第42話 地下大神殿・第二層
探索二日目。
地下大神殿第二層の探索を行っていた。
見た目は一層と殆ど変わらず、巨大な空洞を掘り、人口建造物を組み込んだ作りに成っている、但し一つ違う所が有る、一層では只の石だったのが大理石に変わった事か、そして、やはりと云う冪か、一つ一つの通路から部屋に至るまで、一層と同様の広い空間を設けられていた。
一層では其の理由が解り難かったのだが、二層に来ると先にアンバーが言っていた言葉の意味を思い知らされる事となる。
ズゥゥゥゥンッ!………ズゥゥゥゥンッ!
此の部屋ではない、部屋の外、何処か遠い場所から何か重たい物を地面置いた様な、全身に振動が響き渡る様に。
ズゥゥゥゥンッ!………ズゥゥゥゥンッ!
と一定の律動が部屋中に鳴り響いている。
「…皆、窓の外だ、下を見てみな。」
広すぎて気にならなかったが、此の部屋には窓が設けられていて、外の様子が伺える様になっていた、第五部隊の一人が其の窓から外を見下ろしている。
「よし、警戒は怠るな、各隊の間隔を空けて窓際に寄れ、一時的に陣形を変更する。」
ガノフォーレの号令で全員が周りを警戒しつつ、窓に寄って各々が窓の外を伺うと。
「………何あれ?」
メルラーナは思わず呟いてしまう。
窓の外は建造物の様な物は無く、途轍もなく広い洞窟に成っていた、洞窟内部は赤く光っていて、其の全体像がはっきりと確認出来る様になっている、赤い光の正体は地面を流れる赤い液体状の溶岩による光で、まるで工房を思い出させる様な熱気を帯びていた、窓の有る部屋から溶岩の流れている洞窟の地面までは数百メートルはあるのだが、其れでも其の熱気は部屋の中にまで到達している、それだけ下の洞窟内部が熱気で覆われていると云う事だろう。
しかし、メルラーナが言葉を発した理由は其処では無かった。
ズゥゥゥゥンッ!………ズゥゥゥゥンッ!
其処には四足歩行の爬虫類の様な生物が、一歩、又一歩と一定の間隔を取りながら、ゆっくりと、しかし力強く、轟音とも呼べる程の足音を立て乍ら歩いていた。
「大きい。」
「あれは地竜なのだ。」
隣に居たサイレルがメルラーナに聞かせる様に語り掛ける。
「地竜?………って!竜!?」
「そうなのだ、種族の系統別で云う為らば飛竜と同種なのだが、見ての通りの身体の大きさと、戦闘能力に置いては飛竜の其れとは比較に成らぬ程なのだ。」
あれが竜か、大き過ぎる、列車の3両分位の大きさは有るんじゃないだろうか?まさかとは思うが、アレと戦わなきゃいけないのだろうか?まあ最近、私何もしていないけど。
「アレと戦う事は想定していた方が良いだろうナ、彼奴の這っている場所は三層に聞く為には通らなければならなイ。」
マジでか!?アレと戦うのか!?
「前の時は居なかったな、只遭遇しなかっただけなのか、其れとも侵入者を警戒して配置されたのか。
何方にせよ、戦う為の準備を怠らない様にする冪ではあるな。」
ガノフォーレはあの地竜との戦闘を想定している様だ。
出来れば鉢合わせたくはないなぁ、等と考えていると。
「大丈夫だメルラーナ、此れだけのメンツが揃っていて地竜如きに遅れを取る事等有り得ん。」
アンバーがメルラーナを諭す様に語り掛けて来る。
…アレを如きと呼べる9次席とはいったいどれほどの実力を持っているのだろうか?何か次元の違う話を聞いている様だ。
「…此処から降りれば近道出来るんじゃ?」
突拍子の無い事を提案してみる。
「いい案ではあるが、身体一つならまだしも荷物が有る上に、あの地竜の襲撃を受けないと云う保証も無い、其れにまだまだ先は長い、こんな所で負傷している場合ではからな、此処は安全に行く方がいいだろう。」
棄却されてしまった。
地竜を見下ろせる部屋を出ると、大理石の建造物が遥か先まで続く通路に出る、相変わらずの巨大な柱が両側に並んでおり、目に見える範囲だけでも片側だけで数十本もある、其の柱や壁、更には床や天井は、薄っすらと淡い光を放っていおり、通路全体が見渡せる程度の灯りが灯されていた。
通路を歩いていると、ふと柱にメルラーナが装飾が施されている事に気付く。
「あれ?さっきまでこんな紋様あったっけ?」
よく見ると柱だけで無く、壁にも此れまで見かけなかった装飾が施されている。
紋様?何で模様じゃなくて紋様って言ったんだ?私?
