第45話 不完全な究極魔法
ビスパイヤの作戦は、超高火力魔法をぶっ放す、と云う単純なモノだった。
更に、何故かメルラーナの力を借りたいと申し出て来たのだ。
皆の力に為れればと思い、メルラーナは快く承諾した。
実の所、ビスパイヤはメルラーナの力を自身の眼でしっかりと見極めていた。
エバダフの街で…。
(あの時、遠くから覗いて居たのが儂と云う事はばれてはおらん様だが。)
喋り方もそうだが、大賢者と呼ばれては居る、世に知られているであろうビスパイヤの姿は、借りの姿なのである。
(あの氷の壁を見た時に、疑問が確信に変わったわぃ、ジルの小僧、嫁の事を儂に黙っておったな。)
「さて、メルラーナ。」
「は、はい!」
急に名前を呼ばれ、ビクッとするメルラーナ。
「はは、そんなに警戒しなくてもよろしいですぞ。」
「はあ。」
「さて、貴女には私が魔法を行使するまでの間、何処でもいいので私の身体に触れておいて頂きたいのです。」
「へ?触れる…んですか?」
魔法の事が一切解らないメルラーナにとって、此の老人が何を言っているのか意味が解らなかった。
「はい、触れるだけでよいです、後は私の方で魔力操作をさせて貰うので。」
………はて?今此の人は何て言ったのだろう?
魔力を私の方で操作する、とか何とか。
えっと、其れはつまり、私の中の有るかどうかも解らない魔力を他人のビスパイヤさんが操るって…事でいいのかな?
…え!?何言ってんの!?此の人!?いやいやいや、理解出来ない、…本当に理解出来ない、そんな事が可能なの!?其れ以前に私に魔力なんてモノが有るのだろうか?
メルラーナはそんな事を考えているが、他人の魔力を操作するのは魔術師にとっては造作も無い事であり、魔力は全てのモノ(・・・・・)に存在しているものである。
(メルラーナの髪の色を見た時に思った、此の娘、もしかしたら奴の血を引いているやも知れぬ。)
メルラーナの澄んだ黒髪は、此のシルスファーナ大陸に住む人間の中では珍しい髪の色だ、東の大陸には黒い髪の人間は左程珍しくも無いが、ナルフィラカス帝国の支配が及ぶ、彼の大陸では人種の方が少ない為、余り参考には為らない。
さて、此の少女はエバダフで自身が作り出した氷の壁を神器が作り出したモノと思っている様だが、実は其れは多少見当違いである、神器・ガウ=フォルネスは少女の持つ潜在能力を引き出しただけに過ぎない、つまり、メルラーナには氷を操る力が眠っていると云う訳だ。
其の力を借りて、儂自身の技術を用いる事で、ある魔法の発動を試みる。
其の魔法は禁呪とされている魔法である、世の中には様々な禁呪が存在してはいるが、其れ等の魔法は秩序が作り出したモノであり、本来の意味での禁呪とは異なるモノである。
今、ビスパイヤが行使しようとしている其の魔法は、真の意味での禁呪であり、究極魔法とも呼ばれる魔法である。
其の禁呪は、全部で四つ存在する、四つの禁呪は、現在、世界中で知られ、実際に行使されている秩序が作り出したと云う禁呪を含む、全ての魔法の根幹を成すモノである。
其の四つの禁呪は、総称してこう呼ばれている。
ヴァストゥール禁呪法………と。
ビスパイヤが眼を閉じて集中し始めると、彼の足元に描いた様子が一切無かったにも関わらず、巨大な魔法陣が浮かび上がる。
今も地竜と激戦を繰り広げている冒険者達も、其の一瞬だけはビスパイヤの方を向いてしまっていた、中でも魔術師達はざわめき合っている。
見た事も無い魔法陣に、いままで感じた事も無い程の巨大な魔力、ワイズマンであるビスパイヤが行使しようとしている其の魔法に、釘づけにされてしまいそうになっていた。
