からの友人同士であり、気心の知れた親友なのだ、其の為か、偶に今の様に素が出る事が有ったりする。

「いやいやいや、何言ってんの?お前?」

シリュースの突っ込みに。

「そうですよ姫?王が不在の時は貴女が此処に立たなければ…。」

此れまで冷静を装っていたデュレンが釣られてサーラに言葉を投げかける。

「デュレン煩い!後、姫言うな!」

其の言葉が気に触ったのか、サーラはデュレンを黙らせる。

「はいっ!申し訳ありませんっ!!」

そんな三人のやり取りを黙ってみていたロズワルトが…。

「殿下、まさかとは思いますが、ビスパイヤ殿が命を落とした場所へ赴くとか言い出したりしませんよね?」

「「!?」」

「あら、流石ロズワルト、話が早くて助かるわ。」


「ばっ!?馬鹿かお前!!そんな危険な場所に行かせる訳無いだろうがっ!!」

「陛下、少し落ち着いて下さい、話が進みません。」

「う、ぐ!」

ロズワルトに宥められて黙るシリュース。

「それで?其の場所は何処なんだ?」

シリュースの問いに。

「…常闇の森。」

瞳を反らしてボソッと呟くサーラ。

「「「なっ!?」」」

「あ!阿保か!絶対に行かせねぇぞ!?どうしても行くってんなら邪竜騎士団を連れていけ!火竜騎士団もだ!後オッドバルトとギャザーと…!……!………!」

シリュースは其の後、十数人の名前を並べ続けたのだが。


兄様、其れは国の最大戦力ではないですか、戦争をするつもりですか、幾ら何でも無茶苦茶過ぎます。

と、聞きながらサーラは考えていた。

「陛下、いい加減にしてください、殿下、どう云う事か説明して頂けますかな?」


ロズワルトの言葉に頷き、淡々と語り出す。

ビスパイヤが死ぬ直前まで、彼と念和をしていた事から始まり、戦っている相手が地竜であった事、其の地竜が8次席以上で集められた60人もの冒険者達で挑んだが、倒しきれない程に異常な強さを持っていた事等を簡潔に語った後。


「以上の事からレシャーティンが関与している事は間違いない事だとは思うのだけれど…。

奴等の狙いを、私はローゼス王と見ているわ。」

「「「!?」」」

「地竜は彼の好物でしょう?恐らくだけれど、レシャーティンは複数の地竜に欠片…、いいえ、ビスパイヤは塊と言っていたわ、其の塊を飲み込ませている可能性が高い、確実の彼の胃の中に放り込む為と…、一つで足りなかった時の事を予測した上で…ね、其れを食したローゼス王は………。」


「成程、理解は出来るが、そんな簡単に行くものか?8次席以上が揃った、其れも中隊規模の冒険者達が苦戦する様な地竜なんか、見たら直ぐにバレそうなものだと思うんだが…?」


最な意見を言うシリュースにデュレンが頷いているが、サーラとロズワルトの意見は違っていた。


「陛下、其れほどの力を持った地竜ですら、ローゼス王にとっては只の食料でしかない、と云う事ですよ。」

「そう云う事、其れに兄様、この話の一番重要な点は其処では無いわ。」

「ん?どう云う事だ?」


「欠片の巨神の誕生…と云う事よ。」


「「…あ!?」」

シリュースとデュレンは互いに顔を見合わせ、其れが如何に重大な問題であるかと云う事に漸く気付いたのだった。


「そう云う訳なので、常闇の森に行かせて頂きます。」

「駄目だって言っているだろう!其れと此とは話が別だ!!」

「しかし!緊急事態ですよ!?ローゼス王が欠片の巨神に成っていれば!」

「ギュレイゾル卿が居るじゃないか!卿なら何とかするだろうが!」

「魔人と巨神では相性が悪すぎます!押さえる事は出来たとしても!?倒せる事など皆無です!ましてや………!ローゼス王とギュレイゾル卿は………、同朋ハラカラですよ?………………倒せる訳が無い。


…私が、倒します。」


「ぐっ!だがお前は彼処に行けば深淵へ向かおうとするじゃないか!」

「今度は行きません!…だから!」

「駄目だ!認めん!」

「兄様!!」


何方も折れる事無く、平行線の怒鳴りあいに…。

「陛下、殿下も、少し落ち着いて…。」


「「デュレンは黙って…」」「て!」「ろ!」

見事にハモった二人の主人の言葉に黙らざるを得なかった。


「やれやれ、此の緊急事態に君達は何を悠長に口論しているんだい?」

其れは唐突に、何の前触れもなく、何処からともなく発せられた。

其の場に居た全員が、声の聞こえてきた方へ振り向き、近衛兵達は迷う事無く槍を構えて何時でも交戦出来る体制を整える。


そして、王の間に金髪で長い耳をした青年が入って来た。

其の姿を一番近くで、最初に見た近衛兵は…。


「テ、テイルラッド様!?し!失礼致しました!」

と言って矛槍を収め、敬礼をして謝罪の言葉を述べ、其の光景を見た他の近衛兵達も其れに倣って敬礼と謝罪を述べた。

「ん?いいよいいよ、何の許可も取らずに僕が勝手に入って来たのだから、君達の対応は間違っては居ないさ其れより、此処の結界甘くないかい?触れただけで破れたんだけど?」

吹き抜けに成っている王の間には、超が付く程に強力な結界が張られている、王を暗殺から守る為なのだが、此の結界を破る事が出来る人物は世界中を探しても片手で数えても多い程しか居ない。


(((そんな事が出来るのは、多分貴方だけだと思います。)))

近衛兵達はそんな事を心の中で呟いていたと云う…。


「アンタ!?」

サーラはテイルラッドの顔を見た瞬間、彼に詰め寄って行った。

「一体今まで何処で何をしていたの!?メルラーナの事は任せろって言ったのはアンタでしょう!?其れを放置して!お陰でメルラーナは常闇の森なんて危険な場所へ向かう事に成ったのよ!?其れともまさか!此の事態を想定していたとでも言うつもり!?」

「預言者では無いのだからそんな事は出来ないさだけど、此の件に関しては謝罪をさせて貰うよ、本当にすまなかった。」

頭を下げはしなかったが、素直に謝罪するテイルラッドを見て驚くサーラ、正直言って、此の男が負を認めて謝罪する姿等、少なくともサーラは只の一度も見た事が無かったからである。

「あの後直ぐに陛下から帰還する様に命じられてね、ビスパイヤに任せて一度シュレイツに戻る事になったのさ。」


「…そう、シュレイツ王に…、主に呼ばれたのなら、其れは仕方がないわね、けれど、ビスパイヤはもう…。」

「聞いているさ、惜しい人物を亡くしたよあんな、魔法の存在を教えなければこんな事にならなかったかも知れないね其れから、常闇の森には僕が行かせてもらうよ、僕の失態でもあるからね。」




大賢者と呼ばれた男が居た、名をビスパイヤと云う、齢70を超える老人だ、此の偉大なる賢者の死は、後の世に新たなる火種を生む事と為るが、其れはまた別の話である………。




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