第13話 旅立ち

町に戻った一行はギルド長達に労いの言葉を掛けられ、豪華な食事と暫しの休息を貰った。


メルラーナは広い会食場の隅で壁に背中をもたれさせ、ソフトドリンクの入ったコップを手に持って一人静かに佇んでいた。


「やあ、メルラーナさん。」


「ジェフさん?」


そんなメルラーナを見かねたのか、ジェフに声を掛けられる。


「浮かない顔だね?」


「あはは、そうかな?でもジェフさんこそ。」


虐殺シーンを目の当たりにした二人には、歓迎されている事を素直に喜べなかった。




あの男の人達は何者だったのだろうか?自分達の事を語っては居たが、実際の所、何を言っていたのか全く理解出来ては居ない、お父さんはあの人達の事を知っている様だったけど。


メルラーナは自身の手をジッと見つめる。


「君は何か知ってるのかな?」


ガウ=フォルネスに話し掛けてみるが、当然の事乍ら返事が返って来る事は無かった。


そう云えば、君を狙ってたっぽい事を言ってたけど、お父さんは自分を嵌める罠って言ってた。


「………お父さん、大丈夫かな?」


本当、訳が解らない事ばかりだ、頭が痛くなってくる、お父さん、リースロート王国のサーラさんって人に会えって言ってたな、其の人に会えば全て解るって。


どれ位考え事をしていたのだろうか。


「…此れから、どうするんだい?」


「え?あ、えっと。」


此の後の事を言っているのだろうか、其れとも進む冪先の話をしているのだろうか、何となくではあるが思った事を口にしてみた。


「…うん、お父さんにリースロートへ行けって言われたから、行ってみる。」


「師匠が?…そうか。」




「…リースロートへ行くなら此の国の王都より、隣国のソルアーノから行った方が早いよ。」


「そうなの?」


「トムスラルからリースロートへの直接定期便が無いからね、此処から列車に乗ってソルアーノの首都まで行けば、リースロート行きの飛行船が出てるよ。」


「そっか、有難う、明日朝一で行ってみる。」




…少し、沈黙が流れ。




「ジェフさんは?此れからどうするの?」


「………、そうだな、今は、ギルドを立て直さないとな。」


「ギルドを?」


「大勢の命が散ったんだ、立て直すのは容易じゃないだろうけど。」


「…。」


「其の後は、いや、其の間もだけど、今よりもっと強く成らないと、あの男を倒す為に。」


そう言ったジェフの横顔は、怒りに満ちた表情をしていた。




この話は駄目だ、話題を変えよう。




「…そういえば!ジェフさんってお父さんのお弟子さんなんだよね?他にもお弟子さんって居るの?」


ふと思う出した様に訪ねてみる。


「いいや?師匠は元々弟子を取るような人じゃ無かったよ、俺は何年も頼み続けて、要約弟子入りさせて貰ったんだ。」


「へー!そっか、お父さん、変な所で頑固だもんね。」


「嫌だ、面倒臭い、断る、他を当たれ、其の単語をずっと言われ続けてたよ。」


「あはは、お父さんらしいね。」


「ガキはガキらしく、お母ちゃんに甘えとけばいい、って言われた事も有ったな。」


「え?ガキ?…ジェフさんって、何時からお父さんの弟子に成ったの?」


「ん?10年程前かな?」


「え?じゅ、10年!」


10年前、何か引っかかる事が有ったのか、少し間が空いて。


「え?ジェフさんて、今いくつ?」


「え?23だけど?」


「という事は、10年前だと13歳、私は5歳で、………私、ジェフさんと会った事有る?」


何となくだが、小さい頃に誰かが家に寝泊まりしていた事があった事を思い出す。


「へ?…ああ、そういう事か、有るよ、俺が15の時だけどね、師匠が長期休暇が出来たからって、2カ月程かな?師匠の家で寝泊まりしてた。」


「!!?…やっぱり!?あの時の!?毎日お父さんにフルボッコにされてたお兄さん!?」


「フルボッコって、いや毎日では、流石に無いけどね、うん、そういう覚え方か、ははは、納得。」


明後日の方角を見乍ら空笑いをするジェフを見て。


「あうあう、ご、ごめ…。」