自身で発した言葉に疑問を浮かべる、其の疑問は直ぐに解消された。
「ああ、デューテ御爺ちゃんの所で見た紋様と似てるんだ。」
………はて?あれって確か………。
「魔法陣じゃ?」
「ほう?メルラーナは博識なのだな、その通りなのだ、壁や床、柱や天井に至るまで張り巡らされた紋様は、間違いなく魔法陣なのだ、そして其の魔法陣は此の灯りを灯す効果を発しているのだ。」
成程、此の光は魔法陣によるモノだったのか。
一瞬何かの罠だと思ったのだが、其の心配はする必要が無いと云う。
「此の大神殿は魔人が地上と地下を行き来する為の路ダ、そんな只の路に罠を仕掛けていたら自分達の身も危うくなるだろウ?だから罠なんてモノは此処には無いのサ。」
ベノバがそう言うと、突然何かを睨み付ける様に前方を凝視した、続けて。
「その代わりニ、ああ云う大型のモンスター共が放たれているんダ。」
ベノバの視線の方向を確認すると、まだ遠いが、緑色の肌をした人型のモンスターが、視認出来るだけで4匹、通路の幅と、柱の大きさから比較すると、其の身長は優に6メートルは超えている、恐らく4体だけでは無いだろう。
「オーガか!」
オーガ?遺跡でジェフさんと一緒に戦ったモンスターと同じ?にしては大きい様な気が…。
「デカいナ、通常のオーガの倍はあるゾ、数は5…6…7体ダ!」
此のオーガも此の場所に適応して大きくなったのだろうか?
「どうすル!?戦うカ!?」
ベノバがアンバーを通してガノフォーレに判断を仰ぐ。
「待て、前にもオーガ達と交渉した記憶がある、彼等は確か二層の一部の領域を護っている守護者の様な存在だった筈だ、7体と云う事は警邏中なのだろう、絶対に此方から手を出すんじゃないぞ、オーガとはいえ彼等は古代種だ、戦えば此方にも被害が及ぶ事は間違いない。」
古代種って何?只のオーガじゃないのか?いや、確かに大きいけども。
太古の昔から其の姿を変える事なく現在まで生き続けている生物の事を古代種と呼ぶ、進化して来た新種とは違い、生息域に条件が無く、高い知能を持ち、言葉を話す種も居ると云う、更に其の戦闘能力は新種を遥かに凌駕している。
「やあやあ、其処に居られる方々は屈強な戦士で在らせられるオーガ殿ではないですかな?」
…いったい誰だ?アンタは?
何時もと口調が違うガノフォーレに、メルラーナは心の中で突っ込みを入れる。
「何だオーガ?人間かオーガ?」
10体は居るオーガの中で、ひと際大柄で鍛え抜かれたで在ろう肉体をしたオーガがガノフォーレに応対する。
「はい、人間です。」
「人間がこんな場所に何の用だオーガ?」
「実はギュレイゾル卿に御会いしたく参上致しました次第でありまして。」
「ほう?卿にオーガ?」
…今のはひょっとして『卿に会いにねぇ?』みたいな意味で言ったのだろうか?
「人間が卿に会う等、自殺行為オーガ、死に来たのかオーガ?………いや、違うオーガな、お前達、只者じゃないオーガ。」
「!?」
此方の実力を測られたか!?只者じゃないなんて、よく言う、お前等の方がよっぽど只者のオーガじゃ無いぞ。
ガノフォーレの頬に一筋の汗が流れる。
オーガ如きに遅れを取る等微塵にも思っては居なかったが、相手に実力を測れる程には強いと云う事か、しかし交渉は出来そうだ。
「買い被りですよ、別に争いに来たと云う訳ではありませんよ、彼等と戦っても此方に何の得もありませんし、万が一戦ったとしても勝てる等微塵にも思っていません。」
「ふむ、だがそう簡単に先へ行かす訳にも行かないオーガ、オーガ達は此の領域、二層全てではないオーガが、卿に任されているオーガ。」
此のオーガ達は二層の一部の場所を護っていて、此処を通る者達を通すに値するかの選別をしている、安全に通るには此のオーガ達に認めて貰わなければならないのだが、大抵は認めて貰える事が無いので危険な路を通る事となる。
「前に一度通らせて頂けた事があったのですが…。」
「ふむ?覚えていないオーガ、しかし今は時期が悪いオーガ。」
今はって、ひょっとして…?
「あの、それってリゼの…。」
メルラーナがガノフォーレとオーガ達の会話に割り込もうとすると。
「待てメルラーナ!」
ガノフォーレに止められる、が、リゼがオーガ達の前に出てきてしまった。
「え?」
「???」
メルラーナは止められた事に対して疑問の表情を浮かべ、リゼは小首を傾げて不思議そうにそんなメルラーナとオーガ達を見比べている。
「…其の方は、リシェラーゼ様かオーガ?」
一人のオーガが発した其の名前に、他のオーガ達が騒ぎ始める。
「卿のご息女のオーガ?」
事態が事態なだけに、語尾にオーガが付いているせいで、ご息女がオーガに聞こえるのはこの際置いておく事にしよう。
「人間に攫われたと云うオーガか?」
うん、置いて置きたいんだけど、笑いが込み上げて来そうだ。
「………貴様等が攫った張本人かオーガ!?」
此の瞬間、メルラーナは何故ガノフォーレに止められたのかを理解した。
…あ、此れ駄目なやつだ。
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