いったいどんな魔法なのだろうか?効果は?規模は?威力は?自分達の全く知らない魔法だ、興味が出ない筈は無い、しかし今は此の地竜との交戦中である事、其れが冒険者としてのプロ意識が戦闘に我を引き戻す、と同時にビスパイヤの邪魔をさせてはならないと云う事を直感で感じ取っていた。
「ぐっ!何と云う悪食じゃ、儂の魔力を一瞬で絞り出してしまいおった!?絶対的な魔力量が足らん事は承知しておったが、此れ程とは。」
魔力は精神と繋がっている為、体内の魔力が空っぽに成ると、通常は意識を失ってしまうものである、故に、魔術師は魔法を行使する際、必ず自身の残存魔力量を測ってから行使している。
「化け物め!!儂が人生を掛けて研鑽してきた演算能力を全て否定された気分じゃ!」
既に膝が笑っている、何時意識が飛んでもおかしくは無い状況だが、ビスパイヤは立ち続けていた。
「じゃが!そんな貴様をねじ伏せれば、此れ程愉快な事は無いわい!」
………
……
…
同時刻、リースロート王国、とある一室。
部屋の中には3人の男女が居り、二人は男性で、内一人は長身で茶色い単発に髭を生やした40歳前後の男性で、全身を赤いフルプレートで纏い、姿勢を正してもう一人と対話をしていた、其の相手は女性で、椅子に座って男性の話を時折頷きながら、真剣な表情で聞いていた。
最後の一人は男性で、青いフルプレートを纏っており、長身の男性の左後方で姿勢を正したまま、二人の話を聞いていた。
「報告は以上です、殿下。」
「ご苦労様でした、ジル。」
一通りの話を終え、ジルと呼ばれた男性は踵を返して後ろに置かれている高級そうなソファーに腰を掛ける。
「だ!団長!?殿下の前でそんな…!?」
「ああ?フィリアお前、城ん中じゃ将軍って呼べって言っただろ。」
「はっ!申し訳ありません!…ではなくてですね!?」
「フィリア。」
フィリアが何かを言い掛けた所で座っていた女性に静止される。
「いいのよ、今は他に誰も居ないのだし、気心知れた仲だけの時位は、ね?私も堅苦しい言葉を使わなくていいのだしね。」
「は、はあ。」
主にそう言われ、何も言う事が出来なく成ってしまった。
「其れに、此の国で言えば私の方が立場は上かも知れないけれど、世界から言わせればジルの方が立場は上でしょう?」
メルラーナの父親である此の男、ジルラード=ユースファスト=ウルスは、闘神とも呼ばれている、誰もが知っているて、大勢の人々が憧れ、目指す程の有名人なのだ。
「まあ、世界的な立場云々は関係無いでしょ、俺にとっちゃ、リースロート王家に仕えている訳ですからね、だから態度はこんなんでも、やっぱり殿下の事はちゃんと、
「むぅ、まあ良しとするわ。」
両頬を膨らませ、少し拗ねている。
「其れよりもフィリア、お前は何処までも堅物過ぎるんだよ。」
ジルラードは自身の部下であるフィリアに指を指してゲラゲラと笑っていた。
「あら?貴方にも言っているのだけれど?ジル。」
「へ?」
援護を受けていた人物が急に矛先を変えて来た事に脳が追い付かず、間の抜けた返事を返してしまうジルラードだった。
「貴方とフィリアが共に行動する時って、殆どが城と外でしょう?当然外では団長と呼んだ方が色々と面倒が無くていいのだと思うけれど、偶にしか会わない城の中だけは将軍と呼べって言うのはねぇ?いや、ジルの言っている事は正しいのよ?実際に立場上は将軍って呼ばせておかなければならないのだし、正しいのだけれど、『じゃあ貴方も立場を弁えなさい。』って成らないかしら?」
「うっ!?ぐっ!?た、確かに…!」
急所を突かれた様な気分に成ってしまった。
「まあ、フィリアはフィリアで、部屋から出たらちゃんと将軍って呼ぶように、ね?」
「はい!」
女性に敬礼をするフィリアを見て微笑む。
「クスクス、…!?」
ガタッ!!