失言してしまったと思い、必死に弁解し様としたが、言葉に成らず。


「ぷっ、あははははっ。」


「え?えー?」


何時の間にか、表情が柔らかく成っていたジェフが、突然笑い出した。


「ぷっ。」


それに釣られて、メルラーナも笑い出す。




「「あははははっ」」




「帰って来たら、お父さんの知らない事、色々教えてね?」


「応、解った、気を付けてな?」


「うん。」




………


……





メルラーナはその場を後にし、家路への帰路に着く。家に帰って来たメルラーナは明日の為に早速、簡単な旅支度を始める、身体の負担に成る荷物は極力少なくして、幸い仕事で貯めたお金は2カ月程なら食事や寝床に困らない位あるし、きっと直ぐ帰って来るだろうと思い、部屋はそのままの状態にしておいた。




翌朝、列車に乗る為に、駅へ向かう途中、見覚えのある白衣を見つける。


「あれ?カルラさん?」


思わず声を掛けてしまった。


「ん?ああメルラーナさん!良かった、帰る前にお礼をしときたかったんだけど、朝早くに出発するつもりだったから、もう会えないかと思ったよ。」


そうだ、昨日はジェフさん以外の人に何も言わないで出て来てしまった。


「あ、御免なさい、昨日は。」


昨夜、そっと会場から居なくなった事を謝罪する。


「いやいや、謝られると困る、メルラーナさん、本当に、色々と有難う。」


カルラは感謝の気持ちを伝えて来るが、素直に受け取る事が出来ず。


「ううん、あんな事に成っちゃったし、巻き込んだ様なものだよ。」


昨日の出来事を思い出し、少し俯いて暗い表情をするメルラーナに。


「いや、あれはあの場に居た誰もが想定出来なかった。」


こう云う体験をした事があるのだろうか、カルラもう吹っ切れて居る感じだった。


「でも…。」


「でも、は無し、俺達は生きてる、生き残ったんだ、彼等の分まで生き続けなきゃ、な?」


少し間が開いて。


「………うん。」


と心に何かを止めた様に引き締めて返事をする。




「そう云えば、君が帰って暫くしてからかな?エアルさんがひょっこり顔を出してさ、戦いの衝撃で遺跡が崩壊したとか言ってたよ。」


空気が重く成ったのを振り払う様にカルラは話題を変えて来た。


「え!?」


エアルさんって、あの女の人?無事だったんだ。


「何か良く解らないけど、ジェフさんに突っ掛ってたな、何だったんだろ?」


「お、お父さんは?」


エアルが無事だった事に安心すると、今度は無理矢理抑え込んでいた父親の無事を無性に気に成り出した。


「ああ、その場には居なかったな、急用が出来たとかで、エアルさんをほったらかして何処かへ行ったらしいけど?俺も後で聞いてびっくりしたよ、彼の英雄が助けに来てくれてたなんて、見たかったな。」


「そっか、無事なんだ。」


ほっと、胸を撫で下ろす、にしても、お父さんが英雄か、何か想像付かないな、何時の間にか駅に辿り着いていた。


「おっと、いけない、見送りは必要無かったんだけど。」


見当違いな事を言っているカルラに。


「え?ああ、違うよ?私もソルアーノに行くの、首都まで。」


「…はい?………そうか!見送りをして貰ったと思ってしまった、あはは。」


照れ隠しだろうか、空笑いをしている。


「あはは。」


「首都までか、なら途中までは一緒だね。」


「そうなんだ?ん?途中までなの?」


ソルアーノ国の学者だったら首都に行くものだと思い込んでいたメルラーナは思わず聞き返す。


「うん、俺が通っている学校は王都より4つ手前の街なんだ。」


「へー、学校、学校!?」




(何か、驚いてばっかりで疲れた。)




自身の中に宿ったガウ=フォルネスと云う名の何か、謎の男達、モンスターの身体を覆っていた黒い霧、父親が会って来いと言い残したサーラと云う人物。


何も解らないまま、しかし、其の何かを知る為に、世界へ放り出された少女の旅が今、始まった。










第一章、旅立ち Fin

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