先程まで微笑んでいた女性は、急に表情を一遍させ、大きな音を立てて椅子から立ち上がる。
「「殿下!?」」
「…此の感じ、………誰かが禁呪を使おうとしているわ。」
「「!?」」
禁呪と聞いてジルラードもソファーから立ち上がる。
「禁呪って!ヴァストゥール禁呪法の事ですか!?」
ジルラードが発した言葉にフィリアが反応する。
「馬鹿な!?殿下とシュレイツの宰相閣下以外であの禁呪を行使する為の魔力量を扱える者が居ると云うのですか!?」
「解らない、あの魔法を行使する為の魔力量を集める事が出来る技術を、テイルラッド以外に持っている者が居るとすれば。」
「ではテッドの旦那の可能性って事は?」
ジルラードが思った事を口に出してみるも。
「それこそあり得ないわ、………ぁ!?」
何かに気付くサーラ。
「殿下?」
居るわ、彼以外にあれを行使出来る為の魔力操作が可能な人物、…此の魔力の感じ、間違いない。
「ビスパイヤ?」
「え?ビスパイヤ様?」
「成程!ビスパイヤ殿なら或いは!」
………
……
…
『ビスパイヤ!?貴方!何をしているの!?』
『!?王女殿下!?』
『状況を報告しなさい!』
『申し訳ありません、今は時間が有りませんゆえ簡潔に申し上げます。』
禁呪の発動を中止する訳にはいかない、が、主の命令に逆らう訳にもいかない。
『地竜が欠片を摂取させられたと思われます、いえ、欠片と呼ぶには再生能力や身体能力が欠片よりも異常に上昇している様に見られます、其れに体格に対して小さすぎるかも知れません、塊…ではないかと思われます、欠片のモンスターで在れば、60人の8次席以上で編成された此の中隊で苦戦するなど有り得ない。』
『そう、解ったわ、今すぐ魔法の発動を中止して、貴方の今居る位置を教えなさい。』
『!?』
此の場所を教えれば、王女殿下為らば空間転移で此処まで移動して来る事は容易いであろう、が。
『お教えする事は出来ませぬ。』
『な!?』
『主を危険な場所へ誘う等、臣下の恥であります。』
『そんな事は無い!貴方はまだ我が国に必要な人物よ!?』
『はは、有りがたいお言葉ですな、ですが水龍騎士団が有れば、儂一人等、只の年老いた老人ですぞ。』
『そんな事を言っているんじゃ無い!!』
『!?』
…王女殿下は、臣下に対して余り叱責しない御方だ、曰く、説教をして本人の行動に制限を掛けるよりは、褒めて伸ばす方が成長に良いのだとか。
しかし、其の王女殿下が今、儂の行動に対して怒っておられる。
「ああ、そうか、此の魔法を行使すれば、儂は死ぬのか………。」
思わず小さく呟いてしまった。
そして、決意は固まる。
「………え?」
ビスパイヤは魔法の発動と念話に集中していた為、メルラーナが傍に居た事を忘れていた。
(しまった!?口に出してしまったか!?)
しかし、もう止める事は出来ない、魔力の絶対量が足りていない為、此の禁呪は不完全なものと成るだろう、だが其れで良い、完全な魔法で在れば、今の魔力量でも、其のまま放てば此の地下大神殿を確実に消し炭に出来るであろう、だからこそ、及ぶ範囲を儂の人生全てを注ぎ込んで積み上げて来た演算能力で極限までに収束させる。
「…今、死ぬって?」
「聞き違いじゃろう?儂は死なんよ?」
「で、でもさっき!」
ああ、此の娘にも心配させてしまったな、良い娘じゃないか、ジル、お前には勿体無い程に良く出来た娘だ。
『其のお言葉だけで十分です。』
儂は、貴女様に御仕え出来て良かった、王家では無く貴女様に。
『願わくば王女殿下、貴女様に背負わされた其の
『…っ!?ビスパイヤ!止めなさい!此れは命令よっ!』
『儂の此の思いは、今、儂の隣で、儂を支えてくれているメルラーナに託すとしましょう。』
『ビ…パ……!!………っ!!』
何かを叫んでいるが、ビスパイヤは魔法の発動に集中をする為に念話を一方的に切った。
「サーラ王女殿下、末永く……健やかに……。」
『アークレイス・コキュートス。』
其の直後、メルラーナの視界は真っ白に覆われた………。